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465 新規性との関係/特許出願の進歩性/選択発明/穴空き説 |
体系 |
権利内容 |
用語 |
穴空き説 |
意味 |
穴空き説とは、形式的に先行発明と利用関係が成立する場合であっても、先行発明中に発明未完成の部分で特許性がある発明が特許出願されたときには、両者は別発明と考えるべきであるという説をいいます。
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内容 |
@穴空き説は、選択発明として成立した場合には、常に利用発明となるか(後願権利者が無断で実施するときに権利侵害となるか)という観点から論じられます。
A穴空き説が論じられる契機となったのは、昭34(行ナ)13号「温血動物に対し毒性の少ない殺虫剤」事件です。
Bこの事件は、旧特許法における抗告審判(現在での拒絶査定不服審判)の審決取消訴訟に関するものであり、審決は、特許出願に係る発明は引用発明に対して新規性がないと判断しましたが、裁判所は、その判断を覆しました。
C各発明の関係は次の通りです。
{引用発明}
「一般式(省略)(式中Zは硫黄又は酸素、R1及びR2はアルキル基、アルアルキル基又はアサル基、Yは水素又はニトロ基以外の反応に対して不活性な他の置換基、mは3より大きくない整数を示す。)を有する殺虫剤として有用な有機燐酸エステル類」
{特許出願に係る発明}
「0―0―ヂメチル―0―4―ニトロ―3―クロルフエニル―チオフオスフエートを含有せしめたことを特徴とする温血動物に対し毒性の極めて少ない殺虫剤」
D一見すると、{殺虫剤}⊃{温血動物に対し毒性の極めて少ない殺虫剤}ですから、選択発明としても利用関係が成立することは免れないように見えます。
Eしかしながら、裁判所は、引用文献に「殺虫剤」と記載されているから殺虫剤として有用と認定した審決を下記のように批判しました。
・引用例記載の方法による生成物が、すべて有用な殺虫剤であるか否かは、何等の保証もない。
・これは第一に有機燐酸エステル類において、極めて構造の類似した化合物でも、有効なのと無効なのが存在することは、周知な事実であるからであり、(毒性に関しても同様である。)第二に引用例中に生成物の有効性(また実用に適する程度に達しているか否や等)の具体的数字的記載が全く欠けているからである。
・引用明細書の文字面にとらわれて、引例方法の生成物がすべて「有用」であるとするのは適切を欠いている。
・審決は「有用」という表現を、実際に障害を伴わずして使用でき相当の効果を奏する意味において使用しているものと思われる。そうでなければ、効果はあっても実際には障害が多くて使用し得ないか又は障害がなくても殺虫効果を挙げることができないかの、いずれかであるからである。このような性質、条件は、使用目的によつて定まるべきであるが、相当の試験研究を経ないでは決定できない。
・例えば、毒ガスを殺虫剤として使用する着想(或種のガスは、特殊の目的に使用されている。)は簡単であろうが、耕作地や野外において広く使用されることはない。人間及び有用鳥獣に極めて危険であるからである。
・従つて殺虫剤その他の農薬において温血動物に対する毒性の低い、又は無毒のものを発見することは、工業における極めて重要な要請であり、技術的課題であることはいうまでもない。
D裁判所は、判決文では「利用関係が成立するとしても同一発明に対する二重特許のおそれがあるものとは、この点からもいわれない。」というにとどまり、利用関係の成否に関しては断定することを回避しました。何故なら特許出願への拒絶審決の是非が問題だからです。
Eしかしながら、技術内容と参酌すると、先行発明を“穴空き”というのは控えめな表現であり、“穴だらけ”に近い印象を受けます。そもそも穴(殺虫剤として実用的でない部分)がどこにあるのか分からないのではどうしようもありません。そうなると、利用関係が否定される可能性はあると考えられます。
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