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判例紹介
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●MACHINE CO. v. MURPHY 97 U.S.120(特許侵害事件・請求棄却→判決取消)


均等論(機能の実質同一)/特許出願/紙袋製造機

 [事件の概要]
 発明者であるWilliam Goodaleは、紙袋の製造装置に関する発明について特許出願を行い、特許権を取得しました。当該特許権は、特許権の存続期間の経過後に、MACHINE CO.に対して譲渡され、譲受人は、MURPHYに対して特許侵害訴訟を提起しました。

 巡回裁判所は、原告の訴えを退ける決定を行い、原告はこれに対して上訴しました。

[特許発明の内容]

 “ロールから供給される紙をカッターで所定形状に切断する技術であって、

 前記所定形状とは、切断された紙片を折って、紙袋を製作するのに必要とされる所定の形状であり、

 かつ切断された紙片を紙袋とする過程で再び紙を切断することを要しない技術。”



 [裁判所の判断]
 Clifford判事が次の判決理由を提供しました。


@事件の経緯について

(a)特許証によって発明者に付与される権利は、発明(品)を製造し、使用し、或いは他人の使用のために提供することの排他的特権(privilege)を内容とする財産権であり、法律により、書面によって他人に譲渡することができる。

(b)米国特許第24,734号は、紙袋の製造機の新規かつ有用な改良に関してWilliam Goodaleがした特許出願に対して、1859年7月12日に付与された。

 この特許権は、まず14年間に亘って成立し、そして記録によればさらに7年間延長された。この特許の存続期間の満了日から2日後である7月14日に、特許権者は、当該特許に関する彼の全ての権利、名義、及び利益を、本件訴訟の原告に譲渡した。

 原告の訴えは、特許された改良発明{に係る製品}を被告が製造し、または譲渡した問いうことである。

 本件に関して訴状が送達され、法廷に出廷した被告は、答弁を行い、幾つかの抗弁を行った。しかしながら、彼は、特許侵害をした旨のチャージ(非難)を否定する旨の抗弁以外を、結局は断念(abandon)した。{当事者によって}証拠が提出され、巡回裁判所は、当事者の主張の聴き取りの後に、原告の訴えを却下する判決 (decree)を出した。

※…1938年の裁判所法制定以前、米国では平衡裁判所の判決を“Decree”と呼んでいました。
Decree(判決・命令)とは

 原告は、当裁判所(最高裁判所)に対して上告した。

 原告は、訴えが却下された理由が、特許侵害のチャージの証明が不十分であったことであることを認めた。

(c)紙袋を作成する技術は昔からあり、どちらの当事者も認めているように、証拠によれば、この技術は、長年に亘って多数の人々により考案された多数の態様(form)を含む。

 そしてこのケースのどちらの当事者もこの種の装置全体のオリジナルかつ最初の発明者であるとは主張していない。仮にそうした主張をしたとしても、{この特許出願時の}技術水準から見て受け入れられるものではない。

 原告への特許権の譲渡人は、{特許出願の手続において}当該装置の様々な部分に関して改良発明の保護をクレームしている。

 しかしながら、原告の請求(特許侵害のチャージ) は、本件特許の1番目のクレームに限定されているので、当該クレームに具現化された基本的な装置の性質及び作用について説明すれば十分である。

 故にこの装置の他の部分についての細かい説明は行わない。

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A本件特許発明の内容について

(a)本件特許の明細書には7つのクレームが付与されており、本件訴訟の対象となった{1番目の}クレームの実体(substance)及び効果(effect)は次の通りである。

 “ロールから供給される紙をカッターで所定形状に切断する技術であって、

 前記所定形状とは、切断された紙片を折って、紙袋を製作するのに必要とされる所定の形状であり、

かつ切断された紙片を紙袋とする過程で再び紙を切断することを要しない技術。”

