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●平成26年(行ケ)第10101号(拒絶審決取消請求・棄却)


発明該当性/特許出願/暗記学習用教材

 [事件の概要]
(1)原告は、平成24年12月4日、発明の名称を「暗記学習用教材、及びその製造方法」とする特許出願(特願2012−277387号)をした。

 特許庁は、平成25年7月31日付けで第1回目の拒絶理由を通知し、特許出願人は、同年8月23日付け手続補正書により、本願の特許請求の範囲の補正をした。

 特許庁は、同年10月1日付けで第2回目の拒絶理由を通知し、同年11月26日付けで拒絶査定をしたため、特許出願人は、これに対する不服の審判を請求した。


(2)特許庁は、これを不服2013−25925号事件として審理し、平成26年3月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月2日、特許出願人に送達された。


(3)原告は、平成26年4月18日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

[特許出願に係る発明の内容]


{発明の目的} (段落0005〜0006)

 (従来の)教材のうち、色付き透明シートを用いて暗記すべき事項を隠すものは、紙面を二色刷りとする必要があるためコスト高となり、また、紙面を構成する教材とは別物品である色付き透明シートを用いること自体が煩わしいものとなっている。他方、紙面に掲載された文字列の一部を空欄にした教材にあっては、学習者が空欄に入れるべき文字列を思い出すことに汲々として空欄以外の文字列には注意が向かない傾向があり、前後の文脈の中で空欄に入れるべき文字列を意識する姿勢に欠けやすいものとなっている。そこで本発明は、簡素で取扱い性に優れながら、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができる暗記学習用教材、及びその製造方法を提供することを目的とする。 


{発明の構成}

 【請求項1】

 原文文字列の一部を伏字とすることにより作成された暗記学習用虫食い文字列が表示された暗記学習用教材であって、

 前記暗記学習用虫食い文字列は、

 前記原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、

 前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、

 前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである、暗記学習用教材。

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{発明の作用・効果}

この暗記学習用教材を用いた学習として、学習者はまず、色付き透明シート等の用具を用いることなく第1の虫食い文字列を見て、これに設けられた第1の伏字部分に入れるべき文字列(以下、「第1の正答文字列」と呼ぶ場合がある。)を思い浮かべる。学習者は次に、第2の虫食い文字列を見る。すると、第2の虫食い文字列では、第1の虫食い文字列において第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所が伏字とされていないため、第1の伏字部分に入れるべきであった文字列を確認することができ、これにより先程自分が思い浮かべた内容が正しかったかどうかを知ることができる。またここで、第2の虫食い文字列では、第1の虫食い文字列において第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられているため、学習者は引き続き、第2の伏字部分に入れるべき文字列(以下、「第2の正答文字列」と呼ぶ場合がある。また、これと上記「第1の正答文字列」とを併せて単に「正答文字列」と呼ぶ場合がある。)を思い浮かべる。そして学習者は、第1の虫食い文字列に戻る。すると、第1の虫食い文字列では、第2の虫食い文字列において第2の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所が伏字とされていないため、第2の伏字部分に入れるべきであった文字列を確認することができ、これにより先程自分が思い浮かべた内容が正しかったかどうかを知ることができる。

このような一連の動作により、この暗記学習用教材を用いた暗記学習が進められる。ここで学習者は、与えられた文字列のうち、伏字部分のみならず、伏字とされていない箇所についても意識して読む癖をつけなければ両方の伏字部分に正答することが難しいことから、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習をするようになる。つまり、この暗記学習用教材によれば、簡素で取扱い性に優れながら、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができる。」(段落【0008】)

 「原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものであってもよい。これらの著作物は一般に、注意深い精読が求められるものであるため、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができる本発明を適用するのに特に好適である。」(段落【0012】)

※著作権法第13条各号…憲法その他の法令、国等の告示等、裁判所の判決・決定等


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[審決の内容]

@本願発明は、何ら自然法則を利用したものではなく、「発明」に該当しないものであり、特許法29条1項柱書きに規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから、同項の規定により特許を受けることができない。すなわち、

(a)本願発明は、特定内容の文字列が表示された教材であると認められるが、文字列が表示された教材それ自体は、学習用教材として広く一般に知られているものであって、本願発明の学習用教材は、この点において、文字列の内容は別として、従来のものと何ら変わるところはないから、本願発明の創作的特徴部分は、「前記原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである」との文字列の内容、すなわち、暗記学習に供する文字列の内容そのものにのみ存するということができるところ、暗記学習に供する文字列の内容をどのように表現し、暗記学習に適したものとするかは、人間の精神活動そのものに向けられたものというべきであって、それ自体は何ら自然法則を利用したものではないから、本願発明を、自然法則を利用した技術的思想であるということはできない、

