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●280 U.S. 30 (1929) SANITARY REFRIGERATOR COMPANY v. WINTERS ET AL(特許侵害訴訟:請求認容→1審判決支持→2審判決支持)
WINTERS ET AL. v. DENT HARDWARE COMPANY (特許侵害訴訟:請求棄却→1審判決支持→2審判決棄却)


均等論(狭い均等の範囲)/特許出願/ラック

 [事件の概要]
 Winters及びCramptonは、ドア用ラッチの発明について特許出願をして、米国特許第1,385,102号の特許権を取得し、この特許権を侵害していると目されるラッチに関して、まず当該ラッチの使用者(当該ラッチを部品として冷蔵庫を製造した者)に対して、次に当該ラッチの製造元に対して、異なる州で侵害訴訟を提起しました。

 すると、両方の事件で提出された証拠は殆ど同じであるにも関わらず、一番目の事件では特許権が侵害されている旨の判決が、二番目の事件では特許権が侵害されていない旨の判決が出され、それぞれの管轄の控訴裁判所も各々の下級裁判所の判決を支持しました。

 管轄の異なる控訴裁判所の判決同士が抵触したため、これらの事件に関しては、最高裁判所への上告が認められました。


[特許出願の開示内容]

{クレームの内容}

1.ドア及びドア用ケーシングと、このケーシングに取り付けられたキーパーと、ドアに取り付けられたラッチ付きの部材との組み合わせにおいて、

 前記キーパーは、第1ベースと、外方へ突出する第1ポスト及びこの第1ポストの外側の部分に設けられたヘッドとを備えており、

 当該ヘッドは、前記第1ポストから垂設されており、かつ上側弯曲アウターサイドと下側弯曲アウターサイドとが{そのアウター側に}実質的に先細となる(come into an end) ように形成されており、

 前記ラッチ付き部材は、第2ベースと、この第2ベースから外方へ一体的に突出された第2ポスト及び第2ポストの上端から第2ベースと平行に横方向へ延びるアームと、このアーム及び第2ベースの間において、両端間に装着点を位置させて、ピボット装着されたラッチレバーと、を備え、

 前記ラッチレバーは、カム形アンダーサイドが形成された一方の腕部を有し、

 前記カム形アンダーサイドは、前記ピボット軸から延びるとともに、前記キーパーの垂下部分の下側とかみ合うように形成されており、前記ラッチ付き部材は、さらにハンドル及び他方の腕部を備えており、

 前記ハンドルは、前記ピボット軸から反対側へ延びており、

 前記他方の腕部は、前記ハンドルから前記ピボット軸との間に距離をとって前記一方の腕部に対して90°の方向へ突出しており、他方の腕部には、前述したのと同じ目的でカム形インナーサイドが形成されていることを特徴とする、組み合わせ。

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1…ドア 2…ケーシング 3…第1ベース 5…第1ポスト 6…アーム

7…ラッチレバー 8…ピボットピン 9…一方腕部 10…カム形アンダーサイド 11…ハンドル 12…他方腕部(第2の腕部)13…カム形インナーサイド

14…第2ベース 16…第2ポスト 17…ヘッド 18…上側弯曲アウターサイド

19…下側弯曲アウターサイド 20…くさび用カム

7.ドア及びドア用ケーシングと、このケーシングに取り付けられたキーパーと、前記ドアに装着されたラッチレバーとの組み合わせであって、

 前記ラッチレバーは、その両端部の間で前記ドアにピボット装着されており、そのレバーの一方の端部は操作用ハンドルに、また他方の端部は前記キーパーとのかみ合い用の腕部にそれぞれ形成されており、

 前記ラッチのうちで前記ピボットから少し離れた場所より、前記かみ合い用の腕部に対して一定の距離を存して第2の腕部が突出しており、前記ラッチが水平位置及び垂直位置にある時に、前記キーパーの外側のサイドが前記それぞれの腕部とかみ合うように形成されており、

