体系 |
実体法 |
用語 |
進歩性の判断(容易の容易の解釈)のケーススタディ1 |
意味 |
進歩性の判断において、当業者にとって“容易”な程度の変更を積み重ねることが全体として容易かどうかが問題になることがあります。そうした場合に裁判所が進歩性を肯定した例を紹介します。
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内容 |
@事例1
[内容]
平成27年(行ケ)第10149号は、特許出願の拒絶審決に対する取消請求事件です。川底などを浚うためのグラブバケットは、(外部の構造である重機に繋がれた)ロープによって上下動可能に吊るされ、上側で軸支された左右一対のシェルを備え、このシェルが下側から開いて、両シェルの間に川底の泥やヘドロを掴み、引き上げられ、(重機の旋回により)別の場所に移動され、両シェルが開いて泥などを捨てるように構成されています。
特許出願人のグラブバケットは、各シェルの上部にシェルカバーが密接配備され、そしてシェルカバーには、ゴム製の蓋体を有する空気抜き孔が形成されていました。これにより、
・両シェルが開いて水中を降下する際に、各シェル内のエアが空気抜け孔から上方へ抜けるので、水の抵抗が低下して下降時間を短縮できる、
・グラブバケットが過剰に泥を掴んだ際には蓋体が開いて内圧が下がるので、シェルが破損しない
・水中を移動するときには蓋体が閉じているので、泥などが外に漏れることがない
という効果を発揮します。
これに対して、審決は主引例のグラブバケット(シェルの上部が密閉されていないもの)に次の引用例を組み合わせることで特許出願人の発明に容易に想到すると判断しました。
副引例…“シェルの上部にシェルカバーを密接配備すること”を開示するもの
周知例…“シェルの上部に空気抜き孔を形成すること”開示するもの
裁判所は、“シェルが掴んだ土砂や濁流などの流出を防止すること”は引用文献に記載されていないけれども自明の課題であるとして、この課題を解決するために、副引用例を主引用例に適用することが“容易”であると認めました。
しかしながら、そのシェルカバーに空気抜け孔を設けることまでは“容易”であると認めませんでした。その理由は、周知例の空気抜き孔はシェルの上部が密閉されている構造に関してシェル内に溜まったエアなどを排出するためのものであるのに対して、主引用例はそうした構造ではなかったからです。
[コメント]
当業者にとって容易な設計変更の上に、当該変更に関連する別の容易な設計変更を加えることが容易であるとする論法は、特許出願の審査において散見されます。しかしながら、そういうことを繰り返すうちに後知恵の罠に落ちてしまう可能性があります。
本件のように或る技術的課題を解決するための技術的手段を、当該課題が存在しない別の引用例(主引例)に適用するというごとき場合が該当します。
そしてさらに当該課題を有する構造を有する別の引例を見つけてきて、主引用例に適用すれば、一応は特許出願人の発明になるでしょうが、それは技術的課題が存在しないものに技術的課題を作るための設計変更をしているに等しいことになります。
進歩性の判断を行う際には、当業者が特許出願人の開示内容を知らないで、そのクレームに容易に到達し得たことが前提ですので、前述のような“無理のある”論理付け(進歩性否定の論理付け)をしたときには、事後的分析(後知恵)によるものではないのかという疑念が生じます。
複数の創作過程を重ねた場合であって進歩性が否定された事例に関しては下記を参照して下さい。
→進歩性の判断(容易の容易の解釈)のケーススタディ2
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留意点 |
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