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●405 F.2d 578 (In re Sponnoble)


進歩性/特許出願/阻害要因・未知の課題/混合容器の構造

 [事件の概要]
@本件特許出願の経緯

 Sponnobleは、“Mixing Vialの構造”の発明について特許出願をしました(Serial No.299,039)が、4つの先行技術から自明である(進歩性を欠く)ことを理由として審査官により拒絶され、審判部も当該拒絶を支持する審決をしたため、本件訴訟を提起しました。

A本件特許出願の請求の範囲

ボディとプラグと第1の内容物及び第2の内容物とピストン手段とを備え、パッケージ化された医療プロダクトであって、

 前記ポディは、一端を閉じるとともに他端を開放させた実質的にチューブ状のガラス製ボディであって、その両端から離れたところで減径されたシリンダ・ポーションを有して、このシリンダ・ポーションの両側にファースト・チェンバー及びセコンド・チェンバーが形成されており、前記シリンダ・ポーションは、その両端の間の全長に亘って一定の径であり両チャンバーを連通する通路を提供するとともに、内壁面がコーティングされていないシートを形成しており、

 前記プラグは、筒状で硬くかつプチルラバーで一体成形されたプラグであり、当該プラグは無毒でその外径は前記シートの内径よりも僅かに大きく、当該プラグは、減径されたシリンダ・ポーション内にスライドによる離脱可能にきちんと配置されており、2つのチャンバーを遮断することにより水蒸気の浸透(moisture vapor transmission)を最小限にするように形成されており、

 第1の内容物は、ファースト・チャンバーに収納された一定の水溶性の内容物であり、

 第2の内容物は、セカンド・チャンバー内に収納された乾燥した内容物であり、

 前記ピストン手段は、実質的に筒状で、前記ボディの他端から軸方向への移動可能に挿入されており、内方へ移動することにより水溶液に作用して前記プラグがセカンド・チャンバー側へ外れて、2つの内容物の混合を許すように構成されたことを特徴とする、医療プロダクト。

B本件特許出願の発明の概要

 本件発明の主題は、特許出願人の明細書の記載から次のように要約されます。

(a)本発明は、複数のコンパートメントを有し、この中野を混合させるためのミキシング・バイアルの改良に関する。より具体的には、各コンパートメントを互いに隔離させるためにコンパートメントの間に配置されたセンター・シールプラグの改良に関する。

(b)従来の技術においては、2つのコンパートメントを有するミキシングバイアルであって、両コンパートメントの間にシートが形成されており、このシートに天然又は合成樹脂製のプラグを着座させたものが示唆されている。このプラグにより2つのコンパートメントは隔離されている。一方のコンパートメントには、乾燥された医療品のようなソリッド希リアルが収納されており、他方のコンパートメントには、ソリッドマテリアルを希釈し又は溶かすための水性の希釈剤や溶剤のごとき液体が入っている。液体が入ったコンパートメントの一方の端部には、ピストンがぴったりとかつスライド可能に配置されている。このピストンを手動で内方へ押し込むと、内部の液圧が高まってプラグがソリッドマテリアルを含むコンパートメント側へ脱栓し、液体とソリッドマテリアルとが混合するように形成されている。こうしたバイアルは、液薬の形態で使用されるが、ソリッドマテリアルの形で保管されるのに適した医療製品のパッケージによく用いられる。こうしたバイアルは、非口経製剤であって長期間に亘っては安定ではなく、使用される直前に成分を混合させるものをパッケージするためによく用いられる。そうした医療の成分は、無菌のパウダー及び主として水からなる無菌の溶剤である。しかしアンガラ、従来のこの種のバイアルは、商業的には不成功であった。相当量の水分が液体入りのコンパートメントからソリッドマテリアル入りのコンパートメントへ透過してしまうからである。多くの無菌のパウダー製剤が水に対してセンシティブであるため、製剤は長期間保管する間に不安定となってしまう。

(c)そうした先行技術からは予期し得ないことであるが、私(特許出願人)は、それらコンパートメントを一時的に隔離するセンタープラグをプチルラバーで形成するとともに、当該プラグの表面をシリコンフィルムで覆うことにより、前記問題が解決されることを見出した。本件発明は、本件特許出願の唯一のクレームであるクレーム6の反映されている。

C本件特許出願の先行技術は、次の通りです。

 米国特許第2,908,274号(Bujan特許)

 米国特許第2,695,614号(Lockhart特許)

 米国特許第2,773,591号(Jensen特許)

 米国特許第2,649,090号(Jensen特許)

