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@証拠能力の範囲の意義
民事訴訟においては、刑事訴訟における伝聞証拠禁止の原則などが存在せず、原則として証拠能力は無制限と言われています。そして行政訴訟においても基本的には民事訴訟法が適用されます(行訴法7条)。
人の有罪・無罪を論ずるのとは異なり、特許権侵害で侵害要件(実施行為など)や特許出願の拒絶審決訴訟での特許要件(新規性・進歩性など)に関して証明を行う問題では、たとえ伝聞証拠であっても、証拠としての資格を一律に排除することは必要なく、あとは裁判官に証拠としての信頼性(証明力)の判断を委ねれば足りる、からです。
→証明力とは
証拠の形式に関しても、書面であれば、基本的にあらゆる書面が証拠となります。相手方との契約書・合意書に限らず、自分で書いた日記やメモ、ホームページの印刷などであっても構いません。これらであっても書類の形式から裁判所の審理の対象より外されることはなく、自己に有利な判決に結びつくか否かは、裁判官が個々の事情により判断します。
特許出願や特許権の実務では、相当昔の出来事が裁判の決め手となることが多いため、事業を行う差異の要所・要所で所要の証拠を残しておくことは重要です。
→先使用権の立証
なお、証拠能力は原則として無制限と言いましたが、法律により例外が規定されている場合はこの限りではありません。例えば民訴法352条(手形訴訟では証拠調べは書証に限りすることができる)のごとくです。
A証拠能力の範囲の内容
講学上で特許出願の進歩性のよく挙げられる問題として、“特許出願後”に関して講学上で言われるのは、“特許出願後に頒布された刊行物によって進歩性を判断すること”ができるかどうかです。
進歩性の規定は、“特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが前項各号(新規性)に掲げる発明に基づいて容易に発明できたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。”と定めており、
前項3号には、“特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明”と定められていますので、
勢い、“特許出願後に頒布された刊行物”では進歩性を判断できないと言ってしまいそうですが、この問いの真意は、例えば特許出願の数日後に頒布された刊行物に“特許出願前の技術水準に関する事実”が記載されているかどうかです。
前述の伝聞証拠の話から推察されますが、こうした刊行物も証拠としての資格(証拠能力)があります。そして刊行物に記載された事柄が信頼できるかどうかは別の問題(証明力の問題)です。
例えば「気体レーザ放電装置」事件(特許出願の拒絶審決に対する取消訴訟)では、スレーザ放電装置の放電管部の材料としてセラミックの一種である酸化ベリリウムを用いることが特許出願時に容易にあったことを示すために、特許出願後に頒布された刊行物が採用されました。
因みにこの刊行物は、元々特許出願人側が放電管部の材料として酸化ベリリウムを用いることが特許出願時に困難であることの証拠として提出したものです。
裁判所は証拠物のうちで特許出願人の意図する箇所と別の部分を証拠として採用して特許出願人の主張とは逆の結論を導きました。
→進歩性の時期的基準のケーススタディ1
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