体系 |
禁反言 |
用語 |
禁反言の原則のケーススタディ1(商標の同一性を否定した例) |
意味 |
禁反言の原則とは、一方の当事者の表示や言動により、他方の当事者がその事実を信じ、その事実を前提とする行動をとったときには、前者は、後者に対してその表示や言動と矛盾する主張をすることができないという原則です。
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内容 |
@禁反言の意義
知財の分野では、特許出願に関して禁反言の原則を適用する事例がよく見られます。意見書等で特許出願人が主張した事柄と矛盾する権利の行使を許さないようにするためです。
商標出願の場合も数は少ないですが、禁反言の原則を適用した事例があります。たとえば商標の同一性を判断する場合に、商標の構成要素の観念に関して、商標出願の審査で商標出願人として主張したことと異なることを、後日主張するという如き場合です。
→禁反言の原則とは(商標の場合)
A禁反言に関する事例の内容
[事件の概要]
事件の番号:平成22年(行ケ)第10083号
事件の種類:不使用取消審判
登録商標:ECOPAC
指定商品:第18類「包装用容器及びその他本類に属する商品」(その後書き換え有り)
本事案での争点:原告が使用していた「エコパック」と本件登録商標「ECOPAC」とが同一であるか否か(審決日:平成22年1月27日)。
本事案での当事者の主張:「ECO」は現在において「PAC」は「ecology」或いは「economical」の略称として通用していることは周知の事実であり、「package」の省略形として国内外に多数使用されているから、本件商標からは「環境に優しい包装」の概念が生ずることは明らかであり、「エコパック」と本件商標「ECOPAC」とは社会通念上同一である。
かつての事件での争点1:拒絶査定不服審判において「EKCO」及び「エコー」を2段書きした先登録商標に対して商標法第4条第1項第11号に該当するか否か
かつての当事者の主張1:本件商標「ECOPAC」は「パック」について一般的には「PACK」と表記するところをあえて「PAC」とする独特の綴りで構成され、全体として特別の観念を生じない造語商標よりなるべきものと判断するのが相当である(平成2年7月25日)。
かつての事件での争点2:異議申立事件において本件商標は「ecology」と「package」との合成語を想起させ、「環境保護に十分配慮した包装容器」を表す普通名称又はその品質表示のみとして認識されるから、商標法第3条第1項第1号、同第3号、第4条第1項第16号に該当するという異議申立理由の是非
かつての当事者の主張2:「ECOPAC」と一連と連綴された本件商標は「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく、普通名称・品質表示として普通に採用されているという事実もなく、特定の観念を生じない造語商標と把握すべきである(平成9年頃)。
[裁判所の判断]
本件商標の「ECO」から「ecology」の省略形である「ECO」を想起して「経済的で環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地はあるとしても、原告自身、商標出願の経過において「PAC」は「包装容器」を意味するが来語とは構成を異にするものであり、本件商標は「環境保護に十分配慮した包装容器」を意味するものではなく、特別の観念を生じない造語商標であると主張している以上、本件において、その前言を翻し、「環境に優しい包装」の観念が生ずると主張することは、禁反言に反し、許されない。
[コメント]
原告の主張は、商標出願の審査・異議申立の段階(平成2〜9年)では本件商標「ECOPAC」が“環境に優しい”の品質表示などと認められる証拠はないけれども、不使用取消審判の審決が出された現時点(平成22年)では、“PAC”が“package”の省略形であり、“ECO”が「ecology」の省略形であるということを示す証拠が多数あるということのように理解されます。しかしながら、商標出願の審査等の時期と不使用不服審判の時期とに大きな時間の経過があるのなら別ですが、本件の場合には、禁反言を根拠に原告の主張を退けた司法の判断は妥当であったと考えます。
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留意点 |
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