 前記ドアが完全に閉じた時に、前記レバーが前記キーパーの下側とかみ合うように形成した組み合わせ。


{発明の作用}

 特許発明は、冷蔵庫のドア用のラッチ(閉塞具)に関するものです。

 一般にこうしたラッチは、ドア側に閉位置(水平位置)と開位置(垂直位置)との間を回転可能に枢着され、枢着箇所から一方側へ突出した長いハンドルと反対側へ突出した短いアームとを有するレバーが設けられており、ドア枠側に閉位置で前記アームとかみ合う略L字形のキーパー(保持具)が設けれています。

 そして従来は、レバーが開位置にある状態でドアを閉め、次にレバーを閉位置へ回転させることにより、前記アームとキーパーとがかみ合い、ロック状態となります。

 この従来の構造では、レバーが閉位置のままでドアを閉めようとすると、前記アームがキーパーのかみ合い位置に至る前のキーパーの頭部(キーパーヘッド)に当たって閉めることができません。

 こうした問題を回避するために、特許出願人は、ドアを勢いよく閉めたときに、前記アームがキーパーヘッドに当たる直前にレバーが閉位置から開位置に回転し、そしてキーパーヘッドの横を通り過ぎた後に、レバーが開位置から閉位置へ戻るような機構を採用しました。

 カムの原理を利用して、ドアを閉める力(慣性力)の一部を回転力に変換して、レバーを相互に反対向きに回転させる2つの技術要素を導入したのです。

 具体的には、キーパーヘッドを鋭角三角形状に形成して、その頂角を挟んで両側に弯曲傾斜面を設け、またレバーの回転軸であるポストから、前記アーム(一方腕部)と高さを変えて別のアーム(他方腕部)を突出し、これら2つの腕部が時間差をおいて前記弯曲傾斜面へ衝突し、その傾斜に沿ってスライドすることで、閉位置→開位置、開位置→閉位置の2つの動作が順次生ずるようにしたのです。


 [裁判所の判断]
本判決に関して、Justice Sanford 判事により次の判決理由が示されました。


@ラッチ(latch)の改良発明に関して米国特許第1,385,102号に関して2つの衡平法上の訴訟(suit in equity)が提起された。
suit in equity(衡平法上の訴訟)とは

(a)この特許は、Winters及びCramptonの特許出願に対して1921年6月19日に付与されたものであり、どちらの訴訟に関しても、当裁判所(最高裁判所)において、{併合して}審理することとなった。

 2つの全体クレーム5、6については、特許の無効性(invalidity)が認められ、故にここでの議論は、クレーム1〜4及び7に絞られる。

(b)1番目のケース(以下、Sanitaryケースという)において、Winters及びCramptonは、ウィスコン州東地区でSanitary Refrigerator Co.,を当該特許権の侵害で訴えた。同社が製造していた冷蔵庫に当該特許に係るラッチが使用されていたというのである。このラッチの製造元であり、Sanitaryにラッチを販売したDent Hardware Co., Ltd.は、この訴訟の当事者ではないが、自らの出費で弁護人(council)を雇い、被告のために抗弁を指示した。

 地方裁判所は、プリーディング(訴答)におけるヒアリング及び証拠の聴取をした後に本件特許が有効であり、かつ侵害されていると決定した。そして同裁判所は、さらなる侵害を禁止(enjoin)するとともに、会社の財務説明(accounting)を命じた。

 {地方裁判所の判決に対する}第7巡回控訴裁判所の控訴審において、被告は、5つのクレームの有効性を認める反面、{原告によって}主張されているこれらクレームの構成においてのみ、特許の有効性が認められ、そしてこのクレームの構成によれば、発明の範囲は狭いので、侵害は成立しないと主張した。

 控訴裁判所は、残された論点はそれらクレームの侵害のみと認定し、そして次のように決定して、原審の判決を肯定した。

・それらのクレームの範囲は非常に狭く、開示された特定の構成しかカバーしていないが、ある程度の均等の範囲が認められ、原告のラッチの発明を侵害している。

(c)2番目のケース(以下、Dentケースという)においては、Winters及びCramptonは、ペンシルベニア州の東地区において前記冷蔵庫用のラッチの製造者であるDent Hardware Co.,を特許侵害で訴えた。

