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@共同での特許出願の取扱いを規定する意義
(a)“特許を受ける権利が共有に係るときには、共有者全員で特許出願をしなければならない。”というのが特許法のルールですが(同法38条)、
共有者である発明者が一つの企業に勤務しているときには、それほどの問題は起こりません。特許を受ける権利は譲渡性があるため、例えば会社が発明者全員から権利を譲り受けて単独の特許出願をするにしても、或いは別の形態で特許出願するにせよ、関係者の意思統一を図ることは比較的容易です。
これに対して、例えば
・別々の企業に帰属する発明者が共同でした発明を特許出願する場合
・企業に属する発明者と個人の発明者とが共同でした発明を特許出願する場合
・企業に属する発明者と大学に属する発明者とが共同でした発明を特許出願する場合
には、それぞれの思惑が対立して、後日トラブルを生ずる可能性がありますので、より、しっかりとした対策が必要です。
A共同での特許出願の取扱いの具体例
(a)まず特許出願人は誰になるのかを特定します。
(イ)例えば発明者が帰属する企業に予約承継(特許を受ける権利を雇用者に承継させる旨の特約)の規定があれば、雇用者である企業を特許出願人にしなければなりません。
→予約承継とは
(ロ)発明者が大学に雇用されているときには、大学のルールにも留意する必要があります。
・例えば大学職員(大学教授など)がした発明を職務発明として認めるか否かを審議するルールを守っている大学もあります。
・また大学の職員がした発明の特許を受ける権利は、大学が連携するTLOに譲渡される旨のルールがあるところもあります。 →TLOとは
(b)共同で特許出願をする場合には、特許を受ける権利の持分の割合を決めます。
この持分は、例えば特許出願(或いは特許権)が第三者に譲渡された場合の代金の分配の基準になります。
各特許出願人の特許を受ける権利の持分の割合は、均等であることが通常ですが、そうしなければならないという決まりはありません。発明完成までの各人の貢献度を考慮して定めるのが建前だからです。
(c)特許出願に関して発生する諸費用(出願手続、出願審査請求手数料、中間処理など)に関して、各特許出願人が負担するべき費用の割合を定めます。
中間処理とは、例えば特許出願の審査で進歩性に欠ける旨の拒絶理由通知が来たときに、 特許事務所に意見書・補正書を作成させるために要する費用です。
費用の負担割合は、持分の割合に対応するのが普通ですが、これもそうしなければならないという決まりはありません。
(d)当該特許出願の対象である発明に関して、当事者の一方がさらに研究開発をして改良発明をした場合には、その改良発明の特許出願の取り扱いについて規定しておくことが望まれます。
(e)将来、同一発明について、パリ条約優先権を主張して外国への特許出願をする予定がある場合には、その取扱いに関しても、ある程度、予め定めておくことが望まれます。
例えば、外国特許出願を行う場合の費用負担や持分、改良発明などの取り扱いに関しては、国内への特許出願の例に準ずるというようにです。
個人と企業とが共同で日本への特許出願であり、個人が外国への出願の費用を負担できないときには、特許を受ける権利の持分を企業に譲渡するとか、状況に応じて現実的な対応をせざるをえない場合があります。こうしたことまで事前に定めておくことは難しいでしょうが、それについては、双方が誠意を守って協議する旨を定めておくと良いでしょう。
(f)特許出願人である大学が発明を実施する能力を持たない(或いは法令により実施をできない)ために、企業側に不実施補償を求める場合には、その旨の契約を予め結ぶことが奨励されます。こうしたことを後日持ち出すとトラブルの元だからです。
→不実施補償契約とは
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