パテントに関する専門用語
  

 No:  1451   

争点効/特許出願

 
体系 権利内容
用語

争点効

意味  争点効とは、我が国の講学上において、民事訴訟の争点に対して裁判所が判断を下した場合に生ずるとされる効力であり、その判断が同一の争点を主要な先決問題とする後の訴訟で当事者・裁判所を拘束することを言います。



内容 ①争点効の意義

(a)争点効の理論は、次の条件が満たされる場合に、前訴の判断が後訴における当事者・裁判所を拘束するというものです。

・民事訴訟(前訴)で当事者が主要な争点として争ったこと。

・前訴で裁判所が当該争点を審理し、判断を下したこと。

(b)争点効の理論は、日本の民事訴訟学者が、アメリカ法のコラテラル・エストッペル(Collateral estoppel)の理論を参考として提唱したものです。
コラテラル・エストッペル(2次的禁反言)とは

(c)争点効と類似する概念として、既判力があるが、既判力は、確定判決の主文に包含されるものに限って認められます(民事訴訟法第114条第1項)。
既判力とは

 これに対して、既判力は、判決理由に挙げられた争点に関する判断に拘束力を認めるものです。

(c)争点効は、学説上は支持する見解が多いのですが、条文上の根拠がないため、裁判所は、これを認めることに否定的です。

 登記手続請求事件において、先の訴訟の判決は、既判力類似の効力(争点効)を有しないとした最高裁判決があります(昭和43年(オ)第1210号)


②争点効の内容

(a)いわゆる職務発明の発明者である従業者甲が使用者乙に対して提起した2つの訴訟に関して争点効が争われた事例があります(昭和60年(ワ)第6253号)。

(b)乙は、甲から勤務規則に基づく対価を支払って当該職務発明について特許を受ける権利を譲り受け、この権利に基づいて日本国へ特許出願Aするとともに、この出願Aに基づくパリ条約優先権を主張して米国への特許出願Bを行い、前記出願Aが特許庁に係属している間に、前記特許出願Bに対して特許権が付与されました。

(c)前記勤務規則には、

 出願補償として、特許出願一件当たりの一時金が規定されているとともに、2カ国以上に特許出願した場合の補償は最初の1カ国に限る旨が定められており、

 登録補償に関しては、原則として日本国において登録番号の付与されたものについてだけ行うとともに、例外として日本国で登録されなかった場合には国外での権利の取得に対して補償を行う旨が

 それぞれ定められていました。

(d)甲は、前記勤務規則に定める補償は著しく低額であり、特許を受ける権利を譲渡した発明者は「相当の対価」を受ける権利を有する旨を定めた特許法第35条の規定に照らして無効であることなどを理由として、次の2つの訴訟を提起しました。

前訴…原告は特許を受ける権利を譲渡した対価として、米国特許権の1/2の持分権を有する旨の確認を求めること(→確認判決とは)。

後訴…特許品の総出荷価格の1/1000に相当する額を特許を受ける権利の譲渡に対する対価として支払うことを求めること。

(e)前訴において勤務規則が無効であるか否かは争点の一つとして原告により主張され、裁判所はこれを審理した上で原告の主張を退け、原告の敗訴が確定しました。

(f)原告は、後訴においても勤務規則が無効である旨を主張し、

 これに対して、被告は、原告の主張は既判力ないし争点効に抵触するものであって許されないと主張しました。

(g)これに対する裁判所の見解を次に引用します。

 「前訴と本訴とを比較すると、前訴は本件発明につき特許を受ける権利及び米国特許権の持分権確認を求めるものであるのに対し、本訴は右特許を受ける権利を譲渡した対価として一定額の金員の支払を求めるものであつて、訴訟物を異にし、前訴の判決の既判力は、前訴の判決の理由となつた前記規定の効力を確定するものではないし、判決理由中の判断に既判力類似の効力を認めることも相当ではないから、被告の前記主張は採用の限りではない。」



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