 こうした装置は、当然のことながら、そのすべてのパーツを支えるフレームを有し、またロールから巻き出されてカッターの下側で前方へ送り出される紙を支えるためのテーブルを有する。

 操作前の準備作業として、長手方向に折ると袋になるような幅を有する{紙の}ロールが用意される。

 この装置には、カッターの下でロールから巻き出された紙を移動させるためのフィードローラーが備え付けられている。

 また前記カッターは、水平バーに取り付けられており、装置の反対側から起立される一対の垂直ガイド部によって案内される範囲で動く。

 前記水平バーの作用を簡単に説明すると、その水平バーはカッターと同様に垂直方向に動くものであり、まず水平な回転シャフトに付設された一対のカムと連動して上昇し、次にその連動が解けて、自重によって落下する。

 前記水平バーの重量は、前記カッターに紙を切断させるのに十分な大きさである。

 前記落下は、紙を供給する動作の間の干渉において起こる。


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図1〜図3 紙袋製造機 A…フレーム B…カッター B’…水平バー C…テーブル

E…メインシャフト F…フォーマー J…振動フレーム L…レバー

図4〜図5 紙袋 10…ラップ

 前記特許明細書及び図面にはさらに次のことが記載されている。

・所要の長さ及び幅を有する紙袋を製作するための装置及び手段

・{紙の}サイドをフォーマーと呼ばれる装置の上に重ねる装置及び手段。

・ブランク(白紙)のエッジを糊ローラーに通すことで糊付けし、ラッパーによってブランクのエッジを折り曲げることによりシームが形成されるように当該エッジを付着させる装置及び手段。

 さらに前記ブランクの両サイド及び底部側のラップ(重ね代)は、明細書に記述された方法により糊つけされる。

 しかしながら、侵害のチャージが1番目のクレームに限定されている限り、こうした発明の詳細をされ我の調査に含める必要はない。

(b)十分な証拠によれば、原告への特許権の譲渡人は、作動可能な次の装置を最初に発明した人物であると認められる。

 フラットシートの紙のロールから紙袋を製造する装置であって、5つのプレーン(面)を有するナイフを用いて、その紙を横方向に切断(cut)すると、ブランクが明細書及び図面に記載された形状・態様で出現するもの。


B本件特許発明と係争物との比較

(a)問題になっている被告機械の作動部分を構成する装置の配置と原告の機械のそれとの間には、広汎な相違が存在する。

 しかしながら、両者のフレームは、実質的に異なっていない。

 また、被告の機械は、4つの起立部(upright)を有する。これらの起立部は、シャフトと紙を巻きつけたローラーと、原告のフィードローラーと同機能を有するフィードローラーとを支える。

 また特許明細書に記載されているようにカッターを昇降可能に配置する代わりに、被告の機械は、鋸歯状(serrated)のエッジを有するナイフを備える。

 このナイフは、前記シャフトの下方に位置させて、ベッド(作業台)に取り付けられており、前記フィードローラーに合致させて(on the line with)そのサイドに沿って敷設している。

 このナイフは、前記ベッドに取り付けられており、原告の機械と自室的な形状に形成されている。

 他方、当該ナイフは、昇降することがなく、ストライカー(打撃手段)と称するパーツがなければいかなる機能も発揮しない。

 前記ストライカーは、鈍いエッジを有する真っ直ぐな金属製のピースであって、シャフトと共に回転するように形成されており、他の装置の助けにより、一旦上昇した後に急に下がり、紙の上に垂直な打撃を与えることで、紙を断ち切る(sever)動作を効率的に実現する。

 この点では原告の機械のカッターと同じである。すなわち、前述のナイフ及びカッターは、互いに協働して、原告の機械において上下動するカッターと全く同じ機能を発揮する。

(b)ナイフとカッターとが実質的に同じ形状を有するという点について議論をすることは必要ではない。この点は、原告による2つの装置を対比したデモンストレーションによって証明されているからである。

