内容 |
①共同発明の意義
(a)複数の者が共同発明したときには、それらの者は特許を受ける権利の共有者となり、特許を受ける権利が共有に係るときには、各共有者は全員でなければ特許出願をすることができません(特許法第38条)。
(b)共同発明とは、複数人が発明の完成に実質的に関わったことを言い、単に発明者の指示に従い実験を行った単なる補助者発明者にはなりません。
(c)発明の成立過程が着想の提供と着想の具体化の2段階に分けて考えた方が良い場合があります。昭和47年(行ケ)第25号(麻雀ルールによって遊戯する球弾遊戯具事件)では次のように裁判所の見解が示されています。
“機械の発明においては、ある技術的事項についてえた着想が具体的な形態をとつた機械として実現しえないかまたはしていないものであれば、それは発明としては成立しえないかまたは未完成なものといわなければならない。そうだとすれば、着想に基づき機械を試作し、着想の具体化の可否を検討することは、発明成立の一過程であると解することができる。そして、数人が共同してこのような行為をした場合には、その数人は共同して技術的思想の創作すなわち発明をしたものというべきである。”
(b)甲が着想を提供し、乙が着想を具体化した場合に、その着想が単に抽象的に発明の方向性を示す一般的指示である場合には、甲は発明者となりません。
(c)他方、甲が具体的着想を示し、乙がこれを具体化したとき、それが当業者にとって自明でない限り、共同発明が行われたと考えられます。
②共同発明の内容
(a)前述の事例(昭和47年(行ケ)第25号)は、甲が着想を出し、乙・丙が着想を具体化して発明を完成した案件に対して甲が単独で特許出願を行い、その特許に対して共同出願要件違反で無効審判が請求され、請求が認容されたために、審決取消訴訟に至ったものです。裁判所は審決を支持しました。
[甲の着想]パチンコ遊戯機に麻雀の上り手を組入れ、麻雀牌の模様を縦横に規則的に配列した表示部の表示を落下する打球により行わせ、一定の上り手を表出させる。
[着想の実現のために甲が提示した手段]
牌の模様を書いた板を硝子に対して直角にスプリングで固定しておき球が入つた場合その重みで板が垂直になり硝子を透して牌の模様が表から見えるという方法(スプリング式)
→好ましい結果が得られず、失敗。
[乙・丙の具体化]
移動片で牌の模様板を覆い球が入るとその重みで、移動片が支点を中心に回転し模様を開放する方法(挺子式)
この場合には、発明の具体化のために幾度も試行錯誤と失敗が繰り返されているのですから、発明の具体化に重点があったと認められ、共同発明と解釈すべきであったと言えます。
着想者甲が単独で特許出願をしたことは妥当でありませんでした。
(b)甲が最初に着想を示し、乙が着想を具体化するために試行錯誤するも好ましい結果が得られず、結局、発明者の指示により発明が完成したが、乙がその発明を単独で特許出願してしまったという事例があります(昭和53年(ワ)第1416号
・ 昭和52年(ワ)第1107号)。
裁判所は、乙の単独での特許出願は違法であると判示しました。
この事例は、穀物の処理方法とその装置の発明に関して、従来の技術の欠点(粉砕損耗分が多い)を解決するために、甲が「蒸気によってとうきびの内部まで浸透させる」という具体的な着想を出し、着想の提出にこそ重点があったと解釈されます。
具体化の段階に携わった乙が試行錯誤をしたという点を評価しても、乙の単独での特許出願は妥当ではありませんでした。
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