[Bujan特許]   [Lockhart特許]  [Jensen特許]  [Jensen特許]

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(a)Bujan特許は、特許出願員のそれと類似した2つのコンパートメントを有する混合バイアルのためのピストン閉塞具に関する。Bujan特許のセンター・シールプラグを形成する材料に関しては直接言及されていない。しかしながら審判部は当該プラグが天然ラバーで形成できるであろうと推察している。Bujan特許は、センター・シールプラグの表面に適用される潤滑剤(lubricant)又はフィルム等についても開示しておらず、そして一方のコンパートメントから他方のコンパートメントへの水分の透過の問題及びその解決策について何ら言及していない。

(b)Lockhart特許もまた、非常に類似した混合バイアルを開示している。改良点は、実質的にシリンダー状のセンターゲートの両端を、外側へ拡径するフレアー・エンド(flared end)またはフランジ付き端部としており、これによりプラグを自らセンター位置に合わせるセンター・プラグ作用が発揮され、当該プラグは所定のシートに着座する。このプラグは適当な弾性材料で形成することができ、例えばシリコンを多く含むラバーで形成することができる。このようにすることで滑りやすい表面とすることができる。

 Lockhartによれば、従来の技術では、操作者が実質的にシリンダ上で滑り易いゲートプラグを誤って余分に押しこんだときに、当該プラグがシートから脱落して下側のチャンバーに入るおそれがある。

 Lockhart特許の構成によれば、こうした問題点を解決できる。なぜなら同特許のセンター・ゲートプラグのフレア・エンドにより、自動的にセルフ・センター作用が働くからである。Lockhartは、滑り易く、かつシリコンを多く含むラバーについて言及しているものの、センター;ゲートプラグの上に適用されるいかなる表面コーティングについても、ましてやシリコンコーティングについても言及していない。

 なお、Lockhartは水分透過の問題について言及しており、それについてここで引用することは意義のあることであると考えられる。

 “こうした装置において、液体チャンバーからソリッドチャンバーへ相当量の水分が這うようにすり抜ける(creepage)ことを防止することは重要である。この種の装置に貯蔵された吸湿性の医療用ソリッドは、ゲートすり抜ける(creep)水分により破壊的な影響を受ける。この種のゲードプラグとシートとの接触箇所は非常に狭いか殆ど線接触に過ぎないため、金型成形或いは吹き込み成形の際にガラスの表面にできる顕微鏡でしか見えないようなヒビ(fissures)によって初期状態での透水を許してしまう。最終的には圧縮されたプラグの弾性材料がそれらのヒビを塞ぎ、シール性が担保されるが、それまでの間にある程度の水分が入り込み、薬剤を使用に適しないものとしてしまう可能性がある。ゲートプラグのフレアエンドは、それが図3に示すクラウン型のものであれ、図7に示す平坦状のものであれ、シートとの間で長い表面接触を実現し、水分の透過を有効に防止する。これは特に内容物へのダメージを生じ易い貯蔵の初期段階において有効である。”

(c)Jensen特許は、2つの内容物をそれぞれ別々に貯蔵するための無菌の閉塞具を備えた容器(vessel)であって、当該閉塞具を破壊することなく両内容物を混合することができるものを提案している。Jensen特許が容器を2つのコンバート面とに分割するために採用したパーティションを評価するためにその明細書の記載の一部をここに引用する。

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“前記パーティションは、例えば金属で形成された剛性ディスク型のボディ42と、このボディの周りを囲む弾性リング44とからなる。リング44は、プチルラバーで形成することができる。ディスク型ボディの外周は円形であり、断面が円形であるハウジング10内に共軸的に(coaxially)配置されたときにその全周に亘って同じ幅のギャップが形成されるように構成されている。そしてギャップを埋めるためのリング44が配置されている。このリング44は、ボディ42とハウジングの壁との間の安全な締め付けが前記ギャップに対して提供するのに十分な圧力が得られるように設計されている。前記リング44は、ボディ42の端部の外面に周設された溝46内に嵌め合わされている。

 パーティションが破られるときには、キャップのアーチ部16がダイアフラムのように強制的に押し下げられる。それにより圧力がロッド48を介してディスク型ボディに伝えられ、その結果としてリング44がハウジング10の壁とボディ42の端部との間で図4から図6に示すように広がる(unrolled)。図4では各部分がまだ図3と同様の相対的な位置関係を保っている。図5ではリング44が溝46から離れ、そしてボディ42の上端がリング44が溝46から離れ、そしてボディ42の上端がリング44に軽く食い込み、リングに対するストレスが高まる。このときにボディ42は、不安定な(labile)均衡状態にある。この状態は次の動きにより乗り越えられる。”

