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進歩性(特許出願の要件)/客体的基準/失敗例・経済的事情 |
体系 |
実体法 |
用語 |
失敗例の引用文献適格性のケーススタディ |
意味 |
特許出願に係る発明の進歩性の引用例適格性に欠ける事例(アダムスの電池)として外国の実例を挙げて解説します。として