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①時期に遅れた攻撃防御方法の意義
(a)攻撃防御方法とは、民事訴訟において当事者がその本案の申立を支持し続けるための一切の陳述・証拠の申立を言います。
(b)講学上において、攻撃証拠方法の提出時期に関しては、同時提出主義と随時攻撃主義とがあります。
ただし、訴訟の進行上で余りにも時期に遅れた攻撃防御方法があると、無用の混乱を生ずるために、裁判所が時期に遅れた攻撃防御方法を却下すべきものと扱われます。
②時期に遅れた攻撃防御方法の内容
(a)民事訴訟法第157条には次のように規定されています。
1.当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2.攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
(b)“故意又は重大な過失”がなければ、時期に遅れた攻撃防御法方法は却下されません。
例えば平成 19 年(ワ)第
6485 号(商品展示用ケース事件)
では、提出するべき証拠物(刊行物)が外国語で記載されたために時期に遅れたことが故意又は重大な過失では無いと判断されました。すなわち、
(被告が)「新たに副引例として追加主張した乙第 21
号証は、フランス語で記載されたフランス国特許の特許公報であり、検索に際してキーワードを選択するについても言語上の問題があり、我が国の特許・実用新案のようにその検索自体が必ずしも容易に行い得るものではない。...攻撃防御方法の提出について...却下すべきものではないと判断した」とされました。
なお、判決文では翻訳の時間にも言及しています。
(c)“却下の決定をすることができる”ですから、“故意又は重大な過失”が無いのに時期を遅れたといても、却下せずに判断を示すことは、裁判所の自由です。
(イ)例えば平成10年(ワ)第8345号(養殖貝類の耳吊り装置事件・差止請求権不存在確認訴訟)では、特許請求の範囲中の「ロープおよび養殖貝類の稚貝の耳部を積層状に並べ」という要件の「積層」に関して、当初は文言通りの侵害の成否で争っていたところ、被告側が弁論準備手続終結後に均等侵害に該当する旨の主張を提出したものです。
文言侵害に関して、「積層」という言葉はロープ及び稚貝の耳部を水平にして上下に重ねる水平置きに限定するべきかが論点とし、
被告は発明の作用・効果から考慮して水平置きに限定する必要性がないと主張し、
原告は、本件特許に係る特許出願(分割出願)の親出願の明細書には「上下方向に積層状に並べた」構造しか開示されておらず、分割出願の要件(客体の同一性)に鑑みると権利行使において広い解釈を主張することは包袋禁反言の法則に反する
と主張していました。
(ロ)これに対して裁判所は次のような見解を示しました。
“被告の主張は、原告が指摘するとおり、当事者双方の主張が終了し争点整理が完了したものとして弁論準備手続を終結した後に、突如として提出された新たな攻撃防禦の主張であり、明らかに時期に遅れた攻撃防御の主張というべきであるから、これにより新たな主張整理ないし証拠調べを要するものであれば、却下すべきものである(民訴法一五七条一項)。しかし、本件においては、被告の均等の主張は、次に述べるとおり、明らかに理由がないので、進んで、この点についての当裁判所の判断を、示すこととする。
すなわち、本件出願は本件原出願の分割出願としてなされたものであるところ、前判示のとおり、分割出願が適法になされたというためには原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないことを要するから、本件発明は、その技術的範囲からロープと稚貝の耳部を垂直置きにする構成を除外して出願されたものと解すべきである。
従って、本件発明については、特許出願手続において、出願人が垂直置きの構成がその技術的範囲に属さないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものというべきであるから、本件において被告がこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない(本件特許出願が分割出願としてなされた経緯に照らして、本件発明の技術的範囲を限定的に解釈しておきながら、他方で、これと相反する均等の主張を許すならば、分割出願の法定要件を潜脱することを結果的に許すこととなり、相当でない)。”
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