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@均等論の第1要件の意義
(a)均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論です。
均等論の要件が判例として確立した事件は、平成6年(オ)第1083号(ボールスプライン事件)です
(b)特許出願に対して設定登録が行われると、特許権が発生しますが、その特許発明の技術的範囲は、当該特許出願の願書に添付された特許請求の範囲の記載に基づいて定めるのが原則です。
従って、当該請求の範囲に記載した要件(例えばA+B+C)と異なる部分を含む製品・方法(例えばA+B+C’)については、特許発明の技術的範囲から除外されるというのが原則的な考え方です。
しかしながら、特許出願人が将来のあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、特許発明の構成要件の一部を別の事柄に置き換えた場合に、発明意欲の減退につながり、衡平の理念に反することが考えられます。
そうしたことから、特許発明と均等である発明の範囲に特許権の効力を認めるべきであるという議論が古くからありました。
前述の要件Cを置き換えても同一の作用・効果を奏するが故に置き換えが可能であり(置換可能性)、かつ置き換えることが容易であること(置換容易性)が認められれば、例外的に特許権の効力を拡張解釈しても良いのではないか、というのです。
ところが一つの要件を置換することが可能でありかつ容易であっても、置き換えることで発明全体として全く別個の技術的思想となってしまう場合があります。
例えばマジックファスナーとして、特許出願前から“鈎”と“鈎”とが結合するタイプ、“キノコ状片”と“キノコ状片”とが結合するタイプはそれぞれ知られていたが、前者は結合し易いが不意の剥離を生じ易い、後者は結合し難いという技術的課題が存在したところ、この課題を解決するために特許出願人が“鈎”と“鈎”とが結合するタイプに替えて“鈎”と“ループ”とが結合するタイプのファスナーを創作して出願し、特許権を取得したとします。この場合には、鈎を引っ掛けるループが創作の肝の部分であるのであって、これを他の要素に置き換えることを均等の範囲に含めると、特許権の効力範囲がどのような方向に拡張されるのかが、当業者にとって予測困難となります。
→均等論の第1要件のケーススタディ1
そこで均等論によって法的安定性が阻害されることを防ぐために、その第1要件として置換対象が本質的事項することがないことが挙げられています。
(b)均等論の第1要件は、第2要件(置換可能性)及び第3要件(置換容易)とともに均等論の積極的要件と言われ、これに対して均等論の第4要件(公知技術と同一でなくかつそれから容易推考でないこと)及び第5要件(意識的除外などの特別の事情がないこと)は消極的要件と言われることがあります。
積極的要件に関しては、均等論を認めるとすればこうした要件が必要であろうということは、ボールスプライン事件以前から、学説や判例において言われたいたことであり、同事件の意義は、積極的要件の他に消極的要件が満たされることが均等を認めるのに必要であることが明らかにされ、均等論の要件が出揃ったことにあると言われています。
A均等論の第1要件の内容
(a)ボールスプライン事件以後に本質的要件の意味に関して判示した事例として次のものがあります。
・「明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり」(平成8年(ワ)第8927号/徐放性ジクロフェナクナトリウム製剤事件)
・「特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分、言い換えれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。」(平成10年(ワ)第11453号/生海苔の異物分離除去装置事件)
(b)平成7年(ワ)第4251号・開き戸装置事件では、本質的要件の意義に関して同様の見解を示した上で、判断手法に関して次のように判示しました。
「本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるのかを実質的に探求して判断すべきである。」
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