 地方裁判所は、最終ヒアリングにおいて5つの特定のクレームの有効性ではなく、権利侵害の成否について決定した。

 すなわち、前記特定の構造に対する原告の権利を否定する事情は存在せず、そしてそれらのクレームは、原告の権利がそれら特定の構造に限定されるように解釈するべきであるから、被告のラッチによっては侵害されていない。

 そして、原判決に対する第3巡回裁判所の控訴審において、被告は、再びそれらのクレームは、明細書に開示された特定の構造に限定される場合にのみ有効であり、そのように解釈するときには権利侵害は存在しない、と主張した。

 控訴裁判所はこれらのクレームの有効性に重大な疑問を持ちつつ、もしそれらのクレームが有効であるならば、その権利は{特許出願人により}開示された範囲に厳密に限定されるべきであり、また均等の範囲は狭小であるから、Dentのラッチにより侵害されていないと解釈し、そして原判決を肯定した。

 これは、第7巡回控訴裁判所の判決理由と正反対である。

 2つの巡回控訴裁判所の判決理由同士に抵触(conflict)があるから、サーシオレイライの通知が許可される。

 ここで当裁判所は、それらの特許の有効性について決定する機会を与えられていない。

 Sanitaryのケースのどちらの裁判所もそれら5つの特許が有効である旨を決定し、またDentのケースのどちらの裁判所もそれら特許が無効であると決定していないからである。


Aまた我々は、第7巡回控訴裁判所の判決(decree)が第3巡回控訴裁判所を拘束するかという論点について詳しく考慮する機会を有しない。

 この論点は、Winters及びCramptonによって主張されたものである。

 前記判決は、本件特許が侵害された旨を認定するとともに{被告の}財務状況の説明(accounting)を命じた地方裁判所の中間的命令(interlocutory order)を肯定するとともに、最終的に特許権が侵害されたと決定するものである。

 Dentケースの訴状(bill)は、第7巡回控訴裁判所の判決が言い渡される(render)前に提出された。

またWinters及びCramptonがプリーリデングを補正して、この判決を先例として提出する(set up)するというような事実もないし、

 また当該判決を証拠としてDentケースに導入するということもなかった。

 要するに、Dentケースの記録上、既判力(res judicata)又は判決による禁反言による抗弁は行われていないのである。
→Estoppel by judgement(判決による禁反言)とは

こうした状況では、第3巡回控訴裁判所での議論において、第3巡回控訴裁判所での議論において第7巡回控訴裁判所の判決が着目されても、当該判決の効果は礼譲の原則の下での効果に過ぎない。
Doctrine of comity (礼譲の原則)とは

 礼譲の原則は、法律上のルールではなく、便宜及び打算(convenience and expediency)の上のルールである。

 そしてこれらのメリットの観点から第3巡回控訴裁判所のアクションを我々が正しいと考えるときには、たとえ我々が前記礼譲の原則に重きを置けないという意見をとる場合であっても、第3巡回控訴裁判所のアクションは取り消されるべきではない。

 例えばMast, Foos & Co. v. Stover Mfg. Co., 177 U.S. 485, 488を参照せよ。


Bこのことは、我々をサーシオレイライの通知によって見直すべき質問に立ち戻らせる。

 その質問とは、Winters及びCramptonの5つのクレームは、Dent Hardware Co.,によって製造されかつRefrigerator Co.,によって使用される冷蔵庫用ラッチによって侵害されるかどうかである。

 この問題に関する限り、2つのケースにおける証拠に実質的な相違はない。

 本件においては、侵害が成立したSanitaryケースの2つの下位の裁判所において同時の(concurrent)事実認定が行われており、また、侵害外成立しなかったDentケースの2つの下位の裁判所においても同時の事実認定が行われている。

 これらのケースは、2つの巡回控訴裁判所の判決の抵触により、最高裁判所が審理するところとなった。

 こうした事情から、事実上の質問に関する下級審の同時認定を当裁判所が受領することに関しての一般的なルールをどちらの事件にも厳格に適用する必要はない。

 そして我々は、独立して、前述の質問に対して、どちらの裁判所の決定がより完全な理由付けに基づきかつ正しいのかというという問いについて検討する。

 この点に関して次の判例を検討せよ。

 Thomson Co. v. Ford Motor Co., 265 U.S. 445, 447; Concrete Appliances Co. v. Gomery, 269 U.S. 177, 180.

