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1245 不返還条項・既納実施料/特許出願/進歩性 |
体系 |
権利内容 |
用語 |
不返還条項とは(既納実施料の) |
意味 |
既納実施料の不返還条項とは、特許ライセンス契約においてライセンシーからライセンサーに一旦払われた実施料は返還しない旨の条項を言います。
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内容 |
①不返還条項の意義
(a)特許発明(或いは特許出願中の発明)に関して有償のライセンス契約を締結した場合には、既納実施料(ライセンス料)を巡って返還が争われることがあります。
(b)特に特許ライセンス契約の場合には、特許出願前の先行技術が後日判明することにより新規性・進歩性の欠如により、特許権が無効となるという特殊性があるため、既納特許料の返還が問題となり易いという事情があります。
(c)契約書に別段の定めがない場合には、この問題については次の事柄が論点となる可能性があります。
・実施許諾契約の締結が錯誤などの理由により無効となるか否か
・契約自体が無効とならないと仮定して、明示的或いは黙示的にしろ実施料を返還する旨の合意があったという合理的な意思解釈が可能か否か
・実施料を返還するという合理的な意思が存在しない場合に、不当利得返還請求が可能か否か
(d)裁判上でこれらの争点に攻防することは当事者にとって多大な負担となり、こうした争いを事前に回避し、或いは簡単に終結させるするためには、既納実施料の不返還条項を契約書に設けることが有効です。
②不返還条項の内容
(a)不返還条項の適用範囲をどのように設定するのかは当事者の合意により定めることです。
(b)ライセンサーの立場では、「既納実施料はいかなる理由であれ返還しない。」という条項にしておくことが望ましいと言えます。
過去の事例では、特許出願中のライセンス契約において、審査官が記載不備の拒絶理由通知を発し、これに対して特許出願人(ライセンサー)が請求の範囲を減縮して特許査定になったものの、補正の事実をライセンシーに知らせなかったことから、ライセンシーが既納の実施料に関して不当利得返還請求の主張をしたけれども、“いかなる理由”であれ返還しない旨の条項が契約書にあったため、裁判所がその請求を認めなかったという事例があります。
→特許出願中のライセンス契約のケーススタディ2
(c)ライセンシーの立場では、“いかなる理由”であれ既納実施料を返還しないという条項は、時に自分の意に反する結果になりかねません。
従って、こうした条項を含む契約に合意するのであれば、契約締結後の様々な局面を想定して自分の利益にならない行為を制限する条項を契約書に入れておくことが重要です。
(イ)例えば特許出願中のライセンス契約では
・特許出願の請求の範囲を補正するときには、ライセンシーに知らせること。
・特許出願の請求の範囲を補正することにより、許諾製品(ライセンシーに実施許諾された製品)が請求の範囲の技術的範囲から外れるときには、ライセンシーが契約を解除する権利を有すること。
・特許出願について所定期間内に出願審査請求をすること
・ライセンシーの同意なく特許出願を取り下げ、或いは放棄せず、特許権の取得に努めること。 →特許出願手続の遂行義務のケーススタディ
(ロ)特許権の設定登録後のラインセンス契約では次の通りです。
・特許権の維持に努めること(特許料を所定期間に納付することを含む)
(d)特許出願中のライセンス契約に関して請求の範囲の補正に関する項があるのに、特許後に関して、特許明細書の訂正に関する項がないのは、特許法127条において、“特許権者は、専用実施権者、質権者、許諾による通常実施権者等があるときには、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求できる。”と規定されているからです。
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