(c)またカッターは自ら重量で紙を切断するのに対して、ナイフは、静置された状態のままで、紙の上に倒れる動作のみを行う単機能の別の装置と協力して、紙を切断する。しかしながら、この点は相違点とはならない。

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(d)この命題の裏付けは、原告側の専門家証人の証言の中に見出される。彼は、その証言において被告の特許では紙袋を製作する作業の中で紙のロールから所定のブランクを切り離すときに、原告の機械のカッターと同じ機能を果たすので、紙袋の製作の機能を見出したとしている。

 証人を次のように述べた。

 鋸歯状のエッジを有するナイフは、袋の中央に継ぎ目ができかつ底部にはラップが、またトップにはリップができるように袋用のブランクを切り取るように構成されている。

 そして継ぎ目及びラップは糊でしっかりと固定するために、また前記リップは紙袋の使用中に袋の口を容易に開くために供されている。

 同じ証人によって、前述のナイフの特定の形状についての価値ある特性に関する説明があった。当該形状は、被告の機械において袋の底部及びトップのリップの形状を形成するために採用されたものである。

 被告のナイフは深さの程度が異なる鋸歯(serration)又は歯(teeth)を有する。そのことに関して証人は次のことを指摘した。

・それらの歯の外側の突端(point)は、全て紙を横切る同じ直線と一致すること。

・被告機械におけるカッティング・オペレーションは、その切断が、小さい歯の深さまで達した意義は、原告の機械のカッターのそれと実質的に同じである。

 残りの切断工程は、底部側のラップとトップ側のリップとを有する一連のカッティングエッジによって継続されるため、ストレートラインで開始された切断工程は、小さい歯の切断が終わると、直ちに停止する。そして、より荒い歯により全範囲に亘る切断が継続されるのである。

 従って、それらの部位は原告の機械のそれと実質的に同じカッターを構成する。

(e)前述の説明は、実際に適用するには理論的に過ぎると思われるかも知れないが、我々裁判官は、皆、被告によって採用されたナイフ及びストライカーは、原告の機械のカッターと同じ機能を実現するという意見である。その機械は、ローラーが紙を前方へ移動させるとともに、カッターを持ち上げ、かつ紙の上に落とすという機能を有する装置を備える。

(f)物の形状は、それが発明のエッセンスである場合を除いて、この種のイシューの判断において重要な意味を持たない。

(g)正しいルールによれば、裁判官又は陪審は、侵害の問いについて決定するときに、単に物の名前の類似性や相違性を判断するのではなく、

 そこに用いられている装置や要素がどのように作用し(what they do)

 どのような機能や機能(office or function)を果たし、

 それらを如何に実現するのかに着目するべきである。

 しかして、或る物が他の物と実質的に同じ態様で実質的に同じ機能を発揮し、そして同じ結果を生ずるときには、その物と実施的に同じである。

 つまり、特許法上の意味では、発揮する機能が異なるとき、機能を発揮する態様が異なる時、或いは実施的に異なる結果を生ずる時には、特許された機械の装置は同じものではないことに注意するべきである。

 同様に2つの機械の対応する装置が異なる形状や形態(shape or form)で同じ結果を生ずるように構成されている場合に、それらの形状や形態の相違に関心(heed)を置き過ぎることも安全ではない。何故なら、こうした調査では、オペレーションのモードや装置がどのように作用するか(the way the devices works)並び前記結果が達成される手段に着目するべきだからである。

 こうした問い掛けに答えることにはしばしば困難が伴う。

 しかしながら、次のことに特別に注意することにより、その困難性は、大幅に緩和されるか、或いは、完全に解消されるであろう。 

 その注意事項は、その装置の部分であって真に仕事を行うものに特別に着目することにより、当該装置の他の部分(装置全体を構成するために便利な様式(mode)として用いられているに過ぎないもの)に不当な(undue)に重点を置かないようにすることである。

