[事件の概要] |
この事件は、特許権侵害訴訟の第一審判決(請求棄却)へのアピール(控訴)及びクロスアピールに対する控訴審である(→クロスアピール(cross-appeal)とは)。 地方裁判所は、訴えられたDurand-Waylandの製品は文言上のみならず均等論の下でも何のクレーム(請求項)も侵害していないと認定した。 我々は、連邦民事訴訟手続(Fed.R.Civ.P) 52(a)に照らして、明らかな誤りを見い出すことができないため、特許権を侵害していないとの判決を肯定し、Pennwalt特許の有効性に関する判決の一部を、実質的な意味がない(as moot)ものとして、取り消す(vacate)。 →vacateとは(判決の) [事件の経緯] (a)Pennwaltは、Durand-Waylandが米国特許第4,106,628号の特許のクレーム1、2、10、18を侵害しているとして、訴えた。この特許は、“フルーツ類の仕分け機”と称するAran J. Warkentin及びGeorge A. Milesの発明に対して付与されたものである。 (b)特許の侵害の成否及び特許の有効性の論点に関して、陪審なしのトライアルが行われ(→non-jury trialとは)、1984年3月22日、地方裁判所は、次の判決理由(Opinion)を示した。 ・問題となっているクレーム(claims at issue)は、先行技術から予期(anticipate)することが可能ではない〔新規性を有する〕。 ・本件特許は、旧特許法第102条(b)〔特許出願日から1年以上前に公知となり或いは販売された発明の主題には特許をしない旨の規定〕には該当しない。 ・問題になっているクレームは、文言解釈上でも均等論による解釈でも侵害されていない。 (c)1984年4月26日付けの非公開の追加の指令(supplemental order)により、地方裁判所は、法律問題として、争点化されているクレームは、先行技術から自明ではないと、結論した。 (d)Pennwaltは、文言解釈上及び均等論による解釈上侵害は成立しないという地方裁判所の決定に対してアピールした。Durandは、特許の有効性の決定についてアピールした。 (e)この事件の論点は、特許権の侵害は成立しないという地方裁判所の決定に明確な誤りがあるか否かである。 [特許発明の説明] {特許発明の内容} 10.仕分けるべきアイテムの重量に比例したシグナルを発生する電子的計量手段と、 予め定められた基準に応じて設定された数値を有する予め定められた個数の参照シグナルを発生する第1参照シグナル手段と、 前記電子的計量手段により発生された参照シグナルと前記第1参照シグナル手段により発生された参照シグナルとを比較する第1比較手段と、 前記仕分けるべきアイテムの色彩に比例したシグナルを発生する光学的検知手段と、 予め定められた基準に応じて設定された数値を有する、予め定められた個数の参照シグナルを発生する第2参照手段と、 前記光学的検知手段により発生されたシグナルを、前記第2参照シグナル手段により発生された参照シグナルと比較して、更にシグナルを発生する第2比較手段と、 仕分けるべきアイテムの色彩に比例して漸増的(incrementally)にシグナルを発生するクロック手段と、 仕分けるべきアイテムが前記前記光学的手段及び電子的計量手段の間で移動する過程において前記クロック手段からのシグナル及び前記第2比較手段からのシグナルに応答して当該アイテムのポジションを継続的に指示する第1ポジション指示手段と、 前記クロック手段からのシグナル並びに前記第1対比手段及び前記第1ポジション指示手段からのシグナルに対応して、前記アイテムが計量後に仕分けられるべきポジションを指示する第2ポジション指示手段と、 前記第2ポジション指示手段からのシグナルに応答して、複数の仕分け用ポジションのうちの予め定められた一つのポジションに前記アイテムを排出する排出手段と を具備する、自動仕分け装置。 {特許発明に関する認定事項} (a)本件特許(628号特許)の対象は、仕分け機である。 (b)この発明の基本的な目的は、フルーツのようなアイテムを、色彩・重量或いはこれらの組み合わせによって迅速に仕分けることである。 (c)前記クレーム1及び2に記載された仕分け機は、前記アイテムをトラックに沿って運搬するように構成されている。前記トラックは、前記アイテムの重量に比例した電気的シグナルを発生する電子的計量手段と、シグナル比較手段と、クロック手段と、ポジション指示手段と、排出手段とを備えている。