(b)「(文字列が表示された)暗記学習用教材」が自然法則を利用した発明に該当する余地が全くないわけではないが、本願発明は、教材そのものを技術的に改良したものではなく、その創作的特徴部分には自然法則が利用されておらず、単に既存の「自然法則を利用した技術により創作されたもの(教材)」が一部利用されているにすぎない、

(c)本願発明は、特定の文字列を伏字として表示した教材に関するものであって、「情報の単なる提示」であるといえるから、「特許・実用新案審査基準」に照らしても、本願発明は「技術的思想でないもの」であり、「発明」に該当するものではないとして、本願発明は、「発明」に該当しないものであり、特許法29条1項柱書きに規定されている「産業上利用することができる発明」に該当するものではない旨判断した。


A仮に、本願発明が「発明」に該当するとしても、本願発明は、本願の特許出願日前に頒布された刊行物である特開平9−160476号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

 この引用文献と本願発明との相違点は次の通りと認定されている。

 (相違点1)

 暗記すべき事項が、本願発明は伏せ字であるのに対し、引用発明はカナ文字である点。

 (相違点2)

 原文文字列が、本願発明は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。


[取消理由]

@取消事由1(本願発明の発明該当性に係る判断の誤り)について

{本願発明の解釈の誤り}

本件審決は、従来技術と本願発明との形式上の相違点を本願発明の「創作的特徴部分」であると捉えた結果、「本願発明は「教材」という物品に関するものであるが、その創作的特徴部分は、暗記学習に供する文字列の内容そのものにあるということができる」と判断した。

 しかしながら、新規な発明は、多くの場合、従来技術と形式上相違する部分が従来技術部分と協働し、そこから相乗効果が奏されるものであるから、発明の「創作的特徴部分」を抽出するに当たっては、発明を規定する文言を発明の構成ごとに分説して従来技術と対比するのみでなく、従来の構成と新規な構成との繋がり部分に潜む相乗的な構成ないし効果を看過することのないようにしなければならない。

 本件審決は、創作的特徴部分の認定において、上記観点からの検討を怠った結果、本願発明における以下の創作的特徴部分を看過した。

 a 本件審決は、本願発明の「暗記学習用虫食い文字列は、前記原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、前記原文文字列を対象として前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列と、を含み、前記原文文字列は、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むものである」との発明特定事項は「いずれも教材に表示された文字列の内容を規定するものである」と認定した。

 しかしながら、上記発明特定事項は、教材に表示された文字列の内容を規定するのみならず、第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列を有すること及び第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列が空間的に別々の場所に表示されていることも規定している。

 そして、互いに異なる箇所が伏字とされた第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列が用意されていることにより、従来の虫食い文字列による「設問」では、学習効果を高めようとして伏字部分を多く設ける傾向があり、その結果、虫食い文字列の内容が漠然としてしまい、学習者が伏字部分にどのような種類の文字列を入れるべきなのかを把握しにくいものとなっていたのに対し、本願発明における暗記学習用虫食い文字列では、伏字部分を二つの文字列に振り分けて設けることができるため、それぞれの文字列の内容が漠然とすることなく、学習効果を高めることができるという効果を奏する構成となっているのであるから(本願明細書の段落【0031】)、本願発明における上記発明特定事項は、従来技術にも存在する部分との協働による本願発明の創作的特徴部分であるといえる。

 b 本件審決は、本願発明の創作的特徴部分は、「暗記学習に供する文字列の内容そのものにのみ存するということができる」と認定した。

 しかしながら、本願発明においては、原文文字列として、「その内容があらかじめ定められたもの」である、著作権法13条各号のいずれかに該当する著作物が用いられていることにより、学習者は、伏字部分の前後関係を契機として自分の記憶を辿り、伏字部分に入れるべき文字を決定することになる。すなわち、本願発明においては、伏字部分が伏字部分のみで機能するのではなく、原文文字列として用いられている著作権法13条各号のいずれかに該当する著作物との協働によって、より活きたものに変容している。

 これに対し、一部が伏字にされた文字列を有する従来の教材では、伏字部分に入れるべき語句又はその語句を書き換えた語句が、学習者の目に見える形で別途提示されており、学習者は、自分の記憶や思考とは無関係に伏字部分に文字を入れ、又は伏字部分は前後の文脈と無関係に機能し得るものとなっている。

