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●365 F.2d 1017(バッグを開口・充填・閉鎖するための装置及び方法)


進歩性審査基準/特許出願の要件/バッグ開口充填装置

 [事件の概要]
@本件特許出願の経緯

 原告(Winslow)は、「バッグを開口・充填・閉鎖するための装置及び方法」という発明に係る米国特許出願第48,668号をしましたが、審査官は当該特許出願を拒絶査定しました(非自明性の欠如)。

 本件は、この拒絶査定を支持した特許審判部の決定に対するものです。

A本件特許出願の発明の概要

 判決文によると、特許出願人の発明のおおよその内容は次の通りです。

(a)この発明は、柔軟なプラスチックス製バッグ内に物品を詰める装置に関する。積み重ねられたバッグの山のうち最上位のバッグにジェット気流を供給して開口させ、物品の挿入を可能とするものである。

バッグはおおよそ長方形状であって一端に開口部(opening)を有する。一つの壁には、延長部或いはフラップが設けられている。このフラップは、口部を超えて突出しており、それを横断するように配列された複数の孔を有する。

これらのミシン目(perforations)がそれぞれの孔からフラップの端まで延び、弱め線を構成している。これによりフラップは係止ピンから引き裂くことができる。

(b)これらバッグは、フラップを下方へ出した状態で積み上げられ、水平にサポートされた状態で置かれるとともに、一つの端部でスプリング式ヒンジによって支えられる。

バッグが載せられると、そのヒンジに枢着された板が下降する。上方板部から下方サポートに設けられた穴へピンが垂設されている。

このピンはフラップの孔を挿通している。押下げ状態を開放すると、上記スプリングがサポートを上方板部の方へ付勢する。各バッグのフラップのみが上方板部の下に敷かれているので、当該上方板部は、バッグの山の上方への限定された動きに対するストッパとして機能するとともに、下方サポートとの間でクランプとして機能し、ピンがフラップの孔を挿通した状態でそれらフラップを挟持する。

(c)最も上のバッグは、トッププレート部材を超えてエアブラストを直接吹き込まれることで開口される。

(d)そしてブラストにより開口状態を維持された口部を通して、機械的に或いは手作業で上記ブラスト送風により開口物品を挿入される。次にバッグは、その長手方向でブラストと平行であってブラストから離れる向きに引っ張られ、ミシン目に沿ってフラップがちぎれる。次にバッグは閉じられ、熱シールされる。

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B本件特許出願のクレーム

〔クレーム1〕

 口部及び口部から延びるフラップを有するタイプのバッグを開口しかつ充填するための装置であって、

 エアブラスト(air blast)源と、

 上記バッグの口部を開口させかつ当該開口状態を維持するために、エアブラスト源からのエアをバッグの口部へ導く機能を有するエアディレクティング(air directing)手段と、

 を具備し、

 このエアディレクティング手段は、

 バッグのフラップの上に敷設されるプレート部材と、

 エアブラストの方向に延びるとともにプレート部材の下方に位置する端部を備え、当該プレート部材と協働して噛み合い、バッグが開いている間にバッグのフラップを一次的に保持する機能を有するバッグサポートと、

 を有し、

 上記プレート部材は、バッグのフラップを貫通するための少なくとも一つの垂下(depending)ピンを有し、

 上記バッグサポートの端部は、垂下ピンの通過を許容する孔部を有し、

 バッグのフラップは、プレート部材とバッグサポートの端部とで挟持されると同時に、ピンによって縦方向の動きに対してアンカー留めする機能を有する、

 バッグの開口・充填装置。

C本件特許出願の拒絶理由

 審査官は、本件特許出願を、米国特許第2673016号(引用文献1:Gerbe特許)、米国特許第1794517号(引用文献2:Hellman特許)、米国特許第991245号(引用文献3:Rhoades特許)に基づいて拒絶査定しました。

D本件特許出願の先行技術

 本件特許出願のクレームを拒絶した根拠となった先行技術の内容を説明します。

(a)引用文献1は、袋詰め(bagging)及び充填装置であり、

 バッグの山(stack)と、このバッグの山の包装(enclosure)と、バッグサポート及びプレート部材と、エアブレスト源とを採用している。

 上記包装は、バッグの三辺を囲む。バッグの山はこの包装によって位置が決められ、かつ一列に並べられる(aligned)。またサポートとプレート部材とは協働してバッグの開口端部を挟持(clamp)する。

