体系 |
商標制度に関する事項 |
用語 |
商標権移転登録の請求が認められた事例(ライセンス契約の終了による) |
意味 |
外国商標権者にロイリティを支払って当該商標(又はこれに類似するもの又はその変形物)を使用し、それら商標を自己の名義で商標出願したライセンシーは、ライセンス契約の終了後にそれらの商標権の移転登録を請求される場合があります。
ここではその請求が認められたケースを取り上げます。
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内容 |
@移転登録の意義
我国では、商標権は商標の現実に使用を問わずに設定登録により発生します(→登録主義)。アメリカのように、商標権は使用により発生するという使用主義を採る国とは立場を異にしています。また、属地主義の下では、他国の商標権の効力が我国に及ぶということはありません。基本的に各国の商標権は独立の存在です(商標独立の原則)。
しかしながら、商標権の保護対象は商標に化体した業務上の信用であり、外国商標権者が所有する商標の信用をライセンス契約によりそっくり活用し、事業を有利に進めたいと考える場合があります。こうした場合において、ライセンシーがライセンサーの同意を得て当該商標と同一・類似の商標或いはその変形物を商標出願をしたときに、それらの商標権の帰属はどうなるのかがここでは問題となります。
A移転登録の事例の内容
[事件の表示]昭和55年(ネ)第2053号・2081号(商標権移転登録請求・控訴)
[判決の言い渡し日]昭和13年10月27日
[移転登録の対象となった商標]
(1)Troy Bros (筆記体風の書体)
(2)図形商標(喫煙用パイプを図案化したもの)
(3)SUNFAIR
(4)CASTWAY
[事件の経緯]
(a)原告Pは、アメリカで“Troy Sportswear Company
Inc”という名称でスポーツウェアなどの衣料を製造・販売を長らく行っている企業です。
(b)被告Dは、その代表者であるMが原告と業務提携を行うために昭和43年12月に設立した会社です。Mは、日本で衣料品を販売していくためにはアメリカの会社と提携し、その名前を利用するのが日本人の好みにあって有利であると考えたのです。
(c)MはPの代表者にライセンスの申し込みを行い、基本的合意を得ました。Mは原告が使用している“Troy Sportswear
Company
Inc”の文字が入った注文書を見て、その文字の書体が気に入り、新会社の名称を「トロイ」とし、使用する商標として「トロイ」を使用したいと申し出ました。しかしながら、その後の商標調査により既に第三者が「トロイ」という商標登録を受けていることが判り、話し合い、Mは、“Troy”に兄弟会社を表す“Brother”の略語“Bros”を加えて“Troy
Bros”という造語商標を作り、その書体として注文書通りの書体を採用しました。
(d)前述の図形商標は、被告代表者であるMが考案し、“Troy
Bros”とともに併用したいと契約締結の際に申し出た商標、SUNFAIR及びCASTWAYは、原告が後に被告に提案した商標又はその変形物ですが、これらについてはここでは立ち入りません。
(e)被告は、新会社の設立と同時に、原告との間で次のようなライセンス契約を締結しました。
(イ)原告Pは、Mの設立する新会社(被告会社D)が株式会社「トロイ」と称し、その商品の販売に際して原告の社名・営業表示及び“商標等及びこれに類似する商標等”を使用することを承認し、その商標見本・デザイン・パンフレット等を提供する。
(ロ)これらの提供に対して新会社Dは対価を支払う。
(ハ)新会社Dはその使用する営業表示及び商標などについては全て原告の承認を得るものとし、その使用にあたっては原告に使用許諾(ライセンス)されたものであることを表示する。
(ニ)新会社において使用する商標については第三者により所用されることを防ぐために新会社の名において商標出願をし、登録手続をする。
(ホ)以上はいずれも原告と新会社との間に右趣旨の契約の存在を前提とするものであり、右契約が終了した時は原告から許諾を受けて使用したものの使用を中止する。
(f)被告会社は設立当初から、“Troy Bros”及びパイプマークを、ライセンス表示とともに積極的に使用し、業績を伸ばしていきました。
この間に“Troy
Bros”は被告会社の従業員の名義で商標出願された後に会社に名義変更されて昭和46年4月に登録されました。パイプマークは、被告名義で商標出願され、昭和51年11月に登録されました。
(g)昭和51年になって原告と被告との間に紛争が発生し、その際に契約が終了した場合の被告の使用している商標の帰属の問題が争われました。
原告は、ライセンス契約が打ち切られたら被告は商標の使用を中止しなければならない と主張し、
被告は、商標は被告に帰属し、ラインセンス契約が打ち切られても、ライセンス表示しなければ良いのだから、商標は継続使用できる、と主張したのです。
(h)昭和52年4月に原告から被告にライセンス契約を解除する旨の通知が行われ、同年8月に本訴が提訴されました。
[裁判所の判断]
(a)本件各商標が原告と被告とのいずれに帰属すべきものであるかを判断するに当たっては、本件ライセンス契約条項を検討するべきである。
(b)本件ライセンス契約がライセンス表示の許諾のみに主眼をおき、商標については拘束力を有しないという被告の主張は、著しく契約条項に反し契約の趣旨にもとるため、採用することができない。
(c)契約条項にいう“(原告商標に)類似する商標ないしはその変形物”の意味に関しては、契約全体の趣旨・契約締結に至る経緯・当事者双方の言動などの一切の事情を総合的に解釈するべきである。
(d)本件商標の“Troy Bros”に関しては、
・「トロイ」という商標について、第三者の登録商標がすでに存在していたため、これをそのままの形では使用することができず、その変形物として被告会社の従業員により草案されたものであること。
・その事態も原告の“Troy Sportswear”なる表示の書体に類似していること
・被告は昭和44年以来トロイのライセンス表示により原告からライセンスを受けていることを公然と明示して商標を使用していたこと。
・所定のライセンス料を支払っていたこと。
・商品の宣伝においても外国企業からライセンスされた商品であることを強調していたこと
などを考慮すると、当該商標は、“原告の商標に類似するものないしはその変形物”として原告に帰属させることが妥当である。
[コメント]
前述の如く、属地主義の原則からすると、各国の商標権の効力はその国の領域にのみ及ぶものであり、外国の商標権に基づいて日本国内で使用権を設定・許諾することができる旨の規定は、日本の商標法にはありません。
しかしながら、本件の被告は、外国企業が所有する商標のブランド力を利用して、当該企業からきちんとライセンス契約を受けた真正の舶来品のイメージを需要者にアピールして、事業に有利に展開していました。そうであるとすれば、当該商標に関して被告名義で商標出願して設定登録を受けているから、ライセンス契約の終了後にも商標を継続使用できるという被告に主張には無理があったと考えます。
なお、この事件では、前述のパイプマークに対しては商標権の移転登録請求が認められていません。
→商標権移転登録の請求が認められなかった事例(ライセンス契約の終了による)
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留意点 |
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