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1023 分割出願の効果と禁反言/特許出願 |
体系 |
特許出願の種類 |
用語 |
分割出願の効果と禁反言の関係 |
意味 |
分割出願の効果とは、原出願の一部を分割し、かつ分割出願である旨の意思表示をした特許出願が、法律上が原出願の時においてしたものとみなされること(出願日の遡及効)です。
他方、禁反言の原則とは、権利者は、特許出願の経過において意見書や補正書で行った意思の表示と矛盾するような特許権の主張をすることを言います。
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内容 |
@分割出願の効果と禁反言との関係
分割出願の効果は、前述の出願日の遡及に留まり、権利範囲の解釈とは別個の問題ですが、その効果故に分割出願をして取得所た特許の権利行使に関して禁反言の原則が適用される可能性があります。そうした事例を紹介します。
A事例1
[事件の表示]平10(ワ)8345号
[事件の種類]差止請求権不存在確認訴訟
[発明の名称] 養殖貝類の耳吊り装置
[請求の範囲]
ロープおよび養殖貝類の稚貝の耳部を積層状に並べ、
前記ロープおよび耳部に貫通孔を形成するとともに
前記貫通孔に係止具を刺し通す養殖貝類の耳吊り装置において、
前記係止具を保持する送りピッチ凹部を備えるとともに
作業の進行に合わせて回転作動する供給ロータにより前記係止具を供給する
ことを特徴とする養殖貝類の耳吊り装置。
[特許出願の経緯]
甲(被告)は、“養殖貝類の耳吊り装置”と称する発明に関して特許出願Xをした。
その発明は、稚貝の耳部をロープに係止具(ピン)で突き刺して固定する作業を効率よく行うために回転作動する供給ロータから供給される係止具を送りピッチ凹部に保持し、ロープと稚貝の耳部とを積層させた状態で突き刺すものであった。
この特許出願の明細書には、係止具を突き刺す前の耳部とロープとの位置決めに関して耳部とロープとを上下方向に積層させて並べる旨が記載されていた。
甲は、出願Xの一部を分割して特許出願Yを行い、その際に「上下方向に積層状に並べ」を「積層状に並べ」と変更した。
特許出願Yに対して特許が付与され、甲はこの特許に基づいて乙に製品の製造・販売の中止を求めた。乙は差止請求権の不存在の確認を求めて提訴した。
[訴訟での経緯]
特許請求の範囲中の「ロープおよび養殖貝類の稚貝の耳部を積層状に並べ」という要件に関して、「積層」の用語を次の広狭2つの意味
狭い意味…水平置き(ロープ及び耳部の配置の仕方を水平にして上下に重ねる)に限る
広い意味…水平置き・垂直置き(両者を垂直にして左右に並べる)のいずれでも良い
のいずれにすべきかで甲・乙で争いになった(乙の製品は垂直置きのタイプであった)。
[甲の主張]耳部とロープとを突き刺すときの位置合わせに必要なのは相互の相対的な位置関係であり、垂直置きか水平置きかは問題ではない。特許出願X(親出願)がされた当時に垂直置きの装置は公然知られていたから、特許出願人の発明もそのことを想定している。
[乙の主張]“積層”とは物の上に物を重ねることを意味するから、水平置きを意味すると考えるのが妥当であり、特許出願Xの記載もこの解釈を裏付ける。
[裁判所の判断]
“積層状”の用語の本来の意味から請求の範囲は水平置きを意味すると解釈するのが妥当である。また、分割出願(本件特許出願)の「積層状に」が親出願の明細書に記載されていた「上下方向に積層状に」と同じ意味でないとすれば、分割出願の要件を満たさないことになる。“分割出願は原出願について補正のできる範囲で行われることが必要と解される”から、これに反する解釈を権利行使の際に主張することは包袋禁反言の原則から許されないことである。
→包袋禁反言の原則とは
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