 仮にバッグがバッグ底から延びるフラップを有しないときには、作業員が上面を手作業でフリーにしてもよく、またこれをカム機構及び協働する金属タブ又はフィンガーにより自動で行わせてもよい。どちらのケースでもバッグの底が最初に挟持されることになる。

 他の選択肢としては、バッグの上面をトッププレート(或いはトング)に対応させて僅かに切り取り、プレートとサポートとがバッグの最小限の部分と全ての底部とを挟持するようにしてもよい。

[引用文献1]

図面1

(b)引用文献2は封筒やバッグを充填するピストンリング付きの装置を開示しており、

 当該装置は、エアブラストを利用して封筒やバッグを開く。バッグは、ロッド16により縦方向に保持される。ロッドは、水平に対して少し傾斜されており、各フラップの孔を挿通して、その端部が反対側の板部材5の凹部に入る。従動板部(follower plate)20が重力により傾斜したロッドを下方へスライドさせ、反対側の板5の方へのバッグの移動を促す。これにより、クランプ・アクションが発動する。反対側の板5に最も近いバッグは、エアジェットにより開かれ、その後にピストンリングが上方より下降し、フラップを破断させることにより、サポートロッドからバッグを裂き取り、しかしてバッグはホッパーに落ちる。

[引用文献2] 16…ロッド

図面2


(c)引用文献3は、紙バッグのstackを縦方向に吊るす装置を開示する。この装置は、一部のバッグの開口端部を突き刺すための突き刺し端子(point)を有する。スプリング式の部材がバッグを突き刺し端子から離れる方向への移動を促す。

E本件特許出願の拒絶査定に対する特許庁審判部の判断 

 特許出願人の拒絶査定に対する審判請求を、審判部は次の理由で却下しました。

(a)引用文献1は、特許出願人によって開示されたものとおおよそ同じ特性の箱詰め及び充填装置を開示する。

(b)特許出願人は、バッグの山に形成された孔部を挿通する複数のピンを採用した。

(c)引用文献1は、バッグを決められた位置に留めるためにクランプ(挟持)手段及びストップ手段を採用する。審査官は、引用文献2及び引用文献3を参酌して、引用文献1の装置に(特許出願人がクレームしたような)特徴のピンを適用することは特許可能ではない(自明である)と判断した。

(d)我々(本件特許出願に係る審判官)の意見では、引用文献2の開示内容(外側のバッグがエアブラストで開かれている状態でバッグを所要の位置に留めるためにピンを使用すること)は、引用文献1の装置に十分に関連(sufficiently related)する。
そのピンを使用して引用文献1中のバッグを所定の位置に留めることは好ましいことだからである。

(e)引用文献2におけるピン16と部材5及び板20の関係(ピン16が板20を部材5の方向へ付勢する)は特許出願人の発明におけるピンと板とサポートとの関係と機能的に等価(functionally equivalent)である。

(f)引用文献3は、エアブラストの使用を開示していない。しかしながら、当該文献は、最も上位のバッグが開口され、かつ取り去られるときに、複数のバッグを所定の位置に留めるためのクランプピンを提案している。

(g)我々の意見では、引用文献2及び引用文献3は、当業者が引用文献1の装置を改良して、特許出願人がクレームしている態様でバッグのフラップの孔部をピンが挿通する形とすることを自明とするものである。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、本件特許出願に対する審決に対して次のように判断しました。

(a)我々は、審決の分析に同意する。

(b)さらに我々の見解によれば、特許出願でクレームされた発明と先行技術との主要な相違点は、当該特許出願のクレーム1、3中の“少なくとも一つの垂下ピン”及び他のクレーム中のピン手段(pin means)にある。後者は明らかに複数のピンを意味する。

(c)引用文献2は、ほぼ同じ技術(very same art)であり、その装置は“pin means”を有している(引用文献の特許出願人が当該部材を”rod”と呼んでいることは問題にならない)。

(d)その部材は、バッグのフラップの相互に位置合わせした孔を挿通して、バッグを押し広げるエアブラストに対抗してバッグを保持する。従って、それらのバッグは、個々に充填することができ、かつ、特許出願人の装置と同様に、ピンから離して引き裂くことができる。我々は、“rod”と“pin”との違いに特許可能な違いを見い出すことができない。用語の選び方の問題だからである。特許出願人は彼の“pin”を“rod”と呼ぶこともできたからである。