 以上のように、本願発明は、暗記学習に供する文字列の内容そのものにのみ特徴があるのではなく、文字列の内容と従来技術にも存在する部分との協働関係が成立しているところに、その創作的特徴がある。


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{本願発明の発明該当性に係る判断の誤り}

 仮に、本願発明が人間の精神活動に関するものを含む場合であったとしても、請求項に記載された発明の構成が、人間の精神活動を支援する技術的手段を提供するものであるときは、「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除するべきではない。すなわち、暗記学習が「人間の精神活動」に該当するとしても、本願発明は、人間の精神活動を支援する技術的手段を提供するものといえるから、本願発明が「人間の精神活動」に該当することを理由として、特許法29条1項柱書きに規定されている「産業上利用することができる発明」に該当しないとすることは許されない。(後略)


A取消事由2(本願発明の容易想到性に係る判断の誤り)について 

 (省略)


[被告の主張]

@本件審決は、創作的特徴部分を上記のように(※)認定した上で、「暗記学習に供する文字列の内容をどのように表現し、暗記学習に適したものとするかは、人間の精神活動そのものに向けられたものというべきであって、それ自体は何ら自然法則を利用したものではないから、本願発明を、自然法則を利用した技術的思想であるということはできない」と判断したのであり、本願発明の認定に看過があったとする原告の主張は失当である。

※…前記第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列を含むこと、この特許出願の出願日において施行されている日本国の著作権法第13条各号のいずれかに該当する著作物の一部又は全部を含むこと。


A本願明細書の段落【0005】、【0006】及び【0008】の記載によれば、本願発明は、教材において表示する文字列の構成に特徴があるものであるが、その文字列の構成は、段落【0008】に記載されている、第1の虫食い文字列をまず見て第1の伏字部分を学習し、その後、第2の虫食い文字列を見て第1の伏字部分の正解を確認した上で、第2の伏字部分を学習するという、人が予め定めた学習手順に沿って学習できるように、第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列を構成したものであって、この文字列の構成は人為的な取り決めにより成されたものであり、また、本願発明の作用効果も、同じ文章の異なる箇所に設けた伏字部分を見比べて学習することによって記憶を促すという、専ら人間の精神活動に基づくものである。

 したがって、本件審決が「暗記学習に供する文字列の内容をどのように表現し、暗記学習に適したものとするかは、人間の精神活動そのものに向けられたものというべきであって、それ自体は何ら自然法則を利用したものではないから、本願発明を、自然法則を利用した技術的思想であるということはできない」と判断したことに誤りはない。

 そして、本願発明の暗記学習用教材は、「紙媒体又は電子媒体により提供されるものであり」、「暗記学習用虫食い文字列又は暗記学習用虫食い表が、紙面に掲載され、又は、表示装置に電子文書として表示されているものである」(段落【0021】)が、当該「教材」としての紙面又は表示装置は、本願発明の創作的特徴部分である暗記学習用虫食い文字列からなる情報を掲示するための単なる媒体以上のものではなく、情報を掲示する媒体に技術的な工夫がされているものではないから、本願発明は、原告が主張するような、人間の精神活動を支援する「技術的手段」を提供するものではない。



 [裁判所の判断]
@裁判所は、発明該当性に関する考え方に関して次のように説諭しました。

(a)特許制度は、新しい技術である発明を公開した者に対し、その代償として一定の期間、一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与えるものであり、特許法は、このような発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(特許法1条)。また、特許の対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項)、一定の技術的課題の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである。

(b)そうすると、請求項に記載された特許を受けようとする発明が特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは、前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。

(c)そして、「発明」は、上記のとおり、「自然法則を利用した」技術的思想の創作であるから、単なる人の精神活動、抽象的な概念や人為的な取り決めそれ自体は、自然界の現象や秩序について成立している科学的法則とはいえず、また、科学的法則を利用するものでもないから、「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当しないことは明らかである。

(d)したがって、請求項に記載された特許を受けようとする発明に何らかの技術的手段が提示されているとしても、前記のとおり全体として考察した結果、その発明の本質が、人の精神活動、抽象的な概念や人為的な取り決めそれ自体に向けられている場合には、「発明」に該当するとはいえない。

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A裁判所は、以上の観点から、本願発明の発明該当性について次のように判断しました。

(a)本願発明は、暗記学習用教材に関するものであって、特許請求の範囲(請求項1)記載のとおり、「暗記学習用教材」、すなわち「教材」という媒体をも、その構成とするものである。