 さらに侵害の成否に対する問いは、当事者の間に争いのない証拠に基づき、法に従って、それぞれのケースにおいて、当該特許の特徴的な側面として開示された構造とDentのラッッチの装置とを比較すること、並びにこれらに対して均等論を的確に当てはめることにより決定される。

 Singer Company v. Cramer, 192 U.S. 265, 275と比較せよ。



Cこれらの特許を取得するために、Winters及びCramptonは、特許出願の手続において次のように述べた。

(a)“この発明は、スィング式のラッチに関する。この発明は、いろいろな用途に用いられるけれども、特に冷蔵庫においてドアを閉鎖するとともに、この閉鎖状態を維持するために用いられる。

 このスィングレバー式ラッチは、その一端でドア用のジャム(わき柱)又はケーシングにピボット連結されている。このラッチを垂直状態へ勢いよく移動する(throw)と、ドアが開き、他方、ラッチを水平状態へ回すと、当該ラッチは、ケーシング及びドアの当接縁部を超えてカム部材がドアにくさび留め(wedge)され、ドアをしっかりと閉鎖する。

 このラッチは、非常に使い勝手が良いものであったが、不意に水平方向へ倒れる傾向がある。そうなると再び上方垂直状態へ回転させない限り、ドアは閉鎖されない。こうした場合、レバーが水平状態にあるにも関わらず、ドアがうっかり(inadvertently)閉位置へスィングされると、レバー又はドアの一方或いは双方を傷つける。

本発明の主たる目的は、ドアにピボット連結されたラッチであって、ドアを閉めた時点で垂直位置にあろうと水平位置にあろうと、ドアに固定された保持具或いはキーパーと自動的にかみ合うように構成されたものを提供することである。

本発明の他の目的は、当該ラッチを少ない部品数で構成することにより、より経済的に製造することができ、丈夫であり、効率的にサイービスに供することができるようにすることである。

またラッチレバーの位置に依らず、ドアを閉鎖するとともに自動的に掛け止め(latch)することが可能であることは、ラッチまたはドアの損傷に対する防御となり、また、ドアを閉じるためにスイングさせたときでも掛け止めが行われることを確実とする。”

(b)本件特許出願のクレームに次の記載がある。(省略)→前述の[特許出願の開示]の欄を参照。

(c)本件特許の図面において、

 図4は、スィング式レバーが垂直な状態でドアが閉位置へ近づく様子を示す正面図

 図5は、図4に対応する側面図

 図6は、前記レバーが水平位置にあった後にドアが閉位置へ近づく様子を示す正面図

 図1はラッチが開位置にあり、前記ドアを閉鎖している様子を示す正面図である。

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(d)これらの図は、特許された装置を詳細に示している。

 ドアを閉鎖するとともに掛け止めする作用については、明細書に次のように開示されている。

 “レバーが垂直になったままでドアが閉位置へ動くと、(他方)腕部12のカム状サイド13がヘッド17の弯曲した上側サイド18に衝突して、前記レバーを自動的に水平状態へとスィングさせる。

これに伴って、前記(一方)腕部9が前記キーパーヘッドの下側突端(lower point)を通過して前記一方腕部9のアウターサイドが前記ヘッドの楔留め用カム状サイド20とかみ合う。前記ハンドル11の端部を下方へ移動させることにより、前記一方腕部9が上側へ、そして傾斜面20との係合位置へ動いて、ドアと緊密にかみ合、、閉さっさせることが明らかである。

仮にドアが開いたままの状態でドアが水平状態へと倒れて (drop)しまったら、ドアの閉鎖及びレバーのか意味合いは図6ないし図7に示すように、単にドアをスイングして閉じるだけで完了する。すなわち、前記一方腕部9の傾斜カム状サイド10が前記キーパーのヘッド17の弯曲したアンダーサイド18と衝突することにより、前記ハンドルを自動的に垂直位置へと回転させる。

この動きは、前記一方腕部9がキーパーヘッド17の側突端を通り過ぎる(pass by)まで続く。そして一般的な動作として、前記他方腕部9がキーパーヘッド17に当接する。これにより、前記レバーは、前記一方腕部9が前記キーパーの垂直部分の下に来るように作動する。