(e)同様に、一つの“pin”に代えて特許出願人が2つの“pin”を採用したことについても自明であると我々は考える。

(f)引用文献2の特許出願人(発明者)は、バッグをalign(一直線状に配列させる)
させるために(複数の孔のうちの)中央の孔にpinを介してバッグを吊り下げている。従って、特許出願人の装置のpinと引用文献2のrodとは殆ど同じ機能(very same function)−エアブラストの間バッグを保持すること−を殆ど同じ態様(very same way)で発揮する。

(e)さらにまた、我々は、バッグの配列を垂直な配列を水平な配列に変更することに関しても重要な違いを見い出すことができない。こうした違いは、単なる自明な機械的適用(mechanical adaption)の問題(例えばスプリングによる上方付勢に代えて重力による下方摺動とする如く)だからである。
→具体的適用に伴う設計的変更

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Aさらに裁判所は原告(特許出願人)の主張に対して次のように判断しました。
(a)特許出願人は、本件特許出願を担当する審査官及び審判部の議論は、いわゆるハインドサイトによるものであると主張した。

(b)我々は、特許出願人の主張に不同意である。

(c)我々は、103条の非自明性テストをこのような事例に当てはめるときには、次のような場面を想定するとよいと考える。
・その仮想的な場面とは、発明者の働くshopに先行技術文献が置いてあり、それらの文献が彼の周囲の壁に吊り下げられている状況である。発明者はそれらの文献を知っているものと推定される(he is presumed to know)のである。
presumed to have known(知っていたと推定される)とは

・特許出願人であるWinslowの創作は、Gerbe(引用文献1)のエアブラスト式のバッグの開口部を有するバッグ・ホルダーに2つのバッグ留め用ピンを設けることである。

・Gerbeの装置をプラスチック製バッグに適用するときにバッグを保持する問題があるとすると、そのフラップがスプリングの圧力のみで上下の板の間に挟まれることである。

・その場合に特許出願人は“それらのバッグをよりしっかりと固定するために自分は何ができるだろう”と自問するであろう。

・彼は、周囲の壁を見渡して、Hellman(引用文献2)の包装(envelop)がフラップにの孔にロッドに掛けて吊り下げていることに目をつけ、次のように考えるであろう。

「ああ、私のバッグに孔を開けて小さなロッド(ピン)に留めれば良いのだ。それでバッグを留めることができる!
バッグに物を詰めた後で、私はHellmanがしたようにバッグをピンから切り離すことができる。フラップに切れ目を入れることで切り離しが容易になる。」

(d)従って特許出願人は、先行技術に明確に存在する知識を単に適用することにより当該特許出願でクレームした発明に到達することができる。

(e)米国法103条は、発明者の試みの範囲内で全ての知識を発明者の先行技術と推定することを要求している。

(f)従って我々は、ここではハインドサイトの存在を見い出せず、審査官は本件特許出願に適切に関連する先行技術から引用例を選択し、適用したものと認める。

(g)従って、本件特許出願に対する審決は肯定される。


 [コメント]
@日本の進歩性審査基準は、特許出願に係る発明に至ることの容易想到性の動機付けの一つとして技術分野の関連性を挙げていますが、関連性の中身に関してはあまり説明していません。そこで他国の特許出願の実務を参照することは意味があると思います。

A米国では、特許出願に類似する技術(analogous art)か否かを、発明者の試みの範囲か否か、そうでないとすれば発明の課題に合理的に関連するか否かという2段階のテスト(→two step testとは)を経て判定しますが、本件は前者の概念に関係します。

B判決では、引用例として採用できる範囲を仮想的な事例(発明者の職場の壁に先行技術文献が並べられている状況)を用いて解説しており、その範囲では無条件で引用例同士を結合できるとしているから、これは発明者の試みの範囲に相当すると解釈されます。

Cインターネットを通じた情報の拡散が普通である今日では先行技術との空間的な距離感を論ずることはあまり意味がないですが、発明者(当業者)から見た先行技術へのアクセスし易さで類似技術の範囲を規定している点と考えれば興味のある事例です。 


 [特記事項]
 
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