 しかしながら、本願明細書に

・「上記暗記学習用虫食い文字列、又は、上記暗記学習用虫食い表は、紙面に掲載され、又は、表示装置に電子文書として表示されているものが好ましい。現代において文字等を表示する媒体として広く普及しているのは、言うまでもなく紙及び表示装置である。従って、上記暗記学習用虫食い文字列、又は、上記暗記学習用虫食い表が、紙面に掲載され、又は、表示装置に電子文書として表示されることは、学習者の便宜がよく、暗記学習用教材の普及にも資する。」(段落【0015】)、

・「本発明の暗記学習用教材は、紙媒体又は電子媒体により提供されるものであり、以下に説明する暗記学習用虫食い文字列又は暗記学習用虫食い表が、紙面に掲載され、又は、表示装置に電子文書として表示されているものである。以下、本発明の好適な実施形態として、紙媒体たる冊子体を例にして詳細に説明する。」(段落【0021】)、

・「また、上記実施形態では、暗記学習用教材1が冊子体(書籍、雑誌、ムック、ノート等)である態様を示したが、一枚物のチラシ、リーフレット、パンフレット等であってもよい。また、暗記学習用虫食い文字列2A及び暗記学習用虫食い表2Bは、紙面に掲載されたもののほか、コンピュータに接続されたモニタ、携帯電話やスマートフォンの画面等の表示装置に電子文書として表示されたものであってもよい。表示装置に表示されたものとしては、例えば、アプリケーションソフトとして提供されるコンテンツや、インターネットを介して提供されるウェブページ、動画コンテンツ等が挙げられる。更にまた、本発明が具現化可能であればどのような媒体に表示されたものでもよい。」(段落【0051】)と記載されているように、

 本願発明においては、「教材」という媒体自体の種類や構成を特定ないし限定していないのであるから、本願発明の技術的意義が「教材」という媒体自体に向けられたものでないことは明らかである。

(b)上記(a)で認定した本願発明の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれば、

 本願発明は、暗記学習用教材という媒体に表示される暗記学習用虫食い文字列の表示形態及び暗記学習の対象となる文字列自体を課題を解決するための技術的手段の構成とし、これにより、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行うことができるという効果を奏するとするものである。

 そうすると、本願発明の技術的意義は、暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものにあるといえるから、本願発明の本質は、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められる。

 従って、本願発明は、その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり、自然界の現象や秩序について成立している科学的法則、あるいは、これを利用するものではないから、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。

 以上によれば、本願発明は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しないものである。


B裁判所は、原告(特許出願人)の主張に関して次のように述べました。

(a)原告は、本願発明は、

[1]第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列を有すること及び第1の虫食い文字列と第2の虫食い文字列が空間的に別々の場所に表示されていること(@)、

[2]原文文字列として、本願特許出願の日前に施行されている著作権法13条各号のいずれかに該当する著作物を用いることも規定しており、

 これにより、本願発明における暗記学習用虫食い文字列では、伏字部分を二つの文字列に振り分けて設けることができるため、それぞれの文字列の内容が漠然とすることなく、学習効果を高めることができ、

 また、学習者において、伏字部分の前後関係を契機として自分の記憶を辿り、伏字部分に入れるべき文字を決定し得るものとなっているのであるから、

 本願発明は、暗記学習に供する文字列の内容そのものにのみ特徴があるのではなく、文字列の内容と従来技術にも存在する部分との協働関係が成立しているところに、その創作的特徴がある旨主張する(中略)。

 原告が主張するように、本願発明が上記[1]及び[2]の構成を有することにより、本願発明における暗記学習用虫食い文字列では、それぞれの文字列の内容が漠然とすることなく、学習効果を高めることができ、また、学習者において、伏字部分の前後関係を契機として自分の記憶を辿り、伏字部分に入れるべき文字を決定し得るものとなっているとしても、かかる効果は、暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものに向けられたものであるというべきであり、本願発明の本質が、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであるとの上記認定を左右するものではない。

(b)原告は仮に本願発明が人間の精神活動に関するものを含む場合であったとしても、請求項に記載された発明の構成が人間の精神活動を支援する技術的手段を提供するものであるときは、「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除するべきではなく、

 本願発明は、「自然法則を利用した技術により創作されたもの」すなわち「教材」を利用しており、また、情報(原文文字列)の加工過程において自然法則に基づいた技術が利用されているから、「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当する旨主張する。

