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①属地主義の意義
法律の適用に関しては、属人主義と属地主義とがありますが、知的財産、例えば特許に関する事柄(特許出願の手続を含む)の分野では伝統的に属地主義が採用されています。
何故ならば、例えば仮に特許出願人が“自分は米国籍を有するから、米国特許法において特許出願について定めたルールが適用されることを要求する。”というような主張が認められると、特許制度の運用が困難になるからです。
②属地主義の事例
(a)平成12年(受)第580号(カードリーダー事件)を紹介します。
(b)甲は、「FM信号復調装置」という発明について米国に特許出願し、1985年9月10日に特許権を取得しました(特許番号第4540947号)が、日本に対しては当該発明について特許出願をしていませんでした。
(c)乙は、カードリーダー(製品aという)を日本で製造し、乙が100%出資した米国法人丙を通じて米国に輸入、販売を行っていました。
(d)甲は、日本の裁判所に訴えを提起しました。
(ⅰ)製品aを米国に輸出する目的で日本で製造すること、日本で製造した製品aを米国へ輸出すること等の差止め
(ⅱ)乙が我が国において占有する製品aの廃棄
(ⅲ)不法行為による損害賠償請求
(e)この判決の時点において米国特許法には次の規定があります。
・同法271条(b)項は、特許権侵害を積極的に誘導する者は侵害者として責任を負う。この規定は、直接侵害行為が同国の領域内で行われる限りその領域外で積極的誘導が行われる場合をも含むものと解されている。
・同法283条は、特許権が侵害された場合には、裁判所は差止めを命ずることができる旨規定し、裁判所は侵害品の廃棄を命ずることができるものと解されている。
(f)裁判所は、結論として、甲の請求を認めませんでしたが、その理由に関しては。差止請求権と損害賠償請求権とでは異なっています。前者に関しては属地主義を根拠としており、他方、後者に関しては準拠法である米国法に域外適用の規定がないことが根拠となったのです。ここでは、前者に関して説明します。後者に関しては下記の頁を参照して下さい。
→準拠法のケーススタディ
高等裁判所の判断は、「特許権については、国際的に広く承認されている属地主義の原則が適用され、外国特許権を内国で侵害するとされる行為がある場合でも、特段の法律又は条約に基づく規定がない限り、外国特許権に基づく差止め及び廃棄を内国裁判所に求めることはできない」とし始ました。法例で定める準拠法の決定すらしませんでした。
最高裁判所の判断は、準拠法の決定をしないということはともかく、高等裁判所の判断は結果として是認できるということでした。
すなわち、この事件での準拠法は米国法であり、前述の通り、米国特許法第271条(b)及び米国特許法第283条によれば、米国特許権の侵害を積極的に誘導する行為に関しては、差止請求及び廃棄請求を認める余地がある。しかしながら、我が国は、特許権に関して属地主義を採用しており、各国の特許権は当該国の領域内においてのみ効力を有するのにも関わらず、米国特許権に基づき我が国での差止を認めることは、結局、米国特許権の効力をその領域外である我が国に求めることになり、我が国の特許法秩序の基本理念と相いれないから、差止請求は認められない、ということです。
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