[事件の概要] |
@事件の経緯 (a)Telnaesは、“リール停止位置の選択に乱数発生装置を利用した電子ゲーム装置”と称する発明について特許出願を行い、米国特許第4448419号(Telnaes特許)を取得し、これをInternational Game Technology(IGT)に譲渡しました。 (b)IGTはWMS Gaming Technlogyが自己の特許権を侵害としているとして警告しました。WMSは、自社の係争物が侵害をしていない旨及び当該特許が無効である旨の宣言的判決(declaratory judgement)を求めて地方裁判所に提訴しました。地方裁判所は特許権が無効ではなくかつ侵害行為があったと判断し、WMSはこれを不服として控訴して本件訴訟に至りました。 →Declaratory judgement(宣言判決)とは (c)本事件の主要な論点は機能的クレームに対する均等論の適用及び進歩性(非自明性)の判断ですが、ここでは前者のみを扱います。後者については下記を参照して下さい。 →277 F.3d 1338(2/2) (d)侵害訴訟の対象となったWMSの製品は、Durhamの特許出願に対して付与され、WMSに譲渡された米国特許第5456465号(Durham特許)の一実施例です。 A本件特許のクレーム 軸の回りに回転自在に取り付けられ、予め定められた数字をラジアル・ポジションに配置してなるリールと、 このリールが前記軸の回りで回転運動することをスタートさせる手段と、 当該リールの角度的回転位置(angular rotational position)を示すためにリールの周囲に固定された表示(indicate)と、 前記角度的位置に割り当てされる表示(indicia)と、 前記リールの複数の角度位置(angular positions)を代表する複数のナンバー(numbers)を割り当てるように形成されており、これらのナンバーは、各ラジアル部分に対して予め設定されたナンバーを超えるように設定されており、その結果として、幾つかのローテーション部分が複数のナンバーにより代表されるように構成された複数ナンバー割り当て手段(means for assigning a plurality of numbers)と、 割り当てられた複数のナンバーのうちの一つ(one)をランダムに選択する手段と、 選択されたナンバー(selected number)に代表される一つの角度部分でリールを停止する手段と、 を備えたゲーム装置。 ATelnaes特許(本件特許)の説明 本件特許発明について明細書は次のように説明しています。 (a)一般的なスロットマシーンは、、周囲に複数のシンボルを配置した複数のリールを有し、一例として、各リールは、20のストップ・ポジションを有する。ストップポジションの数は、表示されたシンボルのオッズを影響する。 (b)リールの数及び各リールにおけるストップポジションの数は最低の勝の可能性を左右する。例えば3つのリールに20のストップポジションがあれば、最低の勝の可能性は、20の3乗分の1(=1/8000)である。 (c)勝の可能性を下げる伝統的な方法は、リールの数、又は、各リールにおけるストップポジションの数を増やすことである。各リールにおけるストップポジションを増やすと、リールのサイズが大となる。しかしながら、プレーヤーは、3つより多くのリールがあるスロットマシーン、或いは、リールの大きいスロットルマシーンに魅力を感じないことが経験的に知られている。 (d)本件特許発明は、標準的なスロットルマシーンの外観を変えずに勝の可能性を下げることができる。本件発明のスロットマシーンは、電子的に制御されている。すなわち、制御回路が、各リールのストップポジションをランダムに決定する。勝率を下げるときには、制御回路は、リールのストップポジションの数より大きな範囲から一つのナンバー(a number)を選ぶ。 (e)ナンバー(numbers)の範囲は、各リール毎に非均一に割り当てられる(non-uniformally mapping)。その数字の範囲の割り当てには、製造者又はオペレータが操作可能なルックアップテーブルに基づくメモリーを使用することができる。例えば、制御回路は、20のストップポジションを有するリールにおいて、1から40までの範囲から一つのナンバーを選ぶ。40個のナンバーは、リールの20個のストップポジションに対応して非均等に割り当てられている。例えば或るシンボルには、1個のナンバーのみ(only one number)が割り当てられる。他のシンボルには、6個のナンバー字が割り当てられる。 BDurham特許(原告製品に係る特許)の説明 原告はDurham特許が原告製品を説明していると主張しているため、当該特許に基づいて審理が行われました。 (a)Durham特許は、ペイオフ(支払い)の計算をTelnaes特許とは異なる方法で実現している。すなわち、Telnaes特許では、まずリールのストップポジションを決定した後に当該ストップポジションに応じたペイオフを計算するのに対して、Durham特許では、まずペイオフを計算して当該ペイオフに応ずるリールのストップポジションを決定する。 (b)Durham特許では、乱数発生装置が2つのランダムなナンバーを選択してこれらを2つの・ペイオフ・マルティプライア(倍率器)に送る。ペイオフの金額はこれらの数値を乗ずることにより決定される. (c)リールのストップポジションは、ストップポジションのグループから選択することにより決定される。 (d)Durham特許の実施例(図5〜図8)において、乱数発生装置は、まず既知の範囲から第1のナンバーR1を選択して第1のペイオフ・マルティプライアXに送る。