これら各手段は、それぞれ特別な機能を有する。 (d)本件特許の明細書は、それらのクレームの各ステップを実現する個別 (discrete)の電子的要素からなる固定配線式(hand-wired)のネットワークについて詳しく言及している。そのステップとは、例えば“電子的計量手段からのシグナルを参照シグナルと比較して、適当な時刻に前記アイテムをその重量に応じた容器へ排出するために適当なシグナルを送る。”というようなことである。 (e)クレーム10及び18に記載した仕分け機は、結合式の多機能タイプであり、これによれば、アイテムは計量手段を横切った後に光学スキャナを通過する。この時、光学スキャナは、アイテムの色彩に比例した電気的シグナルを発生する。そして計量装置からのシグナルと色彩センサからのシグナルとは結合され、前記アイテムを、その重量及び色彩に応じた容器へ排出するように、適当な時刻に適当なシグナルを送信する。 [係争物に関する認定事項] @Durand-Waylandは、2つの異なるタイプの仕分け機を製造・販売している。 A訴えられた第1の装置(Microsizer)は重量のみで仕分けて行うものであり、バージョン2又はバージョン5のラベルが貼付されている。 B訴えられた第2の装置は、バージョン6のラベルが貼付されており、色彩及び重量で仕分けを行う。この仕分けの手段として、前述のMicrosizerと合わせて、Microsorterと称する色彩検知手段が使用されている。 |
[裁判所の判断] |
@控訴裁判所は、文言侵害に関して次のように判断しました。 (a)Pennwaltは、クレーム1及び2の全ての要件並びにクレーム10及び18は、製品において文言通りに読み取ることができると主張した。 Pennwaltは、地方裁判所の判断は、クレームのミーンズ・プラス・ファンクションの言い回しを逸脱(go beyond)し、また訴えられた製品の構造と明細書に開示された構造とを比較した点に間違いがあると主張した。そうした比較により、特許権が侵害されていないという裁判所の決定が導き出されたというのである。 Pennwaltの主張は、グラバータンク事件の判決の下記の説示に依拠している。 “仮に訴えられた対象が明確にクレームの範囲に収まるのであれば、侵害は成立し、それを以て{この点に関する}考察は終了する。” Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Prods. Co., 339 U.S. 605, 607 クレーム中のミーンズ・プラス・ファンクションの表現方法の国語的な広さという観点では、そのクレームの要素の機能を実現する全ての手段が文言侵害のテストに適合する。 1982年の特許法第112条を見よ。 しかしながら、これは{正しい}テスト方法ではない。グラバータンク事件の判決は、手段(means)の限定が許された1952年の特許法改正以前に出されたものだからである。 この成文法の執筆者の一人であるRitch判事は、同法第112条第6パラグラフの採用にあたって次のように説明している。 “もしこのプラクチスを採用するのであれば、解釈をするべきエレメント又はステップは、明細書に開示された対応する構造・材料・行為並びにその均等物をカバーするものと解釈しなければならない。このことは法律上で強制的(mandatory)である。” (中略) (b)クレーム中に記載された機能を表現するどの手段も文言上の条件を満たすという原則的な解釈手法は、米国特許法第112条第6パラグラフに関しては除外(rule out)される。 明細書に開示された事柄の均等物に保護範囲が包含することは認められるけれども、前記の規定は、クレームの条件を文言上の充足に関して、{これのみを理由として保護を認めることに}限定的に作用する。 Data Line Corp. v. Micro Technologies, Inc., 813 F.2d 1196, 1201 仮に要求される機能が、訴えられた装置において正確に実現されていないとすれば、第112条第6パラグラフでは、均等性は適用されない点に留意するべきである。 第112条第6パラグラフは、均等論の下で訴えられた装置により均等の機能が実現されるか否かを決定する役割を有しない。 (c)従って、地方裁判所がDurand-Waylandの構造と特定の機能を実現するために明細書に開示された構造とを比較したのは、法体系的に間違いではない。