内容 |
①規範的要件の意義
(a)具体的に特定されていない概念が法律の要件とされている場合に、これを規範的要件といいます。
(b)例えば民法第1条第3項の「権利濫用」、民法90条の「公序良俗」、民法790条の「過失」の如くです。
(c)規範的要件の場合、要件事実と間接事実とを必ずしも明確に区別できないことがあります。
②規範的要件の内容
(a)特許出願に係る発明の特許性に関しては、進歩性の規定のうちの「容易に」は規範的要件であると考えられます。
(b)規範的要件の要件事実に関しては、「容易に発明できた」という評価そのものが要件事実であるという考え方と、その評価を根拠付ける具体的事実が要件事実である考え方とがありますが、後者が現在の主流となっています。
何故なら、前者の場合には、例えば裁判で進歩性を否定する側の当事者は、技術の専門家を証人として“この発明は容易に発明できた”と証言させればよいことになり、都合が悪いからです。
(c)後者の考え方では、進歩性を肯定的に評価すべき事実(評価根拠事実)と、進歩性を否定的に評価すべき事実(評価障害事実)とをそれぞれ考慮します。
(d)特許出願の実務では、特許出願人の発明に特有の効果(特に顕著な効果)は進歩性を肯定的に評価する材料となる(進歩性審査基準)とされていますが、これは“評価根拠事実”に相当します。
(e)他方、引用文献同士の組み合わせにより特許出願人の発明を否定できる場合には、その組み合わせの動機付けとして、技術分野の共通性、課題の関連性、作用・機能の共通性、引用文献中の発明に対する示唆を考慮する(進歩性審査基準)とされていますが、これらは“評価障害事実”に当たると考えられます。
(f)規範的要件の場合には要件事実と間接事実との境が必ずしも明瞭でないという問題点があります。
これが何故問題かといえば、弁論主義の原則の原則の一つとして「当事者が主張しない事実は、裁判の基礎としてはならない。」ということがありますが、間接事実に関しては裁判所は証拠があれば当事者の主張に縛られないので、当事者の予測していない理由で判決が出される可能性があるあらです。
→間接事実の取り扱い(規範的要件の場合)
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