R1は、1から632の範囲からランダムに選択される。仮にR1が1であるときには、ペイオフ・マルティプライアXは10であり、R1が182から632であるときには、ペイオフ・マルティプライアXは0である。次に乱数発生装置は、第2の範囲から別のナンバーR2を選択し、R2は第2のペイオフ・マルティプライアに割り当てられる。実際のペイオフの金額はR1をR2で乗ずることにより得られる。 [本件発明の機能のイメージ(図4)] (Reel Stop Position Detect→Payout) [後願発明の機能のイメージ] C地方裁判所の判断 地方裁判所は、原告製品はTelnaes特許の請求項1,2,4〜6、8を文言侵害し、請求項9〜10を均等侵害していると認めました。 これら請求項中の機能的表現が含まれており、後述のように地方裁判所はそれら表現に関して“当該機能を有する如何なるものも含まれる”という立場を採り、これが第2審で問題となりました。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、侵害の成否の判断に関する考え方を示しました。 (a)侵害の問題では、クレームの解釈の段階と当該解釈の係争物への当てはめの段階というtwo-step analysisが行われる。 →Claim construction(クレーム解釈)とは (b)クレーム解釈(claim construction)は法律問題であり、当裁判所はこれを最初から(de novo)審理する。 →De novo reviewとは (c)特許クレームの要件が係争物において読み取れる(read on)か否かに関しては、我々は第一審の判決に明らかな誤りが存在するかどうかを見直す。 A裁判所は、前記基準を本件に次のように当て嵌めました。 (a)Telnaes特許(本件特許)の請求項1の前半の要件の解釈に関しては、当事者の間で争いはない。 (b)本件特許の請求項1の後半の3つの機能的な限定に関しては争いがある。これらの限定は、米国特許法第112条6のミーンズプラスファンクション(means plus function)の形式で記載されている。条文によれば、“組み合わせのクレームの要素は、それを裏付ける構成・素材・行為を規定することなく、特定の機能を実現するための手段(means)やステップとして記載することができる。 こうしたクレームは、明細書中の、当該機能に対応する装置・素材・行為の記載例、或いはこれと均等のものをカバーすると解釈するべきである。”とされている。 従って当裁判所は、係争物に本件特許の明細書に記載された手段と同一(identical)又は等価(equivalent)の手段が読み取れるかどうかを判断する。 また係争物はクレームに記載した技術と同一の機能を奏するものでなければならない。 983 F.2d 1039,1042 Valmon Indus., Inc v. Reinke Mfg. 833 F.2d 931,934 Penwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc., (b)本件特許の請求項1の複数ナンバー割り当て手段の機能は次の通りである。 ・リールの複数の角度位置(angular positions)を代表する複数のナンバー(numbers)を割り当てる ・これらのナンバーは、各ラジアル部分に対して予め設定されたナンバーを超えるように設定される ・その結果として、幾つかのローテーション部分が複数のナンバーにより代表される (c)本件特許の明細書は、スロットルマシーンのリールのストップポジションに対して複数のシングルナンバー(single numbers)を割り当てるアルゴリズムを実行するマイクロコンピュータを開示している。 (d)そのアルゴリズムは、本件特許の図6に開示されており、その要旨は次の通りである。 ・複数のシングルナンバーの範囲は、リールのストップポジションの数を超える。 ・各シングルナンバーは、ただ一つのストップポジションに割り当てられる。 ・各ストップポジションには、少なくとも一つのシングルナンバーが割り当てられる。 ・少なくとも一つのストップポジションには、ただ一つのシングルナンバーのみが割り与えられる。 (e)本権利の特許出願の経緯が図6に示されたアルゴリズムの教示を補強する。 すなわち、本件特許出願の経緯は、“各ナンバーが一つのストップポジションに対応していなければならないが、幾つかのナンバーが同じストップポジションに割り当てられることが許容される。”ことを示している。 具体的には、本件特許出願に対するオフィスアクションに対して、特許出願人(発明者)は次のように釈明している。 “標準的なメカニズムを用いて実質的にオッズを無限に変化できる装置が、特許出願人によって開示される装置である。(使い方の)ガイドラインとしては、各シンボル表示機毎にバーチャルメモリーから表示されるシンボルが存在しなければならない。もっともバーチャルメモリーのシンボルが表示されるポジションが多数存在しても構わない。” (f)地方裁判所は、割り当て手段の要件に関して、“(ランダムに選択された)ナンバーとリールのローテーション・ポジションとを対応付ける、いかなるテーブル・公式・アルゴリズムであっても構わない。”と判示しているが、原告は、前記要件は特許明細書に開示された範囲内で規定されるべきであり、かつ、特許出願の経緯に応じて限定され得ると主張している。 〔本件特許のアルゴリズム〕 (g)当裁判所は、原告の主張に同意する。本件の特許出願人が記載した明細書(written description)は、当該要件を“いかなる構造”(any structure)へも適用することをほぼ完全に排斥(almostly completely devoid of…)している。 (h)地方裁判所は、本件特許の明細書により開示されたクレームの機能は、コンピュータによるアルゴリズムの実行であるとしているとしている。 しかしながら、特定の機能を実現するためにプログラムされたコンピュータは、そうした機能を有する新しい装置であるから、コンピュータにより実行されるアルゴリズムは、特許明細書に開示されたアルゴリズムに限られると解釈するべきである。 33 F.3d 1526, 1545 In re Alappat (i)第2の機能的要件に関しては、原告は、“一つ(one)” のナンバーを選択して当該ナンバーにより代表されるストップポジションにリールを停止させるということは、“シングルナンバー”(single numbers)を割り当てかつ選択することに限定され、ナンバーの組み合わせ(combination of numbers)を含まないと主張している。 しかしながら、地方裁判所は、一般的なナンバー“generated numbers”をシングルナンバーに限定するべき理由はないとしている。 当裁判所は、原告の主張に同意する。“一つの…ナンバーを選択する”ということの素直な意味は原告の主張する通りであるし、それに加えてクレームの最後の“その選択されたナンバー”(said selected number)という文言(単数形)も原告の主張を支持している。(特許出願人が記載した)明細書及び図面、特許出願の経緯のいずれも当該文言が普通の意味以外の何かを示唆していない。 判例によれば、“クレームの用語に新規な意味を付与するという意図の表明がない限り、発明者のクレームの用語はその通常の意味に理解するべきである。”とされている。 99 F.3d選択して2つの 1568, 1572 Farm & Family Ctr., B裁判所は、前記クレーム解釈に基づいて文言侵害の成立を否定しました。 (a)本件特許の請求項1の“割り当て手段”によれば、前述の通り、 (i)複数のシングルナンバーの範囲は、リールのストップポジションの数を超える、 (ii)各シングルナンバーは、ただ一つのストップポジションに割り当てられる、 (iii)各ストップポジションに少なくとも一つのシングルナンバーが割り当てられる、 (iv)少なくとも一つのストップポジションには、ただ一つのシングルナンバーのみが割り与えられる、 という要件を満たす必要があるが、原告製品はそのようにプログラムされていない。 従って文言侵害は成立しない。 C裁判所は、前記クレーム解釈に基づいて文言侵害の成立を肯定しました。 (a)本件特許の請求項1の“割り当て手段”に関して、地方裁判所は、スロットルマシーンのリールのストップポジションに割り当てられる“シングルナンバー”を、“ナンバーの組み合わせ”に置き換えることは、当業者にとっては、関連するアルゴリズムやメモリーの変更を要するとしても、結局のところ、非実質的な相違(insubstantial change)に過ぎないと認定した。すなわち、ナンバーの組み合わせは、マイクロプロセッサーによって選択された複数のシングルナンバーと均等である。 (b)請求項1の“ランダムに選択する手段”に関して、地方裁判所は、乱数発生装置を複数回使用してナンバーの組み合わせを生成することは、シングルナンバーを選択することと均等であると判断した。 (c)これらの結論に至る過程で、被告側の専門家の意見を参考とした。その意見とは、シングルナンバーの組み合わせを割り当てて選択することは、複数のシングルナンバーを割り当てることのマイナー・チェンジに過ぎないというものである。 (d)原告は、その製品の構成は本件特許のものと均等ではないと主張し、地方裁判所は、構成が均等かどうかよりも効果が均等かどうかを重視するという誤りをした、と批判した。(e)しかしながら、当裁判所は地方裁判所の判断に明確な誤りを見い出すことができないので、原告の主張を拒否する。 |
[コメント] |
@いわゆるミーンズプラスファンクションクレームすなわち、means for xxx ing
(xxxは機能)の形式では、保護の範囲が特許出願人が明細書に開示された手段と同一(identical)又は均等(equivalent)の範囲をカバーすると解釈されます。 A本事例は、その“同一”と“均等”との境界付近に位置する事例、すなわち、第一審は同一及び均等と、第2審は、同一ではないが均等と判断した事例です。 B均等と認められるためには、明細書の記載例との相違点が非実質的なものであること、同一の機能を奏することが実用です。 Cミーンズプラスファンクションにおいて、機能的な表現が明細書の具体的な記載例及びその均等物に限定されるという解釈は、特許出願人(又は権利者)には厳しい解釈です。そのように解釈されるくらいであれば、クレーム中に対象物の技術的要素の構成を上位概念的に記載しておいた方が、広い保護範囲がとれる可能性があるからです。 D被告の権利に関しては特許出願の段階で2つの問題があったと考えます。 (イ)リールのストップポジションを決定→ペイオフの金額を決めるという手順 (ロ)1つの数字を用いてストップポジションを決定すること。 すなわち、特許出願人が実施例を記載する段階で(イ)に関しては、逆の手順もあったということ、(ロ)に関しては、“one or more”(一つ又は複数の)数字を用いてストップポジションを決めると記載しておけば、均等論の問題にならずに済み、相手に反論の余地を与えずに済んだ可能性があるからです。 |
[特記事項] |
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