この時の作用は、前述のレバーが垂直位置にあるままでドアを閉じたときのそれと同じである。

いずれのケースでも、すなわち、レバーの位置とは関係なく、ドアを示すことで拉致レバーがラッチキーパーとかみ合うことになる。”

(e)ドアをぴしゃりと閉めた(shut)ときに、当該ドアを閉位置に保持するというタイプのラッチはたくさんあり、本件特許は、こうした混み合った先行後群の合間をぬって成立している。故に本件特許は、パイオニア特許ではなく、その均等の範囲は広くない。

 しかしながら、本件特許が開示した構造は賞賛に値する(meritorious)ものであり、すぐに商業的成功を収めた。


DDentのラッチは、米国特許第1575,647号の下で製造された。

(a)この特許は、冷蔵庫用ドアのためのロック装置の発明に係る特許出願に対して1926年3月9日に付与された。

(b)この特許は、冷蔵庫用ドアのためのロック装置の発明に係る特許出願に対して1926年3月9日に付与された。

(c)特許を受けたのは、Hardware Co.,へ特許を譲渡したT.O.Schraderである。

(d)Schraderは、彼の特許出願の手続きの中で次のように述べた。

“私は、{Winters及びCramptonに対して}1921年7月19に付与された米国特許愛1,385,102号の存在に気づいていた。そして私は、当該特許に開示された構造について、ディスクレーム{自分の特許出願で保護対象から除外すること}をする。

 私の発明は、前記特許に開示された構造と相違している。何故ならば、前記特許の構造は、ラッチアーム11に付与されたピン12を用いて、キーパー部材17の上側カム縁18に当接させるのに対して、新規な私の発明では、キーパーヘッドb3の上縁は機能を有しておらず、そのかわりにピボット式ラッチC6が当該ラッチのピボット軸に向かって傾斜するカムC1を有する。このカムが前記キーパープレートb3の内壁に付設されかつ当該内壁から水平方向へ突設されたピンb8に当接する。これにより、前記ラッチの末端舌状片(terminal tongue)を水平ロック位置へと回転させるのである。ここで私は先行技術の如何なる構造もクレームしていない。”


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(e)Hardware Co.,によって製造されたラッチは、どちらの訴訟にも巻き込まれることとなったが、Scharader特許で示された構造とは、僅かに異なるだけである。

それ{Scharader特許の構造}は、概して(in the main)、Winters及びCrampton特許の開示物のほぼ完全な再現である。前者は、後者と同じように、ドアケースに取り付けられたキーパーであって、三角形状のヘッドと、ハンドル及び2つの腕部を有するレバーラッチとを備えている。これら2つの腕部の機能は、前記キーパーヘッドとの協働により、レバーラッチを始動 (trip)又は駆動(give trip to)させ、そして閉操作が開始された時のラッチレバーの位置と関係なく、下方腕部の下面にくさび留めされる。

(f)両者の僅かな相違点は次の通りである。

・Dentのラッチにおいては、三角形状のヘッドの内側、すなわちドア側のサイドに、ラッチレバーに向かって内方突出するラグ(突起物)が付設されていること。

・{Dentの}ラッチレバーの上側腕部は、ラッチレバーのピボットに配置された傾斜した短いカムであること。

・このカムは、Winters及びCramptonの特許のように、その上方弯曲サイドに当接する代わりに前記キーパーヘッドのサイドのラグに当接するような角度に設けられていること。

 しかしながら、前記ラグに対する短い腕部の協働は、カムの原理により、Winters及びCramptonの特許におけるキーパーヘッドの下のくさび留め位置へ前記長い腕部を駆動させるという作用と同じ働きをするのである。


EWinters及びCramptonの構造に対するDentのラッチの相違に関わらず、我々は2つの装置は、実質的に同一(substantially identical)であり、同じ原理によって作用し、実施的同じ態様で(in substantially the same way)、同じ結果(the same result)をもたらずものと認める。

(a)そしてDentのラッチにおける僅かな相違は、Winters及びCramptonの構造からの見せかけの進展(colorable departure)に過ぎない。

