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①請求の理由の意義
(a)審判制度の下では職権主義が採用されており、審判官は、無効審判の主張しない理由についても職権で審理を行い、無効とすることができます。
(b)しかしながら、単に特許無効審判人が“この特許は、特許出願の日前に新規性を喪失した発明に基づいて容易に発明できたものだから、特許法第29条第2項(進歩性)違反に該当し、無効となるべきです。”というような理由だけを主張し、その主張を裏付ける事実を何ら示していないときには、審判官はどこから審理に着手してよいかも判りません。
すでに特許出願の審査段階で、新規性・進歩性などを含む実体的要件に関して審査官が審理を行い、拒絶理由が見当たらないとして特許になった筈だからです。
(c)そこで平成10年改正及び同15年改正において、「特許無効審判を請求する場合における前項第3号のに掲げる請求の理由は、特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し、かつ、立証することを要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない。」旨の規定(特許法第131条第2項)が定められました。
②請求の理由の内容
(a)“特許を無効になる事実”とは、例えば特許出願の審査段階で特許出願人の発明と引用例1の発明との一致点は、要件A+Bを有すること、相違点は前者が要件Cを有するのに対して後者は当該要件を有しないと事実認定され、当該特許出願に許可処分(特許査定)がなされた場合に、無効審判請求人が見つけた要件Cを有する先行技術2を引用例1に適用することで当業者が容易に当該発明に到達できると主張する如き場合です。
(b)もっとも当該特許出願の明細書に記載された、あまり一般的でない発明の課題を手掛かりに要件Cを有する先行技術2を発見した場合には、事後分析(いわゆる後知恵)的な手法と判断されかねません。従って2つの文献1,2を組み合わせることが容易であるとの論証を十分に行う必要があります。
(c)もっとも無効理由の中には、特許出願人(或は特許権者)でなければ事情がよく分からないものがあります。たとえば特許出願が真の発明者或いはその承継人により真正に行われたかどうか(冒認出願でないかどうか)です。
(d)このため、特許法第131条第2項の「具体的に特定する」に関しては、特許無効審判の審決取消訴訟において無効審判請求人側に立証責任等を課すものではない、と特許庁は解釈しています。
→立証責任とは
(イ)具体的には、特許庁 「平成15年改正後における無効審判等の運用指針」(p.297)には次のように述べられています。
(ロ)「平成15年改正で導入された特許無効審判の請求理由の記載要件の規定は、立証責任や主張責任の分配構造に関する規定として導入されたものではなく、単に被請求人の対応負担の軽減と迅速な審理の確保を目的としたものである。すなわち、無効審判を請求するに当たって請求理由として掲げる『特許を無効にする根拠となる事実』について、審判請求人に立証責任や主張責任を負わせることを目的とする趣旨のものではない。したがって、請求理由の記載要件を満たすために、審判請求人が審判請求書において『特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し』かつ『立証を要する事実と証拠との関係を記載』しなければならないとしても、そのことによって、その事実について真偽不明の場合に無効審判請求人が立証責任の不利益を被るということはない。同様に、請求理由の記載要件を満たすために、審判請求人が『特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定する』ことが必要であるにしても、この規定により、その事実についての主張責任が無効審判請求人側に存在するということにはならない」
→主張責任とは
③より一般的な請求の理由の解説に関しては下記を参照して下さい。 →請求の理由とは(審判請求書の)
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