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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1073   

進歩性判断における容易の容易CS2/特許出願/後知恵

 
体系 実体法
用語

進歩性の判断(容易の容易の解釈)のケーススタディ2

意味  進歩性の判断において、当業者にとって“容易”な程度の創作を積み重ねることが全体として容易かどうかが問題になることがあります。そうした場合に司法が進歩性を否定した例を紹介します。


内容 @事例1

[内容]

(a)平成14年(行ケ)第117号は、特許無効審判(請求棄却)の審決に対する取消請求事件です。

(b)一般に、チップ抵抗器は、絶縁性基盤に金属箔抵抗体を貼り付けた抵抗チップを樹脂で外層し、外部接続端子を外層樹脂のプリント基盤の取り付け面に臨ませています。

(c)本件発明は、一対の板状外部接続端子(リード)を有し、かつこの板状リードを絶縁性基板の一辺の幅全体に亘って形成している点で引用文献と異なっていました。

(d)特許権者は、引用発明から本件発明に至るためには次の2段階の変更を必要とし、これらはそれぞれ容易ではないし、これらを同時に行うことも容易ではないと主張しました。

(イ)リードを板状にすること

(ロ)板状リードの幅を絶縁性基板の一辺の全長と等しくすること

 これに対して裁判所は、

(イ)に関しては、引用文献に“幅広のリード”という文言があるから、板状のリードが示唆されている

(ロ)に関しては、チップ抵抗器の両側から板状リードを引き出す際に、“なるべく広い面積で”絶縁性基板に接合させるために板状リード線の幅を絶縁性基板の全長と等しくすることは、熱放散が最も高くなる基本的態様として(本件特許出願時に)当業者が容易に推考できる設計的事項であると判断しました。

[コメント]

 いわゆる“単なる設計変更”と言われる程度の設計的事項の変更を二段に重ねただけでは特許出願人が進歩性を主張しても、裁判所は簡単に進歩性を認めてくれません。

 裁判官は2番目の変更は自明な課題によるものであるとしています。2つの引用例が技術分野が同一であると、共通の技術的課題を内包している場合が多く、自明な課題を手掛かりに進歩性を否定する論理付けができてしまう場合が多いと考えます。

A事例2

[内容]

(a)平成13年(行ケ)第470号は、異議決定(取消処分)の取消請求事件です。

(b)本件特許発明のドーナツ状基盤の円孔研削工具は、コアー部材をドーナツ状基板の円孔に挿通させ、コアー部材に対してドーナツ状基板を相対的に水平運動させて孔縁の仕上げを行うものです。ドーナツ状基板は、(これらコア―部材及びドーナツ状基板を囲む部材の内周面に設けられた)環状凹部に位置させられています。複数の環状凹部が形成されており、ドーナツ状基板は一つの環状凹部で仕上げ作業をした後に別の環状凹部に移動するようにされています。

(c)特許権者は、副引用例は一つの加工が終了した後に工具を上昇させて停止することを開示しているに過ぎず、研磨作業切換時における工具の移動手段を開示していないから、これを主引用例に適用して本件発明に適用するためには、2段階の変更が必要であり、容易の容易に相当するから、全体として特許出願時に当業者が容易に発明できたものではない、

 と主張しました。

(d)しかしながら、裁判所は、副引用例における工具の相対的移動と本件発明における工具とは実質的に同じものであると認定しました。両者には工具とそれにより加工されるワークとを離間させるべく移動させる実質的な差異があるとはいえないからです。

 この認定の下で裁判所は特許権者の主張を退けました。

[コメント]

 この事例では、特許権者は、引用例2に開示された、作業終了時に工具を移動する手段を研削作業の切替えのための工具移動手段に変更し、これを引用例1に適用することを以て、2段階の変更が行われたと主張しています。

 しかしながら、進歩性肯定例(平成27年(行ケ)第10149号)の如くシェルにシェルカバーを隣接配備し、当該カバーにゴム製の蓋つき空気逃し孔を設けたというような明確な2段階の変更が行われたケースとは事案を異にしているというべきであると考えます。
進歩性の判断(容易の容易の解釈)のケーススタディ1

 二段階の変更が行われたとしても、技術的な意義を異にする複数の変更を重ねたというのでなければ、特許出願人(又は特許権者)がいくら“容易の容易”であると主張しても、裁判所は進歩性を認めてくれないと思われます。


留意点

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