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1323 特別な質問CS/特許出願/陪審説示 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Special interrogatoryのケーススタディ(陪審説示の) |
意味 |
Special
interrogatory(特別な質問)とは、当事者又は陪審に対して課される法的な質問であって、一般的な法律分野では課されない特別の質問を言います。
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内容 |
@Special interrogatoryの意義
(a)陪審説示は、陪審が評決を行うための手続に入る前に、判事が、事実認定をすべき事項や法律の判断の基準などを説明するものです。
陪審説示には、次のものがあります。
・一般的な説示(form interrogatories)
・特別説示(Special interrogatories)
(b)陪審説示は、評決の内容を直接左右するために、当事者から、判事による陪審説示が妥当ではないから評決も間違っている、という批判が度々生じます。
そうした事例を紹介します。
ASpecial interrogatoryの事例の内容
[事件の表示]725 F.2d 1350 (AMERICAN HOIST & DERRICK COMPANY v.SOWA &
SONS, INC.,)
[事件の種類]特許侵害事件(請求棄却)の控訴審
[発明の名称]大荷重用シャックル
[事件の経緯]
(1)American Hoist and Derrick Co.,
(Amhoist)は、大荷重用シャックルの発明を特許出願した発明者から特許権を譲り受け、そしてSowa & Sons, Inc
(Sowa)が当該特許権を侵害したとして損害賠償を求めて提訴した。
(2)Sowaは侵害を否定するとともに、特許の無効の宣言を求めるカウンタークレームを行った(→カウンタークレームとは)。
さらにSowaは、特許出願の過程で本来特許庁に提出されるべき先行技術が提出されなかったことにより、Amhoistはフロートをしており、その結果として自らがダメージを負ったことは反トラスト法違反にあたるとしてカウンタークレームを行った。
(3)陪審は、書面での質問書に答える形で特許発明の自明性及び特許出願人の先行技術の不提出によるフロードという2つの論点に関して被告Sowaに有利な評決を出した。
(4)地方裁判所の判事は、(イ)自明性に関しては評決通りの判決を出したが、(ロ)フロードに関しては実害の程度が小さいとして被告のアピールを認めなかった。
(5)
Amhoistは(イ)に関してアピール(控訴)し、Sowaは(ロ)に関してクロスアピールした(→クロスアピール(Cross-appeal)とは)。
※以下本稿では(イ)のみに関して解説します。
(6)
Amhoistの控訴理由の一つとして、自明性に関する説示の内容が間違っているとし、 →陪審説示(Jury
instruction)のケーススタディ
その控訴理由の中で地方裁判所は陪審に対して自明性についての特別説示をするべきであったと述べている。以下この点に関して説明する。
[地方裁判所が陪審に示したInterrogatories]
1.貴方は本件特許のクレーム3が次のいずれであると考えるか。 有効/無効
1.貴方が本件特許のクレーム3が無効であると考える場合には、その理由を次のうちから答えよ。
(a)クレーム3の発明の主題は、特許クレームの発明時において当業者にとって自明のものであった。
(b)原告は、クレーム3に関してPTO(米国特許商標庁)に対してフロード(詐欺)の行為を行った。
(b)James W.
Shahan(特許証上の発明者)は、クレーム3の発明者ではなく、特許庁の係官を欺いて特許を取得した。
(以下、他のクレームに関して繰返し)
[控訴裁判所の判断]
752 F.2d
1350判決要旨(Special Interrogatories)
(a)我々(控訴裁判所)は、地方裁判所が陪審に対して米国特許法第103条(非自明性/進歩性)に関する事実の質問(factual
inquiries)として特別の質問(Special
Interrogatories)の形で質問するべきであったというAmHoist(原告)の主張に同意する(Fed.R.Civ.P 47)。
もとより陪審説示のフォームは、トライアルコートの裁量の問題なのであるが、ある裁判所は次のように指摘している。
“この方法(Special
Interrogatories)を採用し損なうことは特許のケースにおいて、地方裁判所の判事がその裁量権を濫用したのではないと控訴裁判所を納得させる上で重い負担となる。”
例えばE.I. du Pont de Nemours & Co. v. Berkley and Co., 620 F.2d
1247を参照せよ。
Special
Interrogatoriesを用いることは、第5巡回裁判所が述べている通り、控訴人の主張を見直すこと(及びn.o.v判決を求める動議によりトライアルコートが評決を見直すこと)を容易とするものである(→n.o.v判決を求める動議とは)。
何故ならSpecial
Interrogatoriesを用いることは、判示と陪審との役割を分割するラインとの調和が図られる。こうした境界線は、特許事件の陪審裁判においてたびたび踏み越えられてしまう。
(b)本事件において、地方裁判所は、Sowaが本件特許が無効であることの立証責任を果たしたかどうかの判決理由(opinion)を示すにあたり、次のように指摘した。
“米国特許法第103条の自明性の論点は事実問題というよりは法律問題であるので、その最終的な判断は陪審よりもむしろ判事にある。”
“陪審の事実認定及び証拠に導かれて”地方裁判所は、それらのクレームが無効であると決定する。
(c)しかしながら、(我々には)陪審が認定した事実の中に地方裁判所をそうした判断に導く特別の事柄が見当たらない。
AmHoistのn.o.v判決を求める動議に応じて、より適切なスタンダードの下で陪審が事実認定した事項の中にも、やはり特別な事柄を見いだすことができない。
(d)さらに地方裁判所は、先行技術の範囲及び内容、当該分野における当業者のレベル、(特許出願人により)クレームされた発明と先行技術との差異については、自ら事実認定を行っている。
(e)我々(控訴裁判所)は、地方裁判所がその法律上の結論の根拠となる特定の証拠が存在していたことを自覚していたと推定する。
地方裁判所は法的結論のみを陪審に丸投げ(solicit
from)し、それと辻褄を合わせるように事実認定者として行動してはならない。
陪審がSowaに有利な判決を出した後、地方裁判所は、双方の当事者に対して、かれらが提案する事実認定・法律結論・判決の案を示すように命令した。
地方裁判所は、陪審の評決に合意した後に“この判決理由は、Fed. R. Civ. P.
52(a)に基づく事実認定及び法律結論を構成する、と述べた。”
地方裁判所は、陪審及び判示の役割をあべこべに(upside down)しているようである。
我々控訴裁判所は、事実認定者(Fact Finder)としての陪審の役割を取り上げる(usurp)するべきではないと警告する。
前述の規則52(a)は、“裁判所による事実認定”というタイトルが付与されているものの、陪審がいない場合又は諮問陪審(advisory
jury)しかいない場合にのみ適用されるべきものである。
[コメント]地方裁判所のInterrogatoriesを見ると、各特許が有効か無効かをまず聞き、無効であるとすればその理由を自明性の欠除・特許庁に対するフロードの存在・冒認出願という3つの選択肢から選ぶというだけです。具体的にどうして無効という結論に至ったのかはまるで判りません。幾らInterrogatoriesの様式の選択は地方裁判所の裁量とはいっても、控訴裁判所が地方裁判所の判決を覆したのは当然と考えられます。
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