成文法は、それが述べる通りのことを正確に意味している。すなわち、クレームの要件に文言通りに当てはまるか否かを決定する際に、クレームが陳述された機能を実現する手段として表現された場合には、裁判所は、訴えられた装置を{明細書に}開示された装置と比較し、その構造に関してクレームされた機能を実現する手段として表現されている場合には、裁判所は、訴えられた装置を{特許出願人によって}開発された構造と比較し、その構造に関してクレームに表現された機能と同一性を担保するように均等物を定めなければならない。 Palumbo v. Don-Joy Co., 762 F.2d 969, 975, (d)論争が生じたときに、ミーンズ・プラス・ファンクション形式で記載されたクレームに関して、特許権者が最終的な立証責任を負う。特許権者は、訴えられた装置の構造が実現する機能がクレームに記載された機能と同じであるか、或いは明細書に開示された構造と均等であることを立証しなければならない。 ところがPennwaltは、結局のところ、仮に訴えられた装置がクレームに記載された機能を実現するとしたら、それ自体が構造的に均等であると述べているに過ぎない。こうした主張は間違いである。この主張は、米国特許法第112条第6パラグラフを完全に無視しており、先の判例によって否定されている。 (e)地方裁判所が構造面での均等を認定しなかったことが正しいか否かに関して、当裁判所は判断しないし、またそうする必要もない。何故ならば地方裁判所は、いずれにしても、訴えられた装置がクレームに特定された機能と同じ機能を実現するものではないと認定しているからである。例えば地方裁判所は、訴えられた装置がポジション特定手段(仕分けるべきアイテムを追跡する手段)を有しないと認定している。この認定は、文言侵害が成立するという認定を否定するものである。 A控訴裁判所は、均等論による侵害に関して次のように判断しました。 (a)均等論では、訴えられた装置がクレーム発明と実質的に同じ態様(substantially the same way)で、全体として実質的に同じ機能又は作用を実現し(performs substantially the same overall function or work)、全体として実質的に同じ結果(substantially the same overall result)をもたらす時には、侵害が認定され得る。もっとも必ず侵害されるとは云えない。 Perkin-Elmer Corp. v. Computervision Corp., 732 F.2d 888, 901 Graver Tank, 339 U.S. at 608 しかしながら、こうした公式化(formulation)は、解釈者がクレーム中の条件を無視しても良いということを意味しない。事件の判決は次のように述べている。 (b){特許権の範囲を解釈しようとする}人は、まずクレームの記載からスタートするべきである。先駆的でない発明についても、ある程度の均等の範囲があることは認められる。 しかしながら、均等論の適用に関して見せかけの上べ(guise)の下で、クレーム中の有意義(meaningful)な、{但し特許権者にとっては}過剰(plethora)な構造的又は機能的限定を消し去る(erase)するようなことをしてはならない。 それらの限定は、公衆が侵害を回避するための拠り処となるからである。 均等論は、衡平を行う(do equity)ように意図されている。そして、前記衡平が要求するときには、発明者を、意味論上(semantic)の拘束手段(straight jacket)から解放するものである。 しかしながら、均等論は、非均等な装置をカバーするように、クレーム全体の書き直しを許容するものではない。 それは、重要でない変更(insubstantial change)を超える事柄を包含するようにクレームを拡張することになる。 (c)均等論を適用するに際しては、それらの限定がクレーム全部の文脈との関係で検討されなければならない。 クレーム中のそれぞれのエレメントは重要かつ本質的 (material and essential) であるということが確立された(settled)判断手法である。 従って、裁判所が侵害を認定するために、原告は、訴えられた装置において、それぞれのエレメント或いはその実質的な均等物が存在することを示さなければならない。 