パテントに関する専門用語
  

 No: 268   

進歩性審査基準(特許出願の要件)/同一技術分野論

 
体系 実体法
用語

同一技術分野論

意味  同一技術分野論とは、特許出願に係る発明の進歩性判断において技術分野の共通性を重視する考え方です。


内容 @同一技術分野論は、平成11年頃から特許出願の進歩性判断の便利なツールとして、審査の現場で広まりましたが、次第に本来あるべき形からずれた使い方をされるようになり、現在ではハインドサイト(後知恵)を生ずる可能性を指摘されることが多くなっています。
 
A同一技術分野論の基本的な考え方は次のようなものです。

特許出願に係る発明Aに最も近い先行発明A(主引用例)を同一技術分野から探す
    ↓
特許出願に係る発明Aと先行発明A’との一致点と相違点(α)とを認定する
    ↓
相異点αを開示する副引用例を同一技術分野から探す
    ↓
副引用を発見したら組み合わせ阻害要因を探す
    ↓
組み合わせ阻害要因がないときには進歩性なしと認定する
(同一技術分野で引用例が見つからないときには別の動機付けを探す)

A進歩性審査基準では、引用例から特許出願に係る発明へ到る動機付けとなり得るものとして、技術分野の同一性、発明の課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆を挙げています。

B同一技術分野論の第1の問題点は、主引用例と副引用例とが同一技術分野で見つかると、引用例同士を結び付ける動機付けや示唆が十分吟味されることなく、問答無用で進歩性を判断されてしまうことです。事後的に考察して進歩性の有無を判断することになるからです。本来知らない筈の目的地に向かおうとしているのか合理的な説明が必要です。

C同一技術分野論の第2の問題点は、実務上、厳密な意味で同一技術分野に属しない場合でも技術上の共通性があるときには、引用例同士を組み合わせる動機付けがあると扱われてしまうことです。仮に同一技術分野論を適用するならばその同一技術の範囲はごく限られた発明の範囲であるべきことに特許出願人は留意すべきです。
→同一技術分野論の問題点

D例えば、鉛筆の断面積を多角形として転がりにくいようにした発明Xと、鉛筆の端に消しゴムを付けて利便性を高めた発明Yとを組み合わせることは、技術分野の共通性だけを動機付けとして進歩性を否定してもそれほど不合理ではありません。しかしながら、技術分野の共通する範囲が“鉛筆”、“筆記具”、“文房具”というように広がっていくほど、論理付けの合理性には不備を生ずる可能性が高まります。

E同一技術分野論の第3の問題点は、同一技術分野の文献であっても、副引用例を組み合わせるのが容易ではない場合があることです。→非特徴的事項との組み合わせの問題点

留意点 Cに関して、一応“同一の技術分野”であるとしても妥当であるように見えて実はそうではない場合があるのと同様に、一見して全然別の技術分野に見えながら技術分野の同一性を認めるべき場合(例えば錠剤製造機と煉瓦成形機)もあることに特許出願人は留意すべきです(→昭57(行ケ)86号粉末圧縮成形機事件) 



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