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830 用途発明C4/進歩性審査基準/特許出願 |
体系 |
実体法 |
用語 |
用途発明のケーススタディ4(発明の機序・否定例) |
意義 |
用途発明とは、或る物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見い出すことに基づく発明をいいます(進歩性審査基準)。ここでは用途発明における発明の機序(メカニズム)が新規性・進歩性の判断において否定的に評価された事例についてケーススタディします。
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内容 |
@事例1
事件番号:平成23年(行ケ)第10148号
事件の種類:拒絶審決取消事件(審決取消) 事件の争点:用途発明の新規性・併用医薬の発明の成立性と発明の機序
〔発明の名称〕医薬
〔事件の経緯〕
(a)被告は、先の特許出願(出願日;平成7年6月20日)に基づく国内優先権を主張して「医薬」と称する特許出願(特願平8−156725号)をし、本件特許(特許第3148973号)を取得しました。
(b)原告は、本件特許の請求項1ないし16、18ないし30及び32ないし44について、特許無効審判を請求し(甲28)、無効2010−800087号事件として係属した。これに対して、被告は、同年7月27日、訂正請求をしました。
(c)特許庁は、平成23年3月22日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」旨の本件審決をし、その謄本は、同月31日、原告に対して送達されました。
〔特許権の請求の範囲の記載〕
(1)ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と、(2)アカルボース、ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬
〔事件の争点〕
(a)本件発明の医薬は、(i)インシュリン感受性を増強すること、(ii)糖の消化を遅延させて血糖値の上昇を抑えること、(iii)インシュリンの分泌を促進することという、作用原理(或いは発明の機序)が全く異なる3種類の糖尿病薬を併用し、それぞれの機序による作用の発現を利用して、糖尿病を治療するものです。
(b)引用例3には本件特許発明の構成がほぼそのまま記載されていましたが、それは将来の糖尿病治療の可能性を論じたものであり、作用効果のデータなどはありませんでした。
(c)審決は、引用例3に記載の併合医薬の成立を認めませんでした。組み合わせの医薬に関して“実際の効果については現実に使用してみなければ分からない”からです。
(d)しかしながら、裁判所は、“糖尿病の薬物療法においては、薬理効果の作用機序が異なる医薬を併用使用することにより、各医薬の持つ作用の発現によって治療効果を高めていることは、一般的に行われている”ことを証明する特許権者側の証拠を採用し、新規性を否定しました。
このケースでは新規性の判断として発明の作用機序の相違が問題となりましたが、進歩性の判断でも作用機序は判断要素の一つとなります。
→用途発明のケーススタディ5(発明の機序・否定例)
〔コメント〕
特許権者側の主張が認められた理由は、その主張を証拠により十分に立証したからです。特許出願時の技術常識を超えて“薬理効果の作用機序が異なる医薬を併用使用することにより、各医薬の持つ作用の発現によって治療効果を高める”ことが一般論として認められたわけではないことに留意を要します。
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