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484 進歩性(特許出願の要件)/客体的基準/失敗例 |
体系 |
実体法 |
用語 |
失敗例の引用文献適格性 |
意味 |
引用文献で他人が失敗した事例が進歩性を否定する引用例としての適格性があるかどうかをここで検討します。
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内容 |
@特許出願の実務でしばしば問題になるのが失敗例を、進歩性を否定する根拠の一部とすることの是非です。
A例えば或る物品Xにおいて課題Yを達成するために、他人が要素A+Bからなる発明を試みたが不都合Zを生じて、失敗例として評価された旨の記載が引用文献に記載されていたとします。
特許出願の請求の範囲には、要素A+B+Cからなる発明が記載されており、この構成により不都合Zを生ずることなく課題Yを達成できているとします。
こうした場合に特許文献に係る発明と引用発明とを対比して、課題Yの課題手段として発明A+Bを認定するとともに、不都合Zを回避する技術要素としてCを位置づけ、物品Xと同一技術分野から技術要素Cを開示する文献を探し出してきて、先の引用発明に適用して本件特許出願に係る発明に到達することが妥当でしょうか。
Bこの仮想事例の場合には、特許出願に係る発明の進歩性を否定する論理の途中で、特許出願の開示内容を手掛かりとして事後分析しているので、いわゆる後知恵(ハインドサイト)に該当することは明らかであるので、進歩性を否定する結論は誤りです。
→失敗例の引用文献適格性のケーススタディ
C一般には失敗は発明の母といいます。
Dしかしながら、他人の失敗は、何等かの原因があって失敗したのだから、その原因如何では容易想到性を否定する根拠と考えるべきです。そのまま発明の創作の基礎となる可能性は低いので、何らかの別の手掛かりがない限り、直ちに進歩性を否定する根拠とするべきではありません。
E進歩性を否定する手掛かりとなり得る事項は、例えば次の通りです。
(イ)要素A+Bから不都合Zを生じているために失敗したこと、その不都合を回避するために要素Cが有効であることを、当業者が容易に予測できたこと。
(ロ)他人の失敗例の後の、周辺技術の発達等により、失敗を回避することが当業者にとって容易となったこと。
F以上の考察は、失敗例が技術的な事情による場合であって、経済的な事情による場合はこの限りではありません。 →失敗例の引用文献適格性・その2(経済的な事情)
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留意点 |
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