(d)Parson特許は、医療用容器の、ラバー・合成ラバー或いはプラスチックからなるストッパーに、シリコンコーティングを施すことを開示する。こうすることで“(当該容器の)ストッパはより水分を通過させないようになり、内容物が吸湿してくっつき易くなることを避けることができる。”ようになる。以下の目的が明細書に記載されている。

“潤滑剤をラバー製ストッパに提供して他物にくっつく傾向を低減すること

 ラバー製ストッパに表面シーリング物質を提供してラバーがバイアルの内容物に対してより不活性になるようにすること

 ラバー・ストッパの透水性を低減すること

 そしてラバーストッパの着脱をより容易にする潤滑剤を提供すること”

 しかしながら、容易にスライド可能なシリコンをコーティングしたストッパの下方への移動は制限されていることに気づくべきである。挿入されたストッパが備える閉塞具を維持してシールするための補助手段を用いても良い。何故なら明細書には“ガラス製容器にラバーストッパを固定するためにアルミニウムシールまたは他の標準的なシールを用いても良い。”旨が記載されているからである。

D審査官が本件特許出願を拒絶した理由は、次の通りです。

(a)審査官の見解書によれば、本件特許出願のクレーム6は、Jensen特許及びParson特許を参照してBujan特許及びLockhart特許から自明である(進歩性を欠く)ものとして特許することができないとされている。

(b)すなわち、Bujan特許及びLockhart特許は、特許出願人が認めざるをえなかった(conceded)、当該特許出願のバイアルの特定の形状及びセンター・プラグのアレンジメントを開示している。

 Jensen特許はプチルラバー製のシール44を開示し、これがスチームを透過しないと述べているから、センター・プラグにプチルラバーを使用することは自明であると認められる。

 センター・プラグにシリコンを潤滑剤又は水分阻害剤(moisture inhibitor)としてコーティングすることに関しては、これは広く知られた古い技術である。

 Lockhart特許は、潤滑剤としてシリコン混合物をプラグに用いることを開示している。

 必要に応じてシリコンをラバーに染み込ませる代わりにシーリングプラグの上にコーティングすることは自明であると考えられる。このことが慣用的であることは、Parson特許により裏付けられる。

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E本件特許出願に対する審決の内容は、次の通りです。

(a)審判部は、前述の審査官の見解を肯定的に引用した。

(b)審判部は、本件特許出願に対してさらに次のように述べた。

 我々は、審判の記録及び(特許出願人らとの)面接審査の記録を検討した結果、前記引用文献に基づく本件特許出願の拒絶を取り消すに値するエラーが存在しないと判断する。

 Jensen特許は、スチーム、すなわち水分を透過しないという特性に関してプチルラバーを用いることを開示している。従って特許出願人が当該分野に参入する以前にBujan特許のプチルラバー製のセンター・プラグ17を水分不透過性のものにすることは自明であったものと認められる。これは、特許出願人がプチルラバーを採用した理由そのものである。

 本件では、プラグの身体を容易とするためにシリコン・コーティングを採用している。我々は、このことがParson特許により開示されているという審査官の見解に同意する。

 仮に技術者としての経験のない者(uninitiated)であっても、前述の諸文献が彼らの前に置かれていれば、Bujan特許のセンター・プラグの進退を容易とするために、シリコンオイルコーティングを使用するとともに、Jensen特許に開示されているようにプチルラバー製にすることが自明であることが自明であると気づくであろう。

 従って、特許出願人は、当該技術分野において古い技術を既知の目的のために組み合わせたに過ぎず、かつ各引用文献から予期される固有の結果を超える何かをもたらすものでもないと判断される。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、本件特許出願の審決に関して次のように認定しました。

(a)当裁判所は、審判部が本件特許出願に対する米国特許法第103条(進歩性)の規定の適用を誤ったと判断する。

(b)審判部の見解の最後の部分(特許出願人は広く知られた古い技術を既知の目的で文献から予期される固有の結果を超えることなく組み合わせたに過ぎない)にも関わらず、たとえそれが正しいとしても、そのことが発明の自明性(進歩性の欠如)を裏付けることにはならない。

(c)前述の進歩性の規定の解釈の範囲において、たとえ発明者が古い技術を既知の目的で組み合わせたに過ぎずかつ予期せぬ効果を発揮しないときであっても、特許可能な発明が有効に成立する場合があるのである。

