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通常実施権の当然対抗の必要性/特許出願/オープンイノベーション |
体系 |
権利内容 |
用語 |
通常実施権の当然対抗の必要性 |
意味 |
通常実施権の当然対抗とは、特許権者又は専用実施権者が通常実施権を許諾したときには、当該通常実施権はたとえ未登録でもその発生後に当該特許権若しくは専用実施権又は当該特許権についての専用実施権を取得した者に対して、その効力を有することをいいます(特許法第99条)。
ここでは当然対抗制度を採用することが必要とされた理由を説明します。
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内容 |
@通常実施権の当然対抗の意義
(a)特許出願をする意味として、特許権が設定登録された後に、当該特許発明の実施を希望する者に通常実施権を許諾して、実施料を得るということが挙げられます。特に昨今の経済状況では、一つの製品を開発するために非常に多数の特許発明を使用しなければならない場合があります。
(b)それらの発明を自社で全て開発し、特許出願して権利化することは、現実的ではないため、他社の優れた技術をベースに商品開発を行うオープンインオベーションが重要視されており(→オープンイノベーションとは)、多数の通常実施権の特許ライセンスを合理的な手数と費用の範囲で締結することが需要と考えられています。
(c)製品化に必要な特許を全てライセンス契約でまかなうにせよ、或いは、自社で特許出願した技術に加えて他社の特許を用いるにせよ、一つの製品を事業化するには、相当の投資が必要であり、投資した資金を回収するには、ある程度の長期間に亘って安定して発明の実施をできることが需要です。
(d)こうした観点から、特許法は、“売買は賃貸を破る”という債権法の原則的な考え方を修正して、登録を受けた通常実施権は、その後に特許権若しくは専用実施権を転得した者、又は当該特許権についての専用実施権を取得した者に対抗できる旨の規定(旧特許法第99条第1項)を採用していました。
(e)しかしながら、それでも下記に述べる社会事情に対応するには不十分な面があったため、平成23年改正において、従来の考え方をさらに一歩進めて、通常実施権の当然対抗の制度を採用しました。
A通常実施権の当然対抗の必要性
以下、通常実施権の当然対抗が必要となった理由を列挙します。
(a)製品の開発に必要な通常実施権の数の増加
(イ)近年、オープンイノベーションの進展により、自社の特許技術だけで製品を開発することが困難なことが多くなっています。
このため、通常実施権に関する特許ライセンスが多数締結されています。
(ロ)また、技術分野によっては、他社の製品に対する優位性を築くために、製品に多くの機能が注ぎ込まれる傾向にあります。これにより、一つの製品を実現するために必要な特許の数は必然的に増加します。
前述の通り、自社で特許出願した技術だけでは必要とする機能の水準に達しないため、他社の特許を積極的に利用する必要があり、そのためには通常実施権の許諾を受けなければなりません。特にパテントプールを利用する場合には、多数の特許権者との間で膨大な数の通常実施権の許諾を受けることが実務上少なくありません。
(b)通常実施権の登録には費用がかかること。
前述の通り、一つの製品を事業化するために必要な通常実施権の数が急増している傾向があるのにも関わらず、登録の手続は原則として個々に行わなければなリません。一件ごとに特許庁に登録免許税を支払うと相当な額になります。
(c)ライセンシーからライセンサーに対して登録の協力を求めにくい事情があること。
特許庁への登録申請は原則として登録権利者と登録義務者とが共同でしなければならないとされています(→共同申請主義とは)。しかしながら、判例では、契約で別段の定めをした場合を除いて、ライセンサーには登録に協力する義務はないものとされ、これにより、ライセンシーが著しい不利益を被る事例もあります。
→通常実施権の登録への協力義務のケーススタディ
(d)契約の条件を全て特許原簿に登録することが困難であること。
ライセンス契約では、様々な条件(例えば特許出願前の先行技術が発見され、特許が無効となった場合のライセンシーの責任など)が定められることが通常であり、その一つ一つが第三者(特許権・専用実施権の転得者等)に対抗する上で重要な意味を持つ可能性があります。こうした事柄を登録原簿に記載することは現実的ではありません。
(e)登録対抗制度を前提としない実務が根付いていたこと。
前記の通り通常実施権の登録制度を利用することに難点があるため、実務上は、次のように登録を前提としない実務慣行が広がっていたと言われています。
・通常実施権を登録せずに、特許を譲り受ける者がデューデリジェンスなどによる事前確認を行う(→デューデリジェンスとは)。
・特許権者を譲り受けた後に、登録を備えていない通常実施権者がいたとしても、譲り受け人は、この者に対して差止請求権を行使しない。
(f)特許権・専用実施権の権利主体の変更による訴訟リスクの増大
ところが、海外の特許買収事業者の参入により、特許主体が多様化しているという指摘があります。特許を保有する企業ごと買収される場合も少なくありません。
前述の通り、従来では特許権を譲り受けた側が未登録の通常実施権者に対して直ちに差止請求等の権利行使を行わず、交渉により解決することを実務慣習としていた場面であっても、いきなり権利行使を受けるリスクが高まっています。
こうした事情から、法律上、前述の通常実施権の当然対抗を保障することが要望されていました。
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