Lemelson v. United States, 752 F.2d 1538, 1551 “実質的な均等物”(substantial equivalent)であるためには、訴えられた装置においてクレームに記載されたエレメントが、クレームされた発明と異なる態様でその機能を発揮するものであってはならない。 (d)Pennwaltは、先例(Decca Ltd. v. United States, 544 F.2d 1070, 1080)を引用して、次のように主張した。 “訴えられた装置は、常に特許明細書の図示例が固定配線方式の回路によって行ったことを、単にコンピュータで行ったにすぎない。” 仮に訴えられた装置が、前記固定配線式回路を前記コンピュータに置き換えた点のみで相違するというPennwaltの主張が正しいのであれば、当該装置が本件特許権を侵害していることの十分な根拠となったであろう。 (e)十分なトライアルの後に、地方裁判所は、訴えられた装置にはクレーム発明の幾つかの機能が欠けており、実質的なパフォーマンスが相違すると認定した。 地方裁判所によれば、“Microsierは、所要の結果を実現するために、クレーム発明のエレメント及び作用と異なるエレメント及び作用を採用しているから、これらのエレメント及び作用がクレーム発明のエレメントと均等である場合に限って、侵害は成立すると解される。” こうした観点から、地方裁判所が均等論の下での侵害が成立しないとの結論に至るに当たり、発明の要素単位 (element by element)の対比に拠ったことが明らかである。 なぜなら、訴えられた装置は、Pennwaltの発明と実質的に同じ機能を実現しないからである。 例えば、地方裁判所は、次のように認定している。 ・本件特許の装置は、各アイテムが排出される前に、仕分けられるアイテムのさまざまなポジションを指示するためにクロックパルスに応答するシフト・レジスタを用いる。 ・これに対して、Microsizerは、仕分けられるアイテムのポジションを決定するためのいかなる“指示手段”(indicating means)も有しない。仕分けられるアイテムのポジションではなく、重量及び色彩のデータを保存(store)するからである。 ・一まとまりの(a piece of)フルーツがMicrosorterによって分析された後に光学的検知手段から計量器へと移動する迄の間によって決定された色数値は、色数値キュー(color value queue)の中で仕分けられる。 ・色数値キューポインタは、それ自体の数値が変化するものであり、次に計量器に到達する一まとまりのフルーツに対応するデータのロケーションを示す。 ・重量キューポインタもまた、これ自体の数値が変化するものであり、計量器と排出場所との間のカップの数に対応する。 ・マイクロプロセッサのソフトウェアは、ランダムアクセスメモリーを用いて、Microsorter及び計量器によって発生したアナログ信号を変換した結果のアナログ信号を保有する。 ・そしてクロック制御の下で、キューポインタは、前記一まとまりのフルーツについてのデータを有するメモリーロケーションを示す。 ・データは決して変更されず、プログラムの後の部分で利用されるためにソフトウェアのルーチンが呼び出すまで、そのまま保存される。 ・従って、Microsorterは決して第1ポジション指示手段でも第2ポジション指示手段でもない。 ・本件特許の装置はフルーツがどこに在るのかを示すデータを発生する。それは各カップの進行(progression)の軌跡を示すことである。 しかしながらMicrosorterはそうではない。 (f)Pennwaltは、地方裁判所が法律問題としてクレームの解釈を誤り、この誤った解釈に導かれて事実の認定を行ったと論じた。すなわち、Pennwaltは、地方裁判所が明細書に着目して、訴えられた装置と実施例とを比較したと主張したのである。 すでに述べたように、米国特許法第112条第6パラグラフの分析法によれば、係争物を実施例と比較することに何の問題もない。しかしながら、地方裁判所は、なにも、こうした比較のみで限定的に特許侵害の成否をしたわけではないということは明白である。 地方裁判所は、機能の均等性にも着目しているからである。 この事案について非侵害という主要事実(ultimate fact)及び当該主要事実を裏付ける関間接事実(subsidiary fact)を支える証拠に要求される立証の程度(the preponderance of the evidence)を最初から決定することは当裁判所の職分(province)ではない。 →the preponderance of the evidenceとは 事実、連邦民事規則(Fed.R.Civ.P)52(a)により、当裁判所が事実認定者(fact finder)の役割を引き受けることは禁止されている。それはトライアルコートの領分(domain)だからである。 Anderson v. City of Bessemer City, North Carolina, 470 U.S. 564, 573 先例(333 US. 364)によって説諭されているように、たとえ或ることを裏付ける証拠が存在したとしても、裁判所が全部の証拠に基づいて事実認定を見直したときに、なおも誤りがあったとの明確かつ強い確信が残る(be left with)ときには、当該認定は誤りである。 26.ここでは、クレームによって要求される唯一の機能或いはこれと均等な機能がDurand-Waylandの仕分け機によって実現されないときには、地方裁判所は間違っておらず、地方裁判所による非侵害の認定は支持されなければならない。 (g)Pennwaltは証言の重みを再検討するように我々に要請した。すなわち、裁判所が指定する証人であるDr.Vacrouxは均等論による侵害という{裁判所の認定とは}反対の事実を強く裏付けており、その証言によれば、侵害はなかったという裁判所の認定は成り立たないというのである。 しかしながら、Pennwaltは、Dr.Vacrouxの証言の効果を誤解している。 Dr.Vacrouxは、技術的な専門家であって、法律の専門家ではない。彼は、法律的なスタンダードを事件に当てはめて侵害を分析することを期待されていないし、そうしたことをしてもいない。 彼は、例えば{特許出願等の}手続の履歴に照らして本件特許のクレームに認められる均等の範囲を決定することに関与していない。 この意味において、Dr.Vacrouxのレポート及び証言は、Pennwaltの立場よりも特許を侵害していないという地方裁判所の認定を全面的に裏付けるものである。 28.Pennwaltは、訴えられた装置は、特許発明と“機能的に均等である。”というDr.Vacrouxの書面による初期のレポートの結論的な陳述の依拠している。 しかしながら、Dr.Vacrouxは、そこで次の様にも述べている。 “たとえ構成要素や手法に相当の相違があったとしても、新しいデザインというものは、それが置き換えられる既成のデザインと全体として均等であることがあり得る。” さらにDr.Vacrouxは、裁判所に呼び出された際に、裁判官による質問に答えて、‘訴えられた装置は、クレーム発明と同じタイプの幾つかのオペレーションを異なる態様で実現する’旨を証言している。 具体的には、彼は次のように述べている。 “それら{訴えられた装置及びクレームされた装置}は均等ではないが、その内部のオペレーションは機能的に均等である。なぜなら、それらは同じタイプのオペレーションを実現するからである。それらは同じタイプのオペレーションを実現するからである。それらの装置は、比較し、シフトし、付加する。それにより異なる態様により同じタイプの内部的機能が得られる。” (i)単に訴えられた装置は幾つかの{特許発明と}同じタイプのオペレーションを実行するというDr.Vacrouxの陳述は、幾つかのオペレーションにおいて異なるという裁判所の認定を裏付けるものである。それは彼の他の証言や書面によるレポートと矛盾しない。 従って、裁判官は訴えられた装置がクレーム中のそれぞれの機能的限定を実現し、かつ実質的に同じ態様であるかどうかの論争について、地方裁判所は専門家の意見に正確に従ったことになる。 正確な法律上のスタンダードで均等の認定を否定する事実について、専門家の証言があった場合、裁判所は侵害を否定することに関して非難されるべきではない。 Perkin-Elmer v. Westinghouse, 822 F.2d at 1531 (j)均等の機能の範囲については、地方裁判所は、{特許出願の}手続の履歴に照らして、クレームを正しく解釈した。 その際に、裁判官は、発明者によって丁寧に選ばれた言葉使い(phraseology)に光を当てて読解(read)するべきであると述べた。何故なら、“クレームされた装置は、{明細書に}注意深く解説されているからである。