体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Promissory estoppel(約束的禁反言) |
意味 |
Promissory
estoppel(約束的禁反言)とは、英米の契約法上の概念であり、約束をした者(promisor)と約束された者(promisee)との間において、前者が無報酬の約束をすることにより、後者の立場が実質的に変更された場合には、後者は前者にその約束を守らせることができるという原則です。
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内容 |
@Promissory estoppel(約束的禁反言)の意義
(a)“Promissory estoppel”の原則は、次の条件が満たされるときに適用されます。
・約束をした者(promisor)と約束された者(promisee)との間に無報酬の約束があること。
・この約束に依拠して、前者(promisor)がある行動をすること、或いはある行動を取ることを我慢することが合理的に期待されること。
・こうした期待により、後者(promisee)の立場が実質的に変更されたこと。
(b)例えば戦争(第二次大戦の影響)により困窮して家賃の支払いが困難となった賃借人に対して大家が家賃を半額にする約束をした場合に、戦後、大家が家賃の差額分を請求することができないと判断された英国の事例があります(Central
London Property Trust Ltd v High Trees House Ltd [1947] KB 130)。
(c)契約法の基本的な考え方では、契約にはconsideration(約因)が必要であり、約因を欠いた合意は法的拘束力を生じない筈です。
→約因(Consideration)とは
(d)前述の家賃の減額の合意の事例でも、大家の側は、賃借人は合意に対して対価を支払っていないから、約因が存在せず、合意は無効である旨を主張しましたが、裁判所は、この主張を採用しませんでした。大家が減額の意思表示をすることにより、賃借人はこれを期待する合理的な理由を持ち、これにより、賃借人の立場に実質的の変更(家賃の額の変更)があったと解釈したのです。
(e)もっとも、約束を守らせることに“合理性”があることが必要です。前述の家賃の減額の例で言えば、戦争により家賃の支払いが困難になったことが約束の背景にあるのであり、戦争が終わった後もずっとその約束を守れということには無理があるでしょう。
(f)エストッペル(禁反言)の概念は、もともと “事実の表示”に関するものですが、 “Promissory
estoppel”の原則は、これを意思(約束)の表示に拡張した点に特長があります。
(g) “Promissory
estoppel”は衡平法(Equity)上の概念です。 →衡平法(equity)とは
APromissory estoppel(約束的禁反言)の内容
(a)特許出願人は、新規性・進歩性等の実体審査をパスしてパテントを付与されると、特許権者として他人との間で特許ライセンスを締結することができます。
ロイヤリティを受けることにより、研究開発や特許出願などに費やした投資を回収することができます。
(b)この特許ライセンスに対して、“Promissory estoppel”の適用の範囲が争われた英国の事例があります(Tool
Metal Manufacturing v Tungsten [1955] 1 WLR 761)。
(c)前述の家賃の事例と同じように戦争を背景とする事例です。
ライセンサーは、戦争中にライセンシーがロイヤリティを支払うことが困難になったためにその支払いの一部を免除しました。
裁判の争点は、戦争終結後においても使用料全額を請求できる状態に復帰できるかどうかです。
(d)裁判所は、本来の合意がpromissory
estoppelによりsuspendされていたに過ぎないから、一部免除合意は戦争中に拘束力を有し,終了後は元の立場に復帰できると判示しました。
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留意点 |
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