 しかしながら、本願発明は、「教材」という媒体をその構成とするものであるが、「教材」という媒体自体の種類や構成を特定ないし限定しておらず、本願発明の技術的意義が「教材」という媒体自体に向けられたものであるとはいえないことは、前記(3)エ記載のとおりである。本願発明における「教材」という媒体をその構成として含む意義は、暗記学習の対象となる事項を記録し、表示するために一般に用いられている媒体を利用するにすぎず、このような内容を付加するにすぎない場合には、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当するということはできない。

 また、原告は、「情報(原文文字列)の加工過程において自然法則に基づいた技術が利用されている」旨主張するものの、「自然法則に基づいた技術」が利用されていると抽象的に述べるのみで、

 本願発明における、暗記学習用虫食い文字列は、原文文字列を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、同じ原文文字列を対象として第1の虫食い文字列とは別に作成され、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列とを含むようにするという過程に、いかなる「自然法則に基づいた技術」が利用されているものかを具体的に主張するものではない。

 本願発明は、原文文字列に伏字部分を設けることにより作成された暗記学習用虫食い文字列から成る構成を有するものであるが、かかる構成を含め、本願発明の技術的課題、課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義を総合して検討すれば、本願発明の技術的意義は、暗記学習用教材という媒体に表示された暗記すべき事項の暗記学習の方法そのものにあるといえ、本願発明の本質は、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められることは、前記(4)記載のとおりである。



 [コメント]
@本事例において、特許出願人は、暗記学習の効率を高めるという発明の課題を解決するために、学習教材の異なる場所に、同一の原文の異なる場所に伏字をして得た複数の文字列(虫食い文字列)をそれぞれ教材として表記した構成を提案しています。

 特許出願の明細書には、

・原文の一部を伏字した単一の文字列を教材とした従来の学習方法では、「学習者が空欄に入れるべき文字列を思い出すことに汲々として空欄以外の文字列には注意が向かない傾向があり、前後の文脈の中で空欄に入れるべき文字列を意識する姿勢に欠けやすいものとなっている。」と説明されており(段落0005)、

・これに対して、本発明では、「学習者が一方の虫食い文字列から他方の虫食い文字列に目を移し、つい先刻見たはずの、伏字部分にいれるべき文字列を答えることができない場合、学習者は、先の一方の文字列を見ていたときには伏字部分に入れるべき文字列を思い出すことに汲々としており伏字部分以外の文字列には注意が向いていなかったことが原因である、と、自省することになるであろう。」(段落0029)

 と説明されています。


Aこれらの記載を踏まえると、特許出願人が採用したアイディアの肝の部分は、

・“人は失敗から学ぶ。”

・“失敗から学んだことは簡単には忘れない。”

 という経験則を利用して、類似の虫食い文字列を出題して、敢えて失敗(誤答)させることにより、“問題文の全体に注意を向けなければならない。”という回答のコツを自習させることにあると考えらえます。

 発明は経験則に基づくものであっても構いませんが(→自然法則とは)、前述のような経験則は、人間の精神的活動に深く結びついているため、“自然法則を利用した”という特許法上の発明の定義を満たしていません。

 従って、特許出願人のアイディアに対して、“人間の精神活動そのものに向けられたものというべきであって、それ自体は何ら自然法則を利用したものではない”とした審決の判断及びこれを支持した判例の解釈は正しいと考えます。


Aなお、原告(特許出願人)は、“二つの虫食い文字列の互いに異なる位置を伏字として相補的に設問及び解答を提供し合うという技術的思想”が存在するから、発明該当性があると主張しています。

 しかしながら、異なる文章を同じ場所に書いたら文字が重なって読めないですから、それらの文章が相補的な設問であろうがなかろうが、別の場所に書くのは当たり前のことです。

 文章を書くときに別々の場所に書くというのもなんらかの自然法則を利用しているのかもしれませんが、発明の課題から離れたところで取ってつけたように自然法則を利用していると主張しても、審判官や審判官の心証には響きません。

 これに関しては、先例があります。昭和31年(行ナ)第12号 電柱広告方法事件


B本事例では、“「教材」としての紙面又は表示装置は、本願発明の創作的特徴部分である暗記学習用虫食い文字列からなる情報を掲示するための単なる媒体以上のものではなく、情報を掲示する媒体に技術的な工夫がされているものではない。”という審決が支持されました。これに対して、性質の異なる文字情報を組み合わせ、文字を表示する媒体に特別の技術的意義を持たせることにより、発明該当性が認められた事例もあります。

平成29年(行ケ)第10232号(ステーキの提供システム事件)


 [特記事項]
 
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