従って、クレームは先行技術に照らして読解されるべきではない。” 裁判所が正しく留意(note)したように、本件特許発明は、パイオニア発明ではないが、先行技術の群集(crowded art)から頭一つ抜けた存在である。 このクレームは、仕分けるべき対象の表現として“アイテム”という用語を用いているから、その観点では広い概念である。従って、あらゆるタイプのアイテムの仕分け機が関連する技術分野(relevant prior art)に入る。 しかしながら、このクレームは、当該仕分け機がどのように作動(operate)するのかという観点では、狭い。 このクレームは、{特許出願の手続の}当初において、“ポジション指示手段”という用語及びこれに関する機能的な限定を含まなかった。 従って、{特許出願人によって}追加されたこれらの要件は、特許性が認められるために決定的な要素であったと理解される。 故にこれらの要件を少なくとも均等の範囲で(equivalently)適合しない装置は、クレーム発明と実質的に同じ態様で機能するものではない。 Perkin-Elmer v. Westinghouse, 822 F.2d at 1532, Chemical Eng'g Corp. v. Essef Indus., Inc., 795 F.2d 1565, 1572 (k)トライアル裁判所は、訴えられた装置は、仕分けられるべきアイテムのポジションを決定するポジション指示手段を有していないと正しく決定した。特にクレーム10及び18に関しては裁判所は、“マイクロプロセッサーは、仕分けるべきアイテムのポジションではなく、その色彩及び重量を保有する。”と正しく認識した。 問題となっているクレームがそれぞれポジション指示手段を構成要件として要求し、同じ分析が適用されるべきである。 従って、ここにクレーム10の関連箇所を引用する。 “仕分けるべきアイテムが前記前記光学的手段及び電子的計量手段の間で移動する過程において前記クロック手段からのシグナル及び前記第2比較手段からのシグナルに応答して当該アイテムのポジションを継続的に指示する第1ポジション指示手段と、 前記クロック手段からのシグナル並びに前記第1対比手段及び前記第1ポジション指示手段からのシグナルに対応して、前記アイテムが計量後に仕分けられるべきポジションを指示する第2ポジション指示手段と、” (l)Durand-Wayland側の専門家であるDr. Alfordは、訴えられた装置が“ポジション指定手段”で定義される前述の限定に適合するいかなる要素も有しないと証言した。 そしてPennwaltは、訴えられた装置が本件特許発明の要件として要求されているように、移送中のアイテムの物理的ロケーションを、連続的或いは他の態様によって追跡sすること(keeping track of)により、仕分けするものではないと認めた。 (m)Pennwaltは、訴えられた装置において、前記アイテムがトラック{移送経路}上のどこに物理的に見い出すことが可能であると主張した。 Pennwalt側の証人であるDr. Mooreは、“特定のフルーツが計量器から投下(ドロップ)地点まで移動している間に、そのフルーツの特定のロケーションを見い出すことを可能とするためには、そのフローツに関して保有された数値より、ポインターがスタートキューを指示している地点から元の地点までの距離を計算すれば良い。”と述べている。 Durand-Wayland側の専門家であるDr. Alfordは、こうしたことが可能であると認めている。それ故にPennwaltは、訴えられた装置が、ポジション指定手段を有すると主張している。 (n)Dr. Mooreの証言が不十分であることを理解するために技術的なことを説明する必要はない。 Dr. Moore自身が認めているように、訴えられた装置は、彼が“できる”と言ったことをしていないのである。 フルーツを物理的に追跡するという手法は、Durand-Waylandの仕分け機が作用の一部として採用するものではない。 これに対してクレーム発明は、仕分けるべきアイテムのポジションを連続的に指定する手段を要求していることが認められる。 マイクロプロセッサは、理論上、こうした機能を実現するようにプログラムすることができたであろう。しかしながら、証拠上、我々はDurand-Waylandの装置がクレーム発明と実質的に異なる機能を奏すると解釈せざるを得ない。 (o)クレーム10の解釈に関連して、Pennwaltは、彼が主張するところのDurand-Waylandのポジション指定手段は“第2対比手段からの信号に応答して”という要件に適合していていないことを認めた。 何故なら、Durand-Waylandの装置は、排出地点の手前において何かを比較するということをしていないからである。 ところがPennwaltは、作動可能(operable)なエレメントの位置を変えたに過ぎず、クレーム発明とは、オペレーションとそれにより達成される結果とが同じであると主張する。 しかしながら、Pennwaltの分析は幾つかの重要な点で間違っている。 (p)第1に、クレームは、“第1ポジション指示手段”が特定にシグナルに応答することを要求している。従って、訴えられている装置のうちの幾つかの要素のコンビネーションもまた“ポジション指示手段”であるという主張は、当該コンビネーションがその特定のシグナルに応答しない限り、単なるレッテル貼り(label)に過ぎず、無意味である。 例えば次の判例を見よ。 “クレームの一部の文言の切り捨て(truncation)に基礎を置く解釈は拒否される。” Polaroid Corp. v. Eastman Kodak Co., 789 F.2d 1556, 1570 またこの点に関して、Panduit Corp.の判決では次のように述べている。 “地方裁判所は、クレームの解釈に際して、クレームされたタイ{ケーブルタイ}の単一の単語表現としてそれぞれを分析する上で基本的な法律上のミスを犯している。特許法において、用語(ここでは“歯”、“ヒンジ”、“リッジ”)は、クレーム及び明細書中の記述以外の何物をも意味していない。ここでのクレームの限定を無視すれば、米国特許商標庁における{特許出願の}審査が無駄になってしまう。そこでの記録となく裁判所がクレームを書き換えること{に等しい解釈}を認めてしまうと、クレームに関する成文法の仕組み、すなわち、{特許出願人自身に}記載させかつ提出させたクレームを、{政府が}審査した上で許可し、{権利者に}実施させるという仕組みが無に帰する。 Panduit Corp. v. Dennison Mfg. Co., 810 F.2d 1561, 1576 (q)第2に、地方裁判所は、アイテムの重量及び色彩についての情報を保有するDurand-Waylandの仕分け機のメモリーコンポーネントは、クレームのポジション指定手段と実質的に同じ機能を奏するというPennwaltの主張を退けた。この判断は正しい。 地方裁判所は、係争物のメモリー機能は、仕分け機内でのアイテムの物理的な所在を連続的に指定する機能と実質的に同じではないと認定したのである。 この点に関して、争う余地のない(indisputable)記録によれば、“連続的に指示”という要件を追加する前は、先行技術に対して特許可能ではなかった。 この先行技術とは、アイテムの所在を連続的に追跡するものではなく、訴えられた装置のように、メモリーの仕分け基準に基づいて情報を保有するものである。 (r){原告が主張するように}発明の盗用(pirating)を回避するために{特許出願の}後のコンピュータ技術の発展をクレームの範囲に含めることの要請があるとしても、ここで述べていることは、その要請とは関係がない。 そもそも、発明者がクレームに記載する機能をより広くしていたら、特許を取得できなかったかもしれない。 Pennwaltは、非常に特殊な機能を加えることのみによって、{特許}クレームを獲得しておきながら、均等論を用いて他ならぬその(very)限定を回避しようとしている。そうしたことはしてはならない。 Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1 Exhibit Supply Co. v. Ace Patents Corp., 315 U.S. 126, 136 Coleco Indus., Inc. v. United States Int'l Trade Comm'n, 573 F.2d 1247, 1257 端的に言えば(Simply put)、Durand-Waylandの仕分け機のメモリーコンポーネントは、高額スキャナから計量器までの間又はクレーム2の如く計量器から適当な排出場所までの間にアイテムを物理的に追跡することと同じ又は実質的に均等な機能を有していない。 (s)Pennwaltの議論とは反対に、地方裁判所は、均等論の下での機能の均等の範囲を考慮する必要を無視していない。 