体系 |
特許出願の審査 |
用語 |
(特許出願の)拒絶査定の理由と異なる理由のケーススタディ1 |
意味 |
特許出願の拒絶査定の理由と異なる理由とは、当該出願の審査の段階において実質的に特許出願人に通知されていない理由を言います。
こうした理由を拒絶査定不服審判の審判官が発見したときには、特許出願人に通知する必要があります(特許法第159条第2項)。
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内容 |
①特許出願の拒絶査定の理由と異なる理由の意義
拒絶査定不服審判において、審判官は拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したときには、これを特許出願人に通知しなければなりませんが、例えば発明の意義を明らかに周知例を参酌するときには、必ずしも通知する必要はないと考えられています。周知例は、今更知らせなくても特許出願人が知っているはずだからです。
しかしながら、審決で周知例の追加と言いながら、これを出発点として創作の容易想到性を判断しているような場合には、実質的に主引用例の差し替えに相当しますので、特許出願人に通知しないことは許されません。
②事例の紹介
[事件番号]平成17年(行ケ)第10683号
[事件の種類]拒絶審決取消請求事件・棄却
[発明の名称]情報記憶カードおよびその処理方法
[請求の範囲]カード識別装置と無線で情報を授受することによって情報記憶カードを処理する方法であって、
前記情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と、
読み取られた前記固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と、
前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と、
読み出された前記情報を処理して、前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに、前記履歴情報と同一あるいは少なくとも所定の部分を抽出した情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程と
を有することを特徴とする情報記憶カードの処理方法。
[事件の経緯]
(a)第一次審決での拒絶理由(特許出願人に既に通知された拒絶理由)
刊行物1を主引用例として、本願発明のとの一致点、相違点を認定した。
(一致点に関して誤りがあるとして第一次判決において第一次審決は取り消された)
(b)第二次審決での拒絶理由(特許出願人に通知されなかった拒絶理由)
特開昭63―79170号公報(甲7の1)に記載された技術は、周知技術であるとして、これを本願発明と対比して、一致点、相違点を認定し、相違点については、刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易になし得た(判断その2)。
(特許出願人にこの拒絶理由を通知して意見書を提出する機会を与えなかったのは不当であるとして、本件訴訟での取消事由の一つとされた)
[被告の反論(特許出願人への意見書機会の不付与に関して)]
本件審決は、特許法29条2項違反(進歩性)を理由とするものであるから、拒絶査定と根拠法条が同じであること、特許出願時の技術常識や周知技術を認定するに当たって、特許出願人に意見を述べる機会を与える必要はないことからすると、原告らに意見を述べる機会を与えなかったとしても違法ではない。
[裁判所の判断]
(a)この判断は、本件審決書の記載によれば、特開昭63―79170号公報(甲7の1)に記載された技術を「周知技術」と称しているものの、その実質は、特開昭63―79170号公報(甲7の1)を主引用例とし、刊行物1を補助引用例として、本願発明について進歩性の判断をして、進歩性を否定したものと解される。
そして、主引用例に当たる特開昭63―79170号公報(甲7の1)は、拒絶査定の理由とはされていなかったものである上、これまで、審査、審判において、原告らに示されたことがなかったものであることが認められる。
そうすると、審判官は、本件審決の「判断その2」をするに当たっては、特許出願人である原告らに対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって、原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その2」は、特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり、その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである。
(b)(被告の反論に関して)
本件審決の「判断その2」は、上記のとおり拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである。
このように主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず、拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで、特許出願人に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。もっとも、発明の持つ技術的な意義を明らかにするなどのために特許出願時の技術常識や周知技術を参酌した場合には、それらについて特許出願人に意見を述べる機会を与える必要がないが、本件審決の「判断その2」は、そのような場合に当たらないことは明らかである。
また、被告は、本件審決では、まず、周知技術から、「情報記憶カードに履歴情報を無限ループ状に記憶する」点以外の事項が、本件特許出願に係る発明の技術的特徴ではないことを示し、次に、本件発明の技術的特徴である上記の点については、先行技術(刊行物1)があるので、本件特許出願に係る発明は、周知技術及び先行技術により当業者が容易に発明できたものであると結論付けたものであるとも主張する。
しかし、本件特許出願に係る発明の技術的特徴がどこにあるにせよ、本件審決の「判断その2」が、拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしていることには変わりはない。したがって、被告の主張は採用できない。
[コメント]
特許出願の進歩性の実務において、周知例が事前に示されずに処分(特許出願の拒絶査定や拒絶審決)が出されることはままあります。
周知例は、そもそも改めて通知しなくても特許出願人が知っているはずのことだからです。しかしながら、それは、例えば主引用例及び副引用例の組み合わせの容易性を議論するにあたり、特許出願時の技術水準を参酌するために用いられるべきものです。
従って予め特許出願人に通知することなく、周知例を元の主引用例と差し替えるというのは、無茶な話です。それにより、発明の解決するべき課題などが変わってくるからです。
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留意点 |
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