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①文法解釈の意義
(a)法律の言葉を通常の言葉の用法通りに、また文章の意味を文法通りに解釈することを文理解釈と言います(→文理解釈とは)。文理解釈は条理解釈に対する用語です。
言葉の用法と文法とは密接に関連しているので、両者を厳密に区別せずに文理解釈を文字解釈ということもあります。
しかしながら、条文中の一部の用語が殊更難解であるときに、これを辞書等を引いて解釈することを狭義の文字解釈と言い、これに対して、条文の文法的な構成が複雑であるときに、これを文法に従って解釈することを文法解釈というときがあります。
(b)特に特許法の一部の規定は平易な用語でありながら、一般人の常識を超えて複雑な構成を有するものがあります。
そういう場合でも、文法に即して構文を分析して、意味を捉える必要があります。
(c)文法解釈に必要な用語の知識として、“並びに”及び“及び”、“又は”及び“若くは”の使い分けを説明します。
“並びに”は大きな区切りに、“及び”は相対的に小さな区切りに用いられ、又“又は”は大きな区切りに、“若くは”は相対的に小さな区切りにそれぞれ用いられます。この用法は数学の大括弧[]、中括弧{}、小括弧()の使い分けに似ています。
②文法解釈の内容
(a)複雑な構成を有する条文として、特許法第29条の2を挙げます。
(イ)特許出願に係る発明が
(ロ)当該特許出願の日前の (←後願)
(ハ)他の特許出願又は実用新案登録出願であつて (←先願)
(ニ)当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開
又は実用新案法第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたもの
(ホ)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面
(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)
に記載された発明又は考案
(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)
(へ)と同一であるときは、
(ト)その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。”
(b)最初の“他の特許出願又は実用新案登録出願であつて”に対応して“又は”・“若くは”を使い分けながら、条文が構成されていることが分かると思います。
(c)この文章でさらに特徴的なのは括弧書きの存在です。
例えば“発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)”のように記載していますが、普通の文章であれば、括弧書きを挿入する以前に文章がかなり複雑になっていますので、本文をさらに2つの文章に分ければよさそうなものです。
しかしながら、法律の解釈では、“本文+但し書”の形の規定では、その文章の仕組みは立証責任の分配と関わってきます。従ってあえて本文が複雑になっても“本文+但し書”の形を貫こうとしているのだと考えられます。
→立証責任とは(但書きの事実)
(d)こうした文章では、例えば括弧内の部分を除いた条文の部分に色をつけて全体の意味を捉え、その後に括弧内の部分の内容を把握するなど、読み方に工夫が必要です。
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