(b)第7巡回控訴裁判所で述べられているように、前記Dentのラッチにおいて、前記キーパーの三角形状のヘッドの内面のラグは、前記ヘッドの一面の一部に過ぎない。

 前記ラッチレバーの短い上側腕部が{元の場所から}前記ラグに接触しに来るときには、前記ラグの表面は、その作用において、キーパーヘッドの上面となり、Winters及びCramptonの構造におけるキーパーヘッドの上面の代替物として働く。

 他方、前記短い上側腕部が元の場所に置かれたままである時には、前記ラグは、それが切り取られているのと同然に、何の機能も発揮しない。

(c)Winters及びCramptonの特許のクレームは、そこに開示された構造に限定されているけれども、当裁判所は、特許がDentのラッチの装置により侵害されたと認定する。

第3、第7巡回控訴裁判所のいずれもが、このように限定されたWinters及びCramptonの特許もある程度の均等の範囲を有すると認定している。

 当裁判所は、その均等の範囲が如何に狭いものであっても、本件特許の場合には、それで十分であると考える。

(d)訴えられた装置が特許権者によって考えられたもののコピーであって次の条件を満たすときには、権利侵害を構成する実質的な同一性(substantial identity)が成立する。

“バリエーションがないか、或いはバリエーションがあっても、その実体(in substance)において元のものと一致する(consistent with)が故に同じもの(the same thing)であること”

Burr v. Duryee, 68 U.S. 1 Wall. 531 531 (1863)

 形状が発明のエッセンスである場合を除いて、こうしたイシューに対する決定は、あまり重要ではない。

 一般的には、ある装置が他人の権利対象と実質的に同じ態様(substantially the same way)で、実質的に同じ機能(substantially the same function)を奏し、そして同じ結果(the same result)が得られるときには、その権利を侵害している。

 判例(authorities)は、特許法上の意味合いにおける“実質的に均等”は、物自体のそれと同じであるという点で一致している。

 すなわち、2つの装置が実質的に同じ態様で同じ仕事をする(do the same work)ことで同じ結果をもたらすのであれば、たとえそれらが名称・形式・形状において違っていてもそれらは同じ(same)である。

 Machine Co. v. Murphy, 97 U.S. 120, 125.

Elizabeth v. Pavement Co., 97 U.S. 126, 137

特許装置からの見せかけの進展は、侵害を回避する根拠にはならない。

 McCormick v. Talcott, 20 How. 402, 405

 発明の大部分(the substance of the invention)を使用する、そっくりなコピー(close copy)は、たとえ形状・位置を若干変えていたとしても、実質的に同じ装置を使用し、原理を変更することなく、正確に同じ仕事(same offices)をするのであるから、権利侵害を構成する。

 Ives v. Hamilton, 92 U.S. 426, 430.

 そして先行技術の状況を考慮して、たとえ{特許になった}発明が特許権者によって示されかつ記述された形態(form)に限定されるべきであり、そこから実質的に進展した態様を包含するべきではない場合でも、特許明細書からの実質的な進展がなく、見せかけの進展しかないような装置が実施された場合には、この装置により当該特許権は侵害されたものとなる。

 Duff v. Sterling Pump Co., 107 U.S. 636, 639

(e)Dentの装置は、Winters及びCramptonの構造に2つの相補的(reciprocal)な二つの変化を加えた。

 すなわち、キーパーヘッドの側にラグを、またラッチレバーの側に短い上方腕部をそれぞれに適用したことである。

 装置を作動させるためには、これら2つのどちらか一方のみをWinters及びCramptonの構造において{元の要素と}置き換えることができない。

 こうした事情では、{それらの置換は}権利侵害を回避するためには不十分である。

 また未だ裁判上の議論になっていない事柄であるが、Winters及びCramptonの特許の後にScharader特許が成立したことを以て、この特許の有効性の推定を覆そうとすることも、前述の特許の有効性の推定を覆そうとするためには、足りない。

