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@結合商標の類否の意義
(a)文字・図形の結合商標において、文字と図形とが一体的に結合しているかどうかは、類否判断に直結する場合が多々あります。例えば商標出願人の商標の文字部分と図形部分との結合の程度が弱く、取引上両者を分離して観察することが不自然でなければ、例えば文字部分を抽出して、引用商標と比較され、これと類似するという結論に至る場合が多いからです。
(b)文字と図形との一体的な結合の形態として、外観上の統一感がある場合があります。その一例として文字と図形とが融合している結果として、全体観察され、非類似と判断された事例を下記の頁で紹介しました。
→文字・図形の結合商標の類否のケーススタディ4
(c)しかしながら、文字と図形とが融合している場合であっても、結合商標の文字部分及び引用商標の文字の態様が似ていたり、あるいは、相手の商標が著名であるなどの取引の事情によっては、類似と判断される事例があります。そうした事例を紹介します。
A結合商標の類否の事例の内容
[事例1]無効・昭39−1588
本件商標は、ライターの図形に「Sharp」の文字を組み合わせたものであり、その文字部分のうちの“S”が大きく、縦長に描かれ、かつSの上半部分がライターの炎の如く描かれています(指定商品はライター)。引用商標は、楕円形の枠内に筆記体風の「Sharp」の文字を描いたものです。
審決は、「外観上は多少の相違点が認められるとしても、その構成中の『Sharp』が顕著であるから、…称呼・観念を同一にするのみならず外観も類似するものである。」と判断しています。
改めて本件商標の構成を見てみると、なるほどSの上半がライターの図の一部(炎部分)を兼ねているとはいえ、
・全体としては「Sharp」の文字が大きく印象的に表され、ライターの部分は背景の如く見えること、
・指定商品がライターであるためにライターの図形は識別力が弱いこと、
・引用商標の文字部分のSも上半部が長く描かれ、文字の態様が近似していること
・指定商品がライターなので、“ライター印のシャープ”の如き観念も生じにくいこと
を考慮すると、審決が両商標を類似と判断したのも止むを得ないというべきと考えます。
[事例2]不服2002−4051
商標出願人の商標は、S字状の黒塗りの上に鳥類の頭部を重ねて描いた図形と、黒いゴシック書体の「HAG」との結合商標であり、他方、引用商標は「HAG」です。指定商品は、ジューズ・酒類です。審決は、「類の図形は、前記のとおり、黒色部分をはみだして描かれていることから、この図形部分が直ちに特定の文字をモチーフにしているものとは認識されず、むしろ、黒色の背景と一体化した1つの図形として、文字部分とは区別されて、独立して認識できる」として、文字部分を図形部分から切り離して、引用商標と比較し、類似と判断しました。
個人的な考えでは、本願商標は、全体として「SHAG」(鵜の一種を意味する英語)であり、この文字の“S”の“鵜の首”に見立てて大きく描き、そこに鵜の頭部の絵柄を重ねたのだと理解しています。しかしながら、仮にそうであったとしても、ジュース・酒類の需要者の一般的な注意力からすれば、SHAGという英単語も知らないし、“鵜”の頭部をまじまじと見たこともないので、S+鳥類の図形の部分と、“HAG”の部分と分けて考えるのが自然なのです。従って、審決の判断は妥当であると考えます。
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