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@無効調査の指針の意義
(a)無効調査の欄で述べた如く、本件特許発明と発明特定事項が一部類似している先行技術(特許出願前に頒布された刊行物など)をただ漫然と集めても、裁判官はなかなか特許が無効であると判断してくれません。もちろん全部の要素を備えた先行技術を見つければよいのですが、それはさすがに簡単ではありません。
(b)例えば要素A+B+C+Dからなる特許発明に対して、特許出願の新規性を喪失した、要素A+B+Cからなる発明、技術Dをそれぞれ見つけても両者を組み合わせるためのストーリー(論理付け)がなければ、結局裁判官を納得させることができないことが多いからです。
かつては、同じ技術分野において、要素A+B+Cからなる発明及び技術Dを見つければ両者を組み合わせることを妨げる事情(阻害要因)がない限り、技術分野が同一であることが組み合わせの動機付けとなるので、両者を組み合わせることは容易であるという考え方(→同一技術分野論)もありました。
しかしながら、現在では、2つの技術を結び付ける効果(或は作用・機能)、課題の関連性が重視されます。
(d)なお、進歩性審査基準は今も技術分野の同一性を動機付けとして掲げられています。これはこれで機能的に独立した物の単なる組み合わせ(ラジオとCDプレーヤーなど)を排除するために必要なのですが、特許出願の審査を経て特許されたものを無効に導くためには、それだけでは足らないことが負いのです。
@無効調査の指針の内容
(a)例えば進歩性審査基準では次の事例が
〔本願発明〕 表面に付着する水を逃がすために、カーボン製ディスクブレーキに溝を設けたもの。
〔引用発明1〕カーボン製ディスクブレーキ。
〔引用発明2〕表面に付着する埃を除去する目的で、金属製のディスクブレーキに溝を設けたもの。
〔進歩性を否定するための論理づけ〕引用発明1のカーボン製ディスクブレーキにおいても、表面に付着する埃が制動の妨げになることが、ブレーキの一般的な機能から明らかであるから、このような問題をなくすために引用発明2の技術に倣ってカーボン製ディスクブレーキに溝を設けることは、当業者が容易になし得る技術改良である。
(b)前述の事例では、「表面に付着する埃を除去する目的」という課題が2つの引用文献を結び付ける要になっています。
そこで調査対象である権利の特許出願の経緯を調べて、新規性・進歩性欠如の拒絶理由通知がでていたら、その主引用例を選び出します。これを特許発明と比較し、進歩性審査基準の例に倣って、不足する発明特定事項及びこれを主引用例と組み合わせる動機付けを含む一つの副引用例を想定し、これを探し出すというのが、最も特許を無効に導くのに有効な資料となります。
(c)調査対象は特許請求の範囲に基づいて行いますが、発明の内容や発明の技術分野によっては実施例の検討が重要となります。
→無効調査と実施例
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