 そこまでのウェイトのある主張であるとは評価できないからである。

 故に第7巡回控訴裁判所の判決は肯定され、また第3巡回控訴裁判所の判決は棄却される。



 [コメント]
@米国の均等論では、先発的(パイオニア的な)発明は均等の範囲を広く、そうではない後発的な発明は均等論の範囲を狭く解釈するのが一般的ですが、今回のケースは、狭い均等の範囲に関して判断されたものです。


A特許発明及び被疑侵害製品は、どちらも冷蔵庫のドア用のラッチ(閉塞具)です。

(a)特許権者の発明の特徴は次の通りです。

・ケーシング(ドア枠)から室内側へ突出され、{ドア側から見て}鋭角三角形の板状のキーパーヘッドの頂角の上下両側にある2つの弯曲した傾斜面を有する。

・これら傾斜面は、ドアを閉じる力を、レバーを回転させる力へ変換する作用を有する。

(b)被疑侵害製品は、次の構成を有しています。

・取り付け面に対する垂直辺(図示例では上辺)と傾斜辺(下辺)との間に頂角を有する直角三角形の板状のキーパーヘッドの頂角付近で、その板面から直角に(左右方向一方に)ピン(ラグ)を突出させる。

・このピンの一面(上面)と、前記傾斜辺とで前記カム面としての作用を実現している。


B均等論の成立の条件として、米国の判例では、実質的に同じ態様で、実質的に同じ機能を発揮し、同じ結果をもたらす、ことが挙げられています。

 これを本ケースに当てはめると、次のようになります。

・同じ結果…最初のレバーの位置が開位置であるか閉位置であるかによらずに、ドアを勢いよく閉方向へ回転させると、ドアを閉めることができるとともにロックがかかる。

・実質的に同じ機能…ドアを閉方向へ回転させる勢い(慣性力)の一部を利用して、カムの原理でドアを回転させる。

・実施的に同じ態様…ドア及びドア枠の一方に反対向きに傾斜する2つの弯曲傾斜面を、他方に傾斜面に衝突してスライドする2つの突起(腕部)を設け、一の組の弯曲傾斜面と突起が衝突してスライドした後に、他の組の弯曲傾斜面と突起が衝突してスライドするように位置関係を設定する。


Cキーパーヘッドの頂角の両側の弯曲傾斜面の一方を、キーパーヘッドから突出したラグに置き換えることにどういう技術的な意義があるのかは不明です。

 図面でみると、ラグの方が傾斜面の範囲が狭い、板状のキーパーヘッドの側面から直角方向へ突出させた構造から壊れ易いなど、むしろ不具合の方が多いように思われます。故に個人的には、特許発明からの“実質的な進展”(進歩)というものは見当たりません。


Dこうしてみると、細部に亘って共通点があり、両者は“実質的に同じ”であるとした最高裁の判決は妥当であると考えます。

(a)もともと特許クレーム中の“キーパーヘッド”、“上側弯曲アウターサイド”、及び“下側弯曲アウターサイド”という文言に関して、特別の限定はないため、被疑侵害製品のラグ(ピン)がキーパーヘッドの一部であり、ラグのレバー側との当接面が前述の“弯曲アウターサイド”であるという解釈も有り得た筈です。

(b)しかし、特許出願時に先行技術の状況から、下位裁判所は、特許出願人(Winters及びCrampton)の発明は後発的発明であると理解し、その文言を、明細書に記載された態様そのもの(キーパーヘッドであれば、三角形状の頂角の両側にそれぞれ弯曲アウターサイドが形成された態様)と解釈しました。

(c)最高裁判所は、クレームの用語を明細書の態様通りに解釈するという立場を肯定しつつ、それでもなお、均等論を適用する余地が残っており、被疑侵害品の特許発明からの進展は見せかけの進展に過ぎないと解釈して、前述の均等論の3つの条件に当てはめて、権利侵害が成立すると決定しました。

../hanrei-ryaku/jirei-r(100-199)/jirei151-r.html
Eなお、近代的な均等論は1950年のGRAVER TANK 事件(339 U.S. 605)から始まりますが、本判決で示された均等論の条件(実質的に同じ態様で、実質的に同じ機能を奏し、同じ結果をもたらす)はGRAVER判決を通じて現在の判例体系に引き継がれています。




 [特記事項]
 
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