(d)今回の場合、当裁判所は、特許出願人がそれ以上のことを為したと信じるけれども、たとえそうでなくても、本件の核心に迫る問いは、各文献を組み合わせる理由は何であるのかということである。

A裁判所は、本件に関連する次の判例を挙げました。

(a)当裁判所が見解を示すまでもなく次のことが先例により確立されている。

 “特許可能な発明は、課題の源(source of problem)の発見に依拠する場合がある。課題の源が特定された後にその解決策(remedy)が自明なものであっても構わない。”

 これは“発明の主題全体を考える”という進歩性の解釈の一部である。

 In re Antonson 272 F.2d 948

In re Linnert 309 F.2d 498

(b)裁判所は、発明の自明性の判断に特許出願人自身の陳述が織り込まれること(いわゆる後知恵)がないように注意しなければならない(→後知恵とは

 すなわち、裁判所は、特許出願人の開示事項を織り込まずに先行技術を検討しなければならない。

 In re Murray 268 F.2d 226

In re Sporck 301 F.2d 686

(c)問題なのは、先行技術自体で特許出願人の開示した事項の恩恵に頼らずに、当該発明が全体として自明であるということができるかどうかである。

 In re Leonor 395 F.2d 801 

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B裁判所は、発明の課題に関する次の特許出願人の主張に着目しました。

(a)前述の基準を本事例に適用し、かつ特許出願人の明細書を参照すると、当裁判所は彼が課題の源に気づいていたことが明確に示されていると考える。以下引用する。

“(本件特許出願の)発明の課題は、ソリッドな医療プロダクトを含むコンパートメントを水溶液を含むコンパートメントから隔離し、水分の透過を防止できる構造を提供することである。この課題は、技術の分野に従事する者の間で非常に長い間認識されていた。

 この課題を解決するために多額の投資が行われたが、今なお、商業的に成功と言える結果は得られていない。

 従来では、こうした水分の透過は顕微鏡でしか見えないようなクラックやクリーブがバイアル内の互いに接する面同士に生ずることに起因すると考えられてきた。こうした現象はバイアルの製造工程において生ずる。

 従ってこれまでのこの課題に対する試みはそれらクラックやクリーブを充填することに向けられていた。例えばより変形し易いラバーを使用し、あるいはシーリング時の圧力を大きくして、プラグが当該クラック・クリーブを塞ぐようにするという如くである。さらに従来の技術ではバイアルにおけるプラグ及び対応するシート部分を長くしてプラグ及びシート部分の接触を増大させ、水分透過を減少させようと試みた。しかしながら、これらの試みのいずれもが前記課題を商業的に解決することに成功しなかった。

 他の同業者の意見と異なり、私(特許出願人)は、天然ラバー製のセンター・プラグにおける水分透過の(問題の)主要な源は、プラグ自体の水分透過性にあると考えている。すなわち、水を包含するコンパートメントからソリッドな材料を含むコンパートメントへの水分の移動は、プラグ及びバイアルの壁同士の間よりも天然ラバー自体を通じて生ずるのである。従ってプラグ及びバイアルの間のシールをどれだけきつくしても相当量の水分が透過してしまうのである。このことは、水分に敏感なソリッド・コンテンツに悪影響を与える。”

(b)(特許出願人の)明細書には、結局、

(i)当該分野が直面している課題が混合バイアルの他のコンパートメントへの水分通過に起因すること、

(ii)特許出願人が水分透過の原因はプラブ周りよりもプラグ自体にあることを見出したこと、

(iii)プチルラバー製のセンター・シーリングプラグにシリコンコーティングをすることにより課題が解決したこと

 が示されている。

 本事案の核心(crux)は、センター・プラグ自体を通る流路が水分透過の主原因であることを特許出願人が発見したことである。

C裁判所は、問題の源が先行技術に示唆されているか否かを判断しました。

(a)Bujan特許又はLockhart特許で開示された天然ラバーに水に対する不透過性の高いセンター・シーリングプラグを選択することを示唆する教示は、先行技術には存在しない。

(b)Bujan特許は水分透過性の問題について何も言及していないし、Lockhart特許は、成形時にできる微小な亀裂によって起こる水分透過に言及しているに過ぎない。

(c)Jensen特許がプチルラバーはスチームを透過しないと開示していることは、特許出願人の発明が自明であるもの(進歩性を有しないもの)とするものではない。何故なら、センター・シーリングプラグにより大きな水分透過性が要求されることを示唆する文献はないからである。

