[事件の概要] |
@事件の経緯 (a)原告Xは、 ・昭和40年9月23日に名称を“シエルおよびホツトボツクス造型機”と称する発明について特許出願甲(特願昭40−58242)を行うとともに、昭和45年に出願甲の一部を分割して、名称を“吹込式鋳型造型機用吹、排気弁付圧着シリンダー”と称する発明について特許出願乙(特願昭45−39582)を行い、 ・特許出願甲について昭和45年7月27日に出願公告され(特公昭45−22213)、特許甲(第646785号)を取得するとともに、 ・特許出願乙について昭和47年8月19日に出願公告され(特公昭47−32485)、特許乙(第798089号)を取得しました。 (b)被告Yは、中子成型機を製造販売していました。 (c)Xは、Yによる実施を特許甲・乙の侵害として侵害の停止などを求めて提訴しました。 B特許甲の請求の範囲 1 上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機において、固定されている上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設し、台車に並設したブローヘツドと上金型押出装置を該上金型と吹込管との間に移動可能に懸垂することを特徴とする加熱造型機。(第1発明) 2 上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機において、固定されている上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設し、台車に並設したブローヘツドと上金型押出装置を該上金型と吹込管との間に移動可能に懸垂し、かつ下金型の昇降に関係なく押上ピンの上下動を行いうる押上機構を下金型下降ピストンに内蔵することを特徴とする加熱造型機。(第2発明) C特許甲の作用効果 甲発明に係る装置は前記の各構成要件からなることによって合せ金型内に、例えばレジンサンドの如き造型物質を吹込造型するに際し、 ・上金型と下金型の圧着堅締状態を、吹込開始時点から離型動作の開始時点迄上下方向より夫々確実に圧着保持せしめ金型の加熱に伴う歪の発生を極力防止し以って正確な寸法精度を有する造型を遂行することができ、 ・また、吹込管作動ピストンを吹込時のブローヘツド押圧と吹込に伴う合せ金型内への圧搾空気の送気を兼ね行わせることによる機構の簡略化、 ・更には下金型に於ける離型押上機構の単独作動可能により押上ピンを下金型の昇降動作と関係なく任意に押上作動を行わせ、下金型の清掃、点検、離型剤の散布を容易とすること等の効果を有するものである。 [特許甲] D特許乙の請求の範囲 ピストンシリンダー内にピストンにより滑動自在に支持された中空圧着シリンダー桿と該中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁とからなる吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー。 E特許乙の作用効果 乙発明は前記の構成要件からなることによって、吹排気弁と連通する中空シリンダーをピストンにより滑動自在に支持することにより造型材料の吹込みを行うため、 ・吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行なうことができ、 ・圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり、また ・送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず、装置自体が簡潔かつコンパクトとなる等の効果を有するものである。 E原告の主張 (4) イ号機は次のような構成および作用効果を有しているから、甲乙特許のいずれの技術的範囲にも属するものである。 (1) 構成 (イ)'上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、(ロ)'該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ(ハ)'下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機であつて、 (A)' 長孔25を有する支持腕24を上金型1に設け、固定側に取付けた釣部材27の軸を上金型支持腕24の長孔25に遊挿して上金型を懸垂し、さらに上金型1上方にストツパー30を設け、この上金型1上方に吹排気弁13を備えた吹込管作動ピストン11を垂設し、 (B)' 台車4に並設したブローヘツド2と上金型押出装置58を上金型1と吹込管12との間に移動可能に懸垂し、 (C)' 下金型16の昇降に関係なく押出ピン19の上下動を行いうる押上機構を、下金型昇降ピストン17に連設した中空箱状部(下金型クランプテーブル)23に内蔵していることを特徴とする加熱造型機であり、またイ号機はそのほか、 (D)' ピストンシリンダー28内にピストン11により滑動自在に支持された吹込管12と (E)' 該吹込管12に連通する吹排気弁13と (F)' からなる吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダーをも備えている。 (2) 作用効果 イ号機は上記のような構成からなることによって甲乙両特許発明の作用効果と同1の作用効果を有するものである。 イ号機のプリアンブル(イ)'(ロ)'(ハ)'と(A)'(B)'の構成は甲特許第1発明のプリアンブル(イ)(ロ)(ハ)と構成要件(A)(B)を、同(C)'は第2発明の構成要件(C)を、また(D)'(E)'(F)'は乙特許発明の構成要件(D)(E)(F)をそれぞれ充足している。そうすると、被告はイ号機を業として製造販売することによって原告の甲乙両特許権を侵害している。 F乙の主張 [甲特許に関して] (a)主張の要旨 ・イ号機の構成が第1発明の構成要件中のプリアンブル部分を充足することは原告主張のとおりである。 ・しかし、(A)'(B)'の構成はいずれもなんら第1発明の構成要件(A)(B)を充足していない。すなわち、まず(1)第1発明の構成要件(A)にいう「吹込管作動ピストン」は吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧とを兼ねて行うようにされているものであると解すべきである(兼用ピストン型。なおここでいう兼用とは吹込時の吹込と押圧の兼用をいうのではない点留意のこと)。 ・また、それゆえに論理必然的に構成要件(B)にいう「上金型押出装置」もその駆動が前記「吹込管作動ピストン」の押圧作用によって行われるようになっているもので、押出装置自体は駆動部(ブローヘツド押圧用のピストンと別のピストン)を有していないもの(いわゆる他駆動型)であると解すべきである。しかるところ、イ号機においては、吹込時のブローヘツド押圧用のピストンと離型時の上金型押出用のピストンは別に備わつており、それゆえ離型機構はそれ自体上金型押出用ピストンを備えている自駆動型である。 ・また(2)第1発明の構成要件(A)にいう「固定されている上金型」とは上金型が加熱によって歪が発生するのを阻止する如く、しつかりと配置することすなわち固着されている状態をいうと解すべきである。しかるところ、イ号機における上金型はなんら上記の意味で固定されてはいない。 (b)特許出願時の技術水準の検討(甲乙特許離型機構が他駆動型であることに関して) ・構成要件(A)のうち「上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設する」構成は 「鋳砂吹込装置」にかかる米国特許第2598621号の明細書(1952年5月27日特許、乙第8号証、以下C特許という)、 同じく「中子吹込機」にかかる米国特許第2468672号の明細書(1949年4月26日特許、乙第9号証、以下、D特許という)に実質上開示されている(前者の第3図における赤斜線部分が吹込管。ピストン20、吸気弁59、排気弁83参照。後者の第1、2図におけるピストン15、ブローヘツド27、送気弁23参照)。 そして、ここで留意すべき点は、上記C、Dの米国特許はいずれも、吹込時のブローヘツド押圧と離型動作をそれぞれ別の機構で行っており1つのピストンで兼ね行わせるという技術を何ら示唆していない点である。 ・構成要件(B)にいう「上金型押出装置」についても、そのうち自駆動型のものはすでに前記A、B各特許によって公知である。 A特許においては第5図で明らかなとおり上金型押出装置36はそれ自体ピストンシリンダ構体81と杆84を備え、杆84の往復動によって、パンチアウトフレーム86を往復動させて離型を行うようにされており、 また、B特許においても第5図で明らかなとおり上金型押出装置30はそれ自体空気シリンダー162とプランジヤー160を備えており、プランジヤー160の往復動によって上型ストリツパー板148を往復動させて離型を行うようにされている。)。 ・そして、いま以上のような先行公知技術に照らし甲特許第1発明の構成要件を検討してみると、結局、甲特許の(A)の要件にいう「吹込管作動ピストン」は吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧の両機能を兼ね備えたもの、またそれゆえ(B)の要件にいう「上金型押出装置」は他駆動型に限定されると解するほかない。 けだし、そう解さないと第1発明の新規性を見出すことができないことになってしまう。これを換言すると、第1発明の構成のうち新規な点は上記のような2つの押圧兼用ピストンを備えたこと、したがつて離型機構が他駆動であることと後述のとおり上金型を固定したことの2点ということができる。その他の点は公知である。 (c)特許出願甲の経過 ・前記の見解が正しいことは特許出願甲の経過からみても明らかである。すなわち、 ・原告は、特許出願甲の拒絶理由通知に対する昭和43年12月13日付意見書(乙第5号証)において、引例とされたB特許との相違に触れて「本願において、吹込管作動ピストンをして吹込時にはブローヘツドの上型への圧着及び吹込或いは造型物の離型に際しては上金型押出機構の作動を兼用させるようにしたことの特徴点について御引用例には全くその記載をみることができません。従つて本願においてのみ期待し得る機構簡略化、経済性についての効用を御引用例では奏しえないこと明らかであります。」と述べている。 ・第3者から甲特許に対する異議申立があつたのに対し、昭和46年3月8日付特許異議答弁書(乙第3号証)においても「B特許およびC米国特許では吹込管を有する作動ピストンによる吹込時のブローヘツドの上型への圧着、吹込あるいは離型に際しては上金型押出機構の作動を兼用させる点が全く記載されていない。従つて、機構の簡略化、経済性について本発明の如き作用効果は全く奏しないことが明白である」と述べている。 ・さらに同じ答弁書の別の部分でも「(異議申立人は第1発明の構成要件(A)は前記Cの米国特許明細書に照らし公知であると主張しているが)該特許明細書に記載された吹込弁は造型材料の吹込みのみに利用できるものであり、本発明の如く造型シエルの押出、離型には全く利用できないものである。」と明言している。 ・このように、原告は特許出願甲の過程において繰り返し第1発明の新規性がピストン兼用型である点、いいかえれば離型機構が自らは動力を備えていない他駆動型である点にあることを強調しているのである。 ・特許庁も、上記特許異議を理由なしとした決定の理由として「(異議申立人の提示した書証には第1発明のような構成要件(A)(B)の結合については何ら記載されてなく、またこれを示唆する記載もなされていない。)そして、本願のものはこの構成により、吹込管作動ピストンによって吹込管が吹込時のブローヘツド押圧、離型時の上金型押出装置への押圧作用を兼用するという特有の作用効果を有するものと認められる。」と説示している。 ・しかるに、イ号機は前期のとおりピストン兼用型ではなく、またそれゆえ離型機構も他駆動型でなく自駆動型である。すなはち。イ号機における上金型離型機構58には上金型押出に要する押出ピン6およびこれを駆動するための押出シリンダー10およびピストン29が別個に備えられているいわゆる自己駆動型である(そもそも、イ号機では離型機構58と吹込管12との間に台車4を往復動させるためのシリンダー21のピストンロツド59が介在しているため吹込管12を下降させて押出ピン6を突出させるという役割りを果させ、いわゆる兼用ピストンとすることはできないようになっている。)。 ・イ号機は上記のような構成を有することによって 第1発明特有の作用効果(機構全体の簡略化)をもたらすことはないが、その代り 第1発明にない有利な効果(押出ピン6をバネの復元力だけに頼らず確実に引込めて、押出ピンが上金型のピン孔にひつかかつたまゝ台車を移動させてしまうという不注意によってもたらされる重大な事故を阻止することができ、また、ピストンロツド59の先端を台車4の中央部に連結できる)を奏する。 [乙特許に関して] (a)乙特許については、 (1)その構成要件(E)にいう「中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁」の意味はシリンダー桿の中空部と吹排気弁の送気口とが最も短かくなるようにかつ直線的に連通されていることであると解すべきであり、 (2)同(F)にいう「とからなる」の意味は「実質上、中空圧着シリンダー桿と……吹排気弁とだけで構成されている」と解すべきであり、 (3)同じく(F)にいう「吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー」の「付」の意味は吹排気弁と圧着シリンダーとが当業者の通念において一体化されていると考えうる程度に統合されていること、換言すればユニツト化されていることを指していると解すべきである。 