内容 |
①特許異議申立の意義
平成6年改正までの特許法は、特許出願の流れの中で審査官に対する公衆の審査協力の機会を設けていました。すなわち、審査官が自ら新規性・進歩性などの審査をした特許出願のうち拒絶理由が発見されないものについては出願公告を行いました(旧51条)。
そして、その出願公告された特許出願が特許されるべきでないという第三者に異議申立(以下「付与前異議申立」と言う)の機会を与えるとともに、異議申立があったときには特許出願人には答弁書の提出の機会を与え(旧57条)、しかる後に審査官が異議申立に対する決定をするとともに当該特許出願について特許をするか否かを最終的に決定していたのです。
→付与前の特許異議申立
しかしながら、近年では世界各国の特許制度の相違をできるだけ小さくしようという趨勢があります。これに応じて国際的調和を図る観点から、異議申立制度は、特許付与前のものから特許付与後のものへと移行しました。これにより、異議申立の審査を特許出願の流れの枠組みから外れることになり、それに伴って制度の手続も変更されました。
②付与後特許異議申立の手続
(a)特許異議の申立(特許法第113条)
(イ)何人も、特許掲載公報の発行の日から6月以内に限り、特許庁長官に…特許異議申立をすることができます(同条第1項)。
・付与後特許異議申立の期間は、付与前異議申立の期間(特許出願の“出願公告の日から3月)に比べて、長く設定されています。特許出願の流れの中での手続ではなくなり、特許異議の申立の期間の間に特許出願の審査がストップするという不都合がなくなったからです。
(ロ)付与後特許異議申立の申立の審理は、審判官の合議体が行います(特許法第114条第1項)。付与前特許異議申立と異なり、すでに特許出願の審査は終了しているために、審判官の合議体に審理させることにしたのです。
(b)特許権者への異議申立書の副本の送付
(イ)審判長は、特許異議申立書の副本を特許権者に送付しなければなりません(特許法第115条3項)。
・付与前特許異議申立では、特許出願人は審査官から異議申立書の副本を送達された時点から答弁書の提出に向けて準備を開始できましたが、付与後特許異議申立では、異議申立書の副本を受けて答弁書の準備を開始しても無駄になる可能性があります。その申立内容が審判官の合議体により取消理由として採用されるかどうかは不明だからです。
・付与後特許異議申立の副本の送付は、単に異議申立があったこと及び申立内容の通知に過ぎないと考えることが妥当です。
(ロ)審判長は、付与後特許異議申立があったときには、その旨を当該特許権についての専用実施権者その他特許に関して登録した権利を有する者に通知しなければなりません(特許法第115条第4項で準用する同法第123条第4項)。
付与前特許異議申立は特許出願中の手続であるために参加の制度の適用はされませんでした。
(c)特許権者への取消理由通知書の発送
(イ)審判長は、取消決定をしようとするときには、特許権者及び参加人に対し、特許の取消の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(特許法第120条の5第1項)。
付与前特許異議申立では、特許異議申立に対して特許出願人に答弁書の提出を与え、両者の言い分を審判官がアンパイア的な立場で検討して異議決定をします。
これに対して、付与後特許異議申立では、審判官が一つ又は複数の異議申立の内容を検討して特許取消理由が存するときには、一つの取消理由通知を特許権者に発送します。
この取り扱いは、特許出願の審査で情報提供があったときに、これを検討して拒絶理由が存在するときに、審査官が一つの拒絶理由通知を特許出願人に発送するのに類似しています。特許庁(審判官)の見解に対して意見を言うので、“答弁書”ではなく“意見書”を提出する機会が与えられます。
(ロ)特許権者は、意見書提出期間として指定された期間に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の訂正をすることができます(特許法第120条の5)。
・付与前異議申立の場合には、特許出願人は答弁書の提出期間内に明細書・図面の補正をすることができました。
(d)異議申立人への取消通知書・訂正した明細書等の発送
・特許権者は、指定された期間内に訂正の請求があったときには、取消理由通知書及び訂正した明細書・特許請求の範囲・図面の副本を送付し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(特許法第120条の5第5項)
(e)特許維持決定又は特許取消決定の発送
(イ)審判官は、特許異議申立に係る特許が特許取消理由に該当すると認めるときには、その特許を取り消すべき旨の決定(取消決定)をしなければなりません(特許法第114条第2項)。
・付与後特許異議申立の決定に対しては、特許権者は、東京高等裁判所に不服申立をすることができます(特許法第178条第1項)。
・これと同様に、付与前特許異議申立に対して理由有りの決定がされ、拒絶査定がされたときには、特許出願人は、拒絶査定不服審判を請求できます(特許法第121条第1項)。
(ロ)審判官は、特許異議申立に係る特許が特許取消理由に該当すると認めないときには、その特許を維持すべき旨の決定(維持決定)をしなければなりません(特許法第114条第4項)。
・付与後異議申立に対する維持決定に、特許異議申立人は不服申立をすることができませんが、同じ理由で特許無効審判を請求することはできます(特許法第123条第1項)。特許異議申立の決定と無効審判との間で一事不再理の適用はないからです。
・これと同様に、付与前異議申立に対して理由なしの決定があっても異議申立人は不服申立をすることが出来ませんが、特許出願に対して特許査定がされ、特許権の設定がされた後に、特許無効審判を請求することはできます。
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