(d)Parson特許が水分の透過性に言及していることは、液体としての水の水透過性としていることは、液体としての水等の透過性に結びつきそうにない。天然ラバーがスチームを透過するかも知れないということから、液体としての水の透過には自明に結びつきそうにない。天然ラバーがスチームを透過するかもしれないということから、液体としての水が透過することが自明ではないということを導くことができない。

 従って問題の原因は先行技術には開示されていない。

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D裁判所は、先行技術中の阻害要因の有無に関して次のように判断しました。

(a)当裁判所は、前述の問題の源への特許出願人の認識に対する我々の分析と別に、複数の文献に基づく特許出願の拒絶は、各文献中に存在する理由により不適合であると考える。各文献がそれらを組み合わせることから当業者を遠ざける(teaching away)ような事柄、すなわち阻害要因が存在するからである。→阻害要因とは

(b)まずプチルラバーは、その摩擦特性によりガラスを容易にスライドしない。Jensen特許においてメタルディスクとかみ合わないようにするためにプチルラバー製のシーリングディスクをローリング操作していることから裏付けられる(図4〜図6)。Jensenの容器の操作性や有用性は、摩擦を低減するため(かみ合わないようにするため)のローリング操作に基づいており、他方、特許出願人のセンター・プラグは、スライド可能な程度にかみ合うことを絶対の条件にしている。

 従ってJensenのセンター・プラグは、特許出願人の目的からは全く採用し得ない。

(b)さらにまたプチルラバーは、天然ラバーに比べて柔軟性がないとともに剛性の大きいものであるから、両端にフランジを付した(flanged)形態のLockhart特許のセンター・プラグをプチルラバーで形成したら、シートにセットすることも、またシートから外すことができなくなってしまう。従ってLockhart特許又はBujan特許をJensen特許に組み合わせると、一見したところ作動できそうにもない装置(seemingly inoperative device)ができてしまうことになる。

(c)さらに又プチルゴムは、圧縮性が少なくかつ柔軟性に乏しいから、当業者はプチルラバー製プラグが円筒形であり、シートに対して僅かなトレランス(公差)で生計されなければならないと考えるかもしれない。

 そうすると仮にシリコン・コーティングを潤滑剤として適用したときに、Parson特許又はLockhart特許のフランジのようにシートからプラグが脱落することを防止するものが何もなくなってしまう。

Eさらに裁判所は、先行技術文献以外の証拠に関する考察(いわゆる2次的考察)を行いました。→2次的考察とは

 本願発明が自明なものでないことに関する前述の理由に加えて、同じ結論を示唆する付随的な要素の証拠が原告(特許出願人)から提出された。

 市場において特許出願人の装置が商業的に成功していることは、その発明が自明でないこと、すなわち進歩性が存在することの重要な証を示唆している。

 このことと相まって、特許出願人の発明以前にダブル・コンパートメント・バイアルが成功しなかったことを示唆する証拠が提出されている。証言者Ezaの証言は、

・他の研究者又は研究機関が水分透過の課題を試みて失敗したこと(→他人の失敗とは)

・その課題に対する商業的に成立する解決策が長年の課題であったこと

 を証拠付けている。

 このことに関しては、次の判例を参照せよ。

 388 F.2d 1018 In re Tierney

390 F.2d 1003 In re Moore

これらの付随的事実は、本願発明が自明ではない、つまり進歩性の要件を備えることの、我々の判断を裏付けているのである。

 従ってこの審決は取り消される。


 [コメント]
@本件は、課題の解決手段自体は、設計的事項(材料の選択)のように見えても問題(混合バイアルの水収納部側から薬収納部側へ水が透過して薬が劣化すること)の原因が存在するときには、非自明性(進歩性)を認めることができるという判断が示された事例です。

A従来の先行技術は、特許出願人の試み(水を透過しにくい硬質のプチルラバーでプラグを形成する)ことに関する示唆が存在しませんでした。むしろ、プラグを嵌合させるためのシートの内面のヒビに問題があると考えて、ヒビを塞ぎ易いようにプチルラバーとは正反対の柔らかいプラグを作ることが教示しており、課題の解決に十分な成果を挙げることができませんでした。

 言い換えれば、本件特許出願人の発明の構成からは遠ざかる(teaching away)ような開示内容であったのです。こうした他人の失敗の存在が本願発明の構成の意義を際立たせたともいうことも言えます。

阻害要因とは

Bさらにまた先行技術の関係では、先行技術の構成から特許出願人の発明へ設計変更すると一見して作動しない装置(inoperative device)になってしまうという事情もあり、これらを総合して特許出願人は先行技術から自明ではない(進歩性がある)と判断されることになったのです。


 [特記事項]
 
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