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①周知技術の意義
特許出願に係る発明の進歩性を判断する際に、審査官は、請求項に記載された発明の構成要件(例えばA+B+C+D)を認定し、これに一番近い引用発明(例えばA+B+C+D’)
を探して一致点(A+B+C)と相違点(特許出願人の発明はDを有するのに、引用発明はD’を有する)とを認定します。
そして相違点を開示する第2引用例を探すのですが、相違点にぴったりとあてはまるが引用例が直ちに見つからないことがあります。
こうした場合に、審査官は、相違点に相当する技術は、広く知られた周知の技術であり、証明する必要がないとして、特許出願を拒絶することがありますが、こうした場合には、その判断が妥当かどうか疑いを持つ必要があります。審査官が事後分析的な思考(いわゆる後知恵)に陥る可能性があるからです(→後知恵とは)
②周知技術の範囲の解釈の具体例
進歩性の判断において周知事実の解釈が問題になった事例を挙げます。
(a)事例1
[事件番号]平成27年(行ケ)第10165号(拒絶審決取消訴訟/容認)
[判決言い渡し日]平成28年 3月23日
[発明の名称]5角柱体状の首筋周りストレッチ枕
[主要論点]進歩性の判断における周知技術の認定の是非
[本願発明(特許出願に係る発明)の構成]
「発泡プラスチック等弾力性のある材料で作られた5角柱体状の首筋周りストレッチ枕」
[本願発明の効果]
・ストレッチ枕を、床に置いたり睡眠用枕の上の任意の位置に任意の方向に置いたり睡眠用枕に立てかけたりして使用することできる。
・睡眠用枕の上に置いて使用する場合には、枕の上で首を前後左右に押したり、引いたり、曲げたり、捩じったりして、首筋周りのストレッチをするために必要な動作、すなわち、顎を低く沈めたり、顔や頭部を自由に動かしたり、廻り込ませたりすることを可能にする高さと空間が確保できる
[引用発明]
「適度な弾性を有するウレタンフォームや発泡スチロール若しくはゴムなどの弾性体で作られた、多角形状の外周面をもつ転がし容易な形状の、容易に転がして首筋の任意な好みの部位にその円頂部を宛がう転がり枕」
[周知技術]複数の多角形(五角形を含む)断面を有する柱状体を連結した枕部品
[裁判所の判断]
周知技術の公報には、複数の多角形断面を有する柱状体を連結した枕部品が開示されているだけである。
上記公報には、枕の一部を構成する部分に5角形の断面形状を有するものが認められるものの、そうであるからといって、一部材からなる枕の断面形状を5角形にするという技術事項を開示したことにはならないのであり、また、単体で使用する枕の断面形状を5角形にすることが直ちに動機付けられるものでもない。
[コメント]
今回の場合、特許出願の拒絶査定不服審判において、審判官の頭の中に多角形状の枕の多角形の角数を変更する程度のことは単なる設計変更の範囲という思いがあったのではないかと推察されます。
そうした先入観があると、枕の構成部材の一部が五角形のものを見つけだだけで、周知技術として引用してしまう可能性があります。枕の一部である五角柱状の部材と、単一部材としての五角形状の枕とは技術的意義が異なるのですから、区別する必要があります。
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