しかるところ、イ号機はなんら上記のような構成を採用していない。 (b)「連通」の意味について 乙特許の明細書の発明の詳細な説明欄にはその作用効果として「吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行うことができ、圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり」(同公報2欄27行目から30行目まで)との記載がみられるのであるが、いまもし、「連通」の意味をただ通じていればよい趣旨に解すると上記の作用効果が生じない結果となる。すなわち、「連通」を前記のように解してこそ上記の作用効果に関する記載をよく理解しうるのである。 (c)「からなる」の意味について 一般に、クレームにおいて「XとYとからなる」という場合XとYとで構成されているとの趣旨のほかさらにZ等他の構成物を排除する趣旨も含んでいるのであつて(consisting ofの意味。したがつて、comprising, containing, including, havingと異なるのであつて、)、合金に関するクローズ型クレームにその例が多い。本件でも、「からなる」はシリンダー桿と吹排気弁以外の他の構成物すなわち送気のためのゴムホース、パイプ等を排除していると解すべきである。そのように解してこそはじめて詳細な説明中の他の作用効果に関する記載部分すなわち「送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず」(公報2欄30行目から32行目まで)との記載がよく理解できるのである。 (d)「付」の意味について 乙特許の詳細な説明欄には乙発明の作用効果として前示の2点に続き「装置自体が簡潔かつコンパクトになる等、種々の効果を有する。」と説明しているが、このような効果はシリンダーが吹排気弁と一体化、ユニツト化されているからこそ発揮されることである。 また、乙発明の公報の第1、2図でも装置自体が一体化、ユニツト化されている。ところで、乙特許は甲特許出願から分割出願されたものであるところ、甲特許出願の明細書にはその公報の第1、3図に掲載された図面(乙特許公報の第1、2図と基本的に同じもの)以外に、乙特許発明について語るところはなく、かつ前記作用効果は乙特許出願のときにはじめて追加記載されたものである。そして、かような追加記載が要旨変更にならないのは、原明細書に開示された構成自体から当然に出てくることが自明な作用効果であるからである。したがつて、乙特許発明を理解するにつき、甲特許公報の第1、3図、したがつて乙特許公報の第1、2図に示された構造と、前記追加記載された作用効果とは十分に重視する必要があるのであつて、そうすれば、被告の「付」という用語についての解釈が正当なものであることが理解できるであろう。 さらに、また一般にクレーム上「付」なる用語はそれまでバラバラであつたものを統合化、一体化したという趣旨で使用されることが多い(「消しゴム付鉛筆」その他)。 G原告の反論 (a)被告は、第1発明は吹込管作動ピストンがブローヘツド押圧と上金型押出装置押圧を兼行するものであること、従って上金型押出装置は他駆動型であることを必須の要件とするものであるかのように主張するが、そのような限定解釈は以下述べるとおり無理である。 (b)そもそも第1発明の要件(A)はピストンについて「吹排気弁を備えた吹込管作動ピストン」としているだけであり、発明の詳細な説明の項記載の実施例においても、ピストンの構造については「ピストン11により上下動することのできる吹込管12を垂設し、該上部には適宣吹込弁13を連結する」とあるだけで、その構造がやゝ詳しく記載されているにとどまる。もとより、第1発明は「吹込管作動ピストン」に上金型押出機構の作動をも兼行させることを排するものではないが、これが第1発明の必須要件でないことは争う余地ないほど明白である。 (c)原告は、特許出願甲の拒絶理由通知に対する意見書および特許異議答弁書において、吹込管をブローヘツド押圧と上金型押出装置の押圧を兼用させた場合の作用効果を記載しているのであるが、これは第1発明の構成をとることにより上記の両押圧作用を兼用させることもできるという付加的作用効果を記載したにすぎず、被告主張のように構成要件を限定した趣旨のものでもないし、特許庁も同様の趣旨を認めたものにすぎない。 (d)第1発明の効果である「機構全体の簡略化」というのは吹込管作動ピストンを吹込時のブローヘツド押圧と吹込に伴う合せ金型内への圧搾空気の送気を兼ね行わせることによる機構の簡略化をいつているのであつて、ブローヘツド押圧と上金型押出機構の作動を兼行させることによる作用効果をいうものでないことは公報の記載に照らして明白である。 (e)さらに特許出願甲に対する先行発明(公知技術)はいずれも第1発明が解決しようとした技術的課題の解決を目的としたものではなく、またそれゆえ全く異る構成を採用しているものである。したがつて、これらの公知技術を根拠とする被告の主張は理由がない。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、特許甲のクレームを文言通り解釈した場合の見解を示しました。 (a)イ号機の構成中、前記(イ)'(ロ)'(ハ)'の部分が第1発明の構成要件中のプリアンブルの部分(イ)(ロ)(ハ)にそれぞれ該当することは明らかで、この点については被告もこれを認めて争わないところである。 (b)次に、(A)'の構成も、その上金型の取付方法が第1発明にいう「固定」であるか否かの点を除けば(この点については暫らくおく)、他の構成部分はすべて(A)の構成要件の文言に照らし一応(A)の要件を充足しているように思われる。また、(B)'の構成も(B)の構成要件の文言に照らし一応(B)の要件を充足しているかのように思われる。そして、このような一応の帰結が導かれるのは、要するに第1発明における(A)(B)の各要件が極めて上位概念をもつて定められているため、少くともクレームの文言を形式的に理解するかぎり、そのカバーする技術的範囲がいきおい広くなるからにほかならない。 (c)ところが、被告は、クレームの解釈について上記のような形式的理解の不当性を主張し、(A)の要件にいう「吹込管作動ピストン」とは吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧を兼行する吹込管を作動させるピストンを指すものに限定して解釈すべきであり(従ってここにいう吹込管は吹込時の送風という本来の機能とブローヘツド押圧と上金型押出装置押圧という2つの機能すなわち合計3つの機能を働らくものと解すべきであり)、それがゆえに(B)の要件にいう「上金型押出装置」(離型機構)はそれ自体押圧装置(駆動装置)を有しない他駆動型のものに限定して解釈すべきである旨主張している。 そこで、上記主張の当否について考察する。 A裁判所は、特許甲のクレームの限定解釈の是非に関して次のように認定しました。 第1発明に関する特許出願甲の経過 特許出願甲の審査段階においては、特許庁審査官から一度拒絶理由通知を発せられ、意見書(乙第5号証)を提出し、出願公告後も訴外池上博明から特許異議を申立てられたので答弁書(乙第3号証)を提出し、やがて特許異議の理由なしとの決定を得て登録の運びとなつたものであるところ、 特許出願人(原告)は上記意見書および特許異議答弁書において被告主張のとおりの応答をなし、特許庁も被告主張のような理由を付した決定(乙第4号証)をしていること(事実欄5被告の主張(甲特許関係)(1)(1)@(ハ)参照)が認められる。 すなわち、原告は要するに上記の各書面において第1発明と引例であるB特許、C米国特許との関係について、これらの先行特許には、第1発明のように吹込管作動ピストンをして(1)吹込時のブローヘツドの上金型への押圧と(2)吹込、および(3)離型時の上金型押出機構の押圧を兼行させるという特徴点について全く記載がないこと、したがつて、これら公知の技術においては第1発明にのみ期待しうる機構簡略化、経済性についての効果を奏しえないことを繰り返し強調して第1発明の新規性を明らかにし、 特許庁でもこれに応え特許異議決定において 「第1発明は(A)(B)の構成要件により、吹込管作動ピストンによって吹込管が吹込時のブローヘツド押圧、離型時の上金型押出装置への押圧を兼行する特有の作用効果を有する」ものと認め、第1発明の新規性を認め、登録査定したものであることが認められる。 (b)第1発明の特許出願時の技術水準 証拠によると、第1発明の特許出願時にAB両特許は公知であったところ、 ・両特許はいずれも第1発明の構成要件中のプリアンブル部分に記載された形式の中子加熱造型機に関する発明であること、 ・A特許には第1発明の(B)要件に該当するような構成も開示されていること、 ・B特許でもおおむね第1発明の(B)要件に該当すると思われる機械が開示されており、ただB特許の上金型押出装置の構造はそれ自体駆動装置を備えていること(空気シリンダー162、プランジヤー160を有し、該プランジヤー160の往復動によって上型ストリツパー板148、これに付設された上型ストリツパーピン36を垂直に往復動させることによって離型を行うようされていること)が認められる。 (c)以上の事実によると、原告は ・第1発明の特許出願に際し、その過程において、一方では前示のような広範な表現によるクレームを請求しながら、他方では、第1発明はあたかもその吹込管作動ピストンが吹込時のブローヘツド押圧と吹込とのほか離型時の上金型押出装置押圧をも兼行することをも不可欠の要件としているかの如く述べて、上記のような構造部分の新規性を強調し、前示公知のB、C特許発明との作用効果上の相違を表明していること、 ・原告がこのような点を強調したことは前示のような特許出願時の公知技術の存在に照らすと無理からぬことであつたと思われること、 ・現に特許庁でも特許異議決定に際し原告の前記意見に同調していること が明らかである。 (d)そして、以上のような事情は、第1発明の技術的範囲を確定する際に無視することのできない点である。けだし、一般に特許権の特許請求の範囲は特許出願人の望む以上のものとして通用させる必要はないし、また、原告が第1発明の出願過程において前記のような意思見解を述べたことは何人もその記録(包袋)を見ることによって客観的に確知できることであるのに、そのような見解のもとで取得した特許について、原告がその権利行使の段階ではこれに反する主張をすることは第三者にとつては著しく信義に反することになるからである(file-wrapper estopel)。 (e)また、上記特許出願の経過は次のように理解することも可能である。 すなわち、いまひるがえつて前記原告の意見および特許庁の特許異議決定での見解を考えてみると、ここで問題にされている構造(ピストンの離型機構押圧兼行、したがつてまた離型装置の他駆動構造)は本来はクレーム自体とは直接関係のない点であり、またその際、上記の構造からくる作用効果として挙げられた機構全体簡略化の点も本件第1発明の詳細な説明で述べられている作用効果とは異なるものであることが認められる(成立に争いない甲第2号証によると、第1発明でも機構簡略化がその作用効果として挙げられているのは事実であるが、それはピストンが吹込時にブローヘツド押圧と送気とを兼行することによる効果として述べられているだけで、ピストンの離型機構の押圧兼行のことまでは述べられていない。公報2欄10行目から13行目まで参照)。原告が本訴において出願経過に関する反論として「原告の見解はそのような兼行をした場合の作用効果について述べただけである。」と弁明しているのも上記のような認識に基くものとして理解できるところである。 これを要するに、特許出願の経過中における原告の応答と特許庁の判断は第1発明でクレームされた要件とは無関係な点に関する議論で終始したといえなくはないのである。 このようにみてくると、原告としてはもしあくまで前記のような点を強調しなければ発明の新規性が保証し難いと考えたのであれば、本来適宜の段階でそのような要件を附加し、請求の範囲を減縮する補正手続をとるべきであつたと解される。 したがつて、第1発明は形式上は元のクレームのまま維持されながら実質上は前示のような趣旨の減縮補正をして登録を受けたと同じ結果になっているとも解しうるわけである。そして、このような経過もクレーム解釈上無視できないところである。 はたしてそうだとすると、本件第1発明の技術的範囲は単にそのクレームの形式的な文言解釈によるのではなく、前記のような事情を斟酌してその上位概念的な文言を実質的または合目的に制限解釈して確定すべきである。すなわち、これを具体的にいうと、第1発明のクレームにいう「吹込管作動ピストン」とは吹込時の作動のほか上金型押出装置の押圧機能をも兼ね行うもの、したがつて、ここにいう「上金型押出装置」は押圧につきそれ自体ピストンを備えない他駆動型であるものを指していると解するのが相当である(第1発明の詳細な説明記載の実施例参照)。 前記2の(A)'(B)'によると、被告のイ号機の構成は、その吹込管作動ピストンが上金型押出装置の押圧を兼行するものではなく、またそれゆえ必然的に上金型押出装置は自ら駆動装置を備えたものであることが明白である。 そうすると、イ号機は爾余の点について検討するまでもなく第1発明の技術的範囲に属さないというべきである。 A裁判所は、特許乙に関して判断しました。 (a)「連通」に関して もともと乙特許は特許出願甲から分割出願されたものであるから、乙特許の発明の要旨は甲特許出願の最初の明細書または図面に記載されているはずのものと解さなければならないところ(特許法44条、41条)、甲特許の原始明細書には特段乙特許発明について述べられた部分はなく、ただその添付図面の第1、3図に吹排気弁(吹込弁13)がピストン11を備えたシリンダーの上方でこれと直結され一体化された構成のものが図示されている。そして、乙特許における明細書添付の図面にもこれと同一のものが示されている。 したがつて、これらの図面の示す構成は乙特許のクレーム解釈上十分斟酌する必要がある(分割特許出願における発明の要旨は元の特許出願の最初の明細書または図面に記載されている該当部分の構成と全く同一でなければならないものではなくそれと均等の範囲内のものであればよいとも考えられるが、少くとも分割特許のクレーム解釈上の斟酌事情として記載そのものをとりあげうることは当然のことである。) (乙特許の発明の詳細な説明には、乙特許発明の作用効果として「吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行なうことができ、圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり、また送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず、装置自体が簡潔かつコンパクトなる等、種々の効果を有する。」との記載がある(公報2欄27行ないし33行目)。 このような作用効果の記載は、前記(1)の認定判断と相まつて、乙発明が中空圧着シリンダー桿に吹排気弁を直結し一体化することを要旨としたものと解したときはじめて十分首肯できる部分である。 (b)「吹排気弁付圧着シリンダー」に関して 一般に「A付B」という場合は両者が密接に一体化していることを指すことが多いと思われる(「消しゴム付鉛筆」の例参照)。乙特許のクレーム用語としても、「中空(圧着)シリンダー桿」が「吹排気弁」と何らかの形で通らなっているのはその構造上いわば当然のことであるから、ここに「吹排気弁付圧着シリンダー」を弁とシリンダー内の桿とが何らかの形で連らなっているものをすべて含むと解するのであれば、すなわち原告主張のように解するのであれば「付」に特段の意味がないこととなる。もしこの語に意味を持たせるとすれば上来説示のような両者一体化を指すと解さなければならず、またこう解することは前示の一般的な語感にも適合する。換言すると、本件乙発明の要旨が原告の主張するような点にのみあるというのであれば、その発明の詳細な説明欄にその趣旨(ことにその点に関する作用効果)が明示されていて然るべきであると思われるし、またクレームの文言も少くともその(F)要件の部分は「吹排気弁付」を省略するか少くとも他の表現を用いられたと解するのが自然である。 (c)してみると、乙特許の構成要件(F)にいう「吹排気弁付圧着シリンダー」とは該弁とシリンダーがパイプ、ゴムホース等を介することなく直結し一体化した構造物を指し、またしたがつて要件(D)にいう桿と弁との「連通」も単に何らかの手段で通じているというのではなく、直接的につながつている趣旨であると解するのが相当である。 (d)はたしてそうだとすると、イ号機は爾余の判断をなすまでもなく乙特許の技術的範囲にも属しないといわなければならない。 |
[コメント] |
@本件事例は、特許侵害事件において、請求の範囲の記載を文言通りに解釈すれば権利侵害に該当するところ、特許出願時の技術水準の参酌、及び意見書・答弁書での陳述に基づく包袋禁反言の原則により請求の記載を限定したものです。 →包袋禁反言の原則とは Aある意味においては、禁反言の原則が適用される基本的なケースと言えますが、最近では意見書の陳述のみで禁反言の原則が適用されるのは珍しいと言えます。 なぜなら、特許出願の審査の段階で請求の範囲に記載されていない構成に基づく効果を主張することは、本来あってはならないことであり、そして、特許庁がそうした主張を受け入れることは、近年ではまずないからです。 Bたいていは、請求の範囲に直接記載していない構成に関して、特許権者がそうした構成も均等の範囲であると主張し、これに対して、相手方が特許出願時の経緯から当該構成は例えば意識的に除外されているから、均等論の適用は誤りであると主張するような展開となります(例えば平成12年(ネ)第5355号)。 →均等論とは |
[特記事項] |
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