(h)過去の諸判例は、特許法上の或る物の実質的な均等の範囲がその物自体の均等と同じであるという点において一致している。

 故に2つの装置が実施的に同じ態様で同じ仕事をし、そして実施的に同じ結果を生ずる時には、たとえそれらが名称・形態・形状において相違していても、両者は同じであると考えなければならない。

(i)この原理(principle)を裁判中のケースに当てはめると、被告機械が前記ストライカーとの関係において、原告の機械中のカッターと実質的に同じ物(substantially the same thing)であるということができるのである。

 その理由は次の通りである。

・装置の作動中に、それ{カッター又はこれに相当する物}を持ち上げ、かつ落下させることで{紙を}切断する機能を実現していること。

・それがなければ、装置は無価値なものとなること。

 これらのテストに鑑みれば、巡回裁判所の判決は誤りである。



 [コメント]
@本件は、‘実質的に同じ態様’で‘実質的に同じ機能’を発揮し、‘同じ結果’が得られるときには、発明の均等が成立するという均等論の判断基準が示された事件です。

 この判断基準は、その後広く受け入れられています。


Aこの判決は、古い判例であり、その内容には、今日の特許実務と異なる点が幾つか見られます。例えばクレームは、特許発明の内容を示す目安程度にしか扱われておらず、特許発明の内容に関しては、特許出願人が明細書・図面に記載した事項から読み取っています。

 仮に現在同じクレームで訴訟が提起されたとしても、同じ結論にはならないことをご理解頂きたいと思います。


B本件では、原告機械のカッターと、被告機械のナイフ及びストライカー(打撃手段)が均等かどうかが問題となりました。

 前者は作業台の上に置いた紙の上にカッターを落とすもの、後者は、上向きの刃を有するナイフを備えた作業台の上に紙を置き、紙の上にストライカーを落とすものです。

・実質的に同じ機能…ロールから巻き出した紙を切断(cut)する。

・実質的に同じ態様…重量を有するものを一旦持ち上げて紙の上に勢いよく落とすことにより紙を断ち切る(sever)。

・同じ結果…紙袋の展開形状(紙袋の表紙及び裏紙+糊代などを有し、そのまま折り曲げて糊付けすれば紙袋となる形状)が得られる。


C“実質的に同じ態様”に関しては、重力の法則及び慣性力を利用して紙を断ち切るという態様の共通性に着目すべきです。

 紙を切断するという機能が同じでも、例えばカッターの刃先を作業台の上に置かれた紙に当てて水平方向へ滑らせるという態様で切るのであれば、実質的に同じ態様とは認められなかったであろうと推察します。


D“実質的に同じ機能”に関しては、原告装置の1つの要素(カッター)が被告装置の相互に協働する2つの要素(ナイフ及びストライカー)と対応付けられている点に着目するべきです。

 侵害訴訟の被告は、特許権が及ぶ範囲を迂回しようとして、一つの要素で果たせる機能を、複数の要素で実現しようとする場合があります。

 複数の要素を採用することに技術的な進展(新たな作用効果)が見られず、単なる迂回策を認めることが衡平の理念に反するときに、裁判官は均等論を適用する傾向があります。

 例えば1929年のWINTERS事件において、特許発明からの見せかけ(colorable)の進展のみでは、均等論を免れることはできない旨を判示しています。
SANITARY REFRIG'R CO. v. WINTERS (280 U.S. 30)


E我が国の裁判例でも、類似の事例が見られます。

 例えば、ボールスプライン事件の第2審では、特許発明では、筒状の保持具とこれを囲む外筒との間に回転力を伝達するボールを配置していたのに対して、被告の機械では、保持具を複数のパーツに分割した構造を採用していました。

 これに関して、裁判所は置換可能性(機能が同じであるために置換が可能である)を認めました。
→平成3年(ネ)第1627号


 [特記事項]
 
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