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概要
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●平成3年(ネ)第1627号 特許侵害・請求棄却→取消


均等論/特許出願/第1要件/無限摺動用ボールスプライン軸受

 [判決言い渡し日]
平成 6年 2月 3日
 [発明の名称]
無限摺動用ボールスプライン軸受
 [主要論点]
@特許発明の1つの部材(保持器)を、複数のパーツ(3枚のプレート部材及び2個のリターンキャップ)に置き換えた場合に、均等論は適用可能か。


A軸受側に保持された一対のボール列の間に回転軸であるスプラインシャフトの凸部を挟むことによりトルクを伝達する連結様式(アンギュラコンタクト)を有する軸受であって、外筒の内側に、前記ボールを保持するための保持器を配置し、当該ボールを軸方向に導くための案内溝と、ボールの向きを変換するための円周方向溝とを、前記外筒の内面にそれぞれ形成した構造に関して

(a)イ号物件における、突堤を介して区分された一対の“断面半円形状”の案内溝にそれぞれボールを配置した構造は、本件特許の1個の“断面半U字形” の案内溝の両隅部にそれぞれボールを配置した構造に該当するか

(b)イ号物件における“円筒部分”は、本件特許の“円周方向溝”に該当するか


B次の置き換えは容易か否か。

・本件特許の一体構造の保持器を、3枚のプレート部材並びに2個のリターンキャップに置き換えること

・外筒の断面半U字形の案内溝の溝底部分(薄肉部)を、断面半円形状の案内溝間の突堤に置き換えること


 [判例の要点]
@一個の部材を複数のパーツに置き換えたとしても、製品全体として特許発明の中核的な作用効果を全て奏し、かつ新たに評価すべき作用効果もないときには、この他の均等論の要件(置換可能性・置換要件等)を満たすことを条件として、均等論を適用できます。

Aイ号物件の要素が特許発明の発明特定事項に該当するか否かは当該発明特定事項の技術的意義(例えば当該事項に要求される技術的意義)に配慮して決定するべきです。

B複数の発明特定事項の置換が容易かどうかを判断するときには、置き換えた技術要素同士の関係を配慮して、当該要素の技術的な意味(置き換えた理由など)を検討するべきです。


 [本件へのあてはめ]
 @イ号製品は、

・アンギュラコンタクトの接触構造及びボールの円周方向変換の採用により、軸受外径寸法を極端に小さくすることができる

・複列タイプのアンギュラコンタクトの接触構造の採用により、アンギュララッシュを零にすることが可能であるとともにプリロードをかけることができる

・保持器の採用により、スプラインシャフトの引き抜き時に、ボールの脱落を防止できる

 という特許発明の中核的な作用効果を全て奏し、

 新たに評価する効果もないため、均等論を適用する余地があります。

 なお、分割構造を採用したことにより必要となった要素の作用効果は、新たな作用効果とは評価できません。


A(a)本件特許の断面U字形の案内溝は、溝の内部(具体的には溝の両隅部内)に収納した2列のボールの間にスプラインシャフトの凸部を挟み込むことを可能とする点に技術的意義があります。

 そしてイ号物件の一対の半円形溝も同じ技術的意義を有するから、これら一対の半円形溝は本件特許の“断面U字状溝”に該当します。


A(b)本件特許発明が円周方向溝を要件とする理由は、ボールの180°方向転換のために邪魔となる案内溝の周囲を除去するという技術的要請に応えるためであり、イ号物件の円筒部分もこの要請に応えるものです。従ってこの“円筒部分”は本件特許の“円周方向溝”に該当します。


Bイ号物件において、保持器を一体構造ではなく、3枚のプレート部材及び2個のリターンキャップの分割構造とした理由は、外筒の案内溝の溝底を突堤付きの構造とするためであるので、結局は、外筒の突堤付きの構造に置き換えるかどうかを検討すれば足りるところ、こうした構造は特許出願時(及び侵害時)に公知である為、置換容易であると判断されます。


 [先の関連判決]
 
 [後の関連判決]
平成6年(オ)第1083号(特許出願時の公知技術の抗弁等)

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