体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
preponderance of evidence |
意味 |
Preponderance of evidence(証拠の優越)とは、アメリカ合衆国の民事訴訟で物事を立証する際に要求される立証の程度(→standard of proof)の一つであり、ある事実が“ないというよりはある”と言えるかどうかで判断することです。
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内容 |
@アメリカ合衆国の民事訴訟では、当事者が立証責任を果たすためには、証明しようとする事実を裏付ける証拠を提出し(証拠提出責任)、さらに当該事実が真実であると陪審員若しくは裁判官を説得しなければなりません(説得責任)。どの程度の確からしさで証明するべきかという概念が証拠らしさです。
A証拠の優越(preponderance of evidence)は、アメリカ合衆国の民事訴訟で原則として採用されている証明度です。
例えば名誉棄損(libel and slander)や詐欺(fraud)のような特別な案件を除いて証拠優越の原則が適用されます。
B証拠の優越(preponderance of evidence)の原則は、”more-likely-than-not”原則、或いは50%超原則ともよばれ、その証明度は、例外的に適用される別の証明度より低いものです。
→clear and convincing proof(明白で説得力のある証明)
Cもっとも単に相手が提出した証拠に比べて説得力がある証拠を提出すればよいというものでもありません。少なくとも“真実でないというよりは真実らしい。”ということを裁判官や陪審員に納得させなければなりません。
D証拠の優越性は、証拠の量では判断されません。やたら証人の数を多くしても優越性が認められるわけでないのです。
E従って裁判所で特許発明が自明であるかを判断するときには、“真実でないというよりは真実らしい”という証明度の基準は適用されません。特許などの専門官庁であるUSPTOの判断を尊重したものといわれています。
Fもともと“preponderance of evidence”という概念は、裁判用語ですが、行政機関であるUSPTOの手続にも用いられます。USPTOによる特許出願の審査やReexmination(再審査)に用いられます。これら手続においては、証明度はpreponderance of evidenceで足りると解釈されています。
G証拠優越の原則において、ある事柄(事実)の確からしさが50%を超えるところを証明度とすることの前提条件は、ある事柄(特許の分野では例えば特許出願の審査又は再審査の対象に係る発明が当業者にとって自明であること)が真実であるのに真実でないと誤認するときのdisutility(不都合)と、当該事柄が事実でないのに事実であると誤認するときのdisutilityとが等しいと見積もることにあります。
刑事事件全般や民事訴訟の一部の案件(名誉棄損や詐欺)などでは、この前提条件が成立しないため、異なる証明度が採用されます。
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留意点 |
日本では、昭48(オ)517号(最高裁)において、「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」という判示があり、これにより「高度の蓋然性」が立証の程度の通説となっています。
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