むしろ地方裁判所は、証拠の評価において、Durand-Waylandの装置のいかなる要素も第1ポジション指示手段の機能に許される均等の範囲に含まれる機能を有していない。 その機能は訴訟の対象となっている、全てのクレームで要求される。 訴えられた装置のいずれの手段もその機能を有さないので、文言侵害は成立しない。 またその機能と均等の範囲で、訴えられた装置の要素が置換されたということもなく、均等侵害も成立しない。 従って、特許権が侵害されていないという地方裁判所の認定に明白な誤りはない。 (t)そこで当裁判所は、特許権が侵害されていないという判決を肯定する。特許が無効である旨のクロスアピールに関しては棄却し、特許の有効性に関する原判決の一部を実質的な意味がないものとして取り消す。 |
[コメント] |
@均等論の解釈論として、かつてはクレーム全体としての均等を重視する立場(Hughes Aircraft Co.事件 717 F.2d 1351)と、発明の要素単位(element by element)の比較により判断する立場とがありましたが、本事例において裁判所が後者の立場を採用したことを契機としてこれが主流の考え方となりました。 前者は、発明全体から発明の要素(構成要件)の技術的意義を判断しようとする意図なのでしょうが、欠点があることが分かってきました。 特許出願の審査の段階で先行技術を回避するための多数の要素を導入し、特許権が成立した後に、全体としての均等を権利者が主張すると、実質的にクレームの書き直しを認めることになるからです。 A今回の事例において、特許出願人は、クレームの表現方法として広くも狭くも解釈できる非常に微妙な言葉使いを採用しました。 クレーム中に採用されている“ポジション指示手段”という表現ですが、“ポジション”という用語は、仕分けるべきアイテムである“フルーツ類の等級”を意味しているのかと誤解を生じるような書き方がされています。 何故ならこのクレームには次のような事情があるからです。 ・“position”という言葉は“競技や競争などでの順位”という意味にも用いられる。 ・“ポジション指示手段からのシグナル”という用語がアイテムの物理的な位置を示す旨の積極的な記載がクレーム中に存在しない。 ・重量センサの出力をベースとするシグナル(第1対比手段のシグナル)と第1ポジション指示手段のシグナルとを同列の情報として第2ポジション指示手段に入力しており、後者のシグナルをアイテムの物理的な位置の意味と理解することはかなり不自然である。 ・クレーム及び明細書の記載において色センサから重量センサまでの経路は単一経路であり、そもそもアイテムの物理的な位置を追跡する必然性が存在しない。 長文のクレームの末尾に “複数の仕分け用のポジションの一つ”に対してアイテムを排出するという表現があり、この記載からポジションという言葉はアイテムの位置情報を示しているということが判ります。 ポジションの意味を読み手に明確に伝えたいという意図が特許出願人にあれば、こうした書き方はしないと思います。 Cアイテムの投入口→光センサ→重量センサ→アイテムの排出場所(複数の排出口からなる)という構成において、光センサがアイテムの色を検知して重量センサが未だアイテムの色彩を検知していなければ、そのアイテムは光センサ及び重量センサの間の経路のどこかにあり、この経路は単一の経路であるので、アイテムのポジションを問題にする必要はありません。 第1ポジション指示手段のシグナルは、アイテムの色による区分(等級)を、また第2ポジション指示手段のシグナルは、アイテムの色及び重量による区分(等級)を示すものであると理解するのが妥当と考えられます。 このクレームを技術者に見せれば、アイテムの色及び重量のデータ自体をマイクロプロセッサーに保有しておき、一連の工程の最後の段階でデータ自体を呼び出して、その数値に応じた仕分け場所の一つにアイテムを排出する装置と機能的に均等であるというかもしれません。 しかしながら、そもそもそうした装置を含むクレームとしたのであれば、特許出願の審査の段階で審査官によって拒絶されていた筈ですから、法律的に見ると、そうした装置を包含するように均等論を適用することはおかしいということになります。 従って裁判所の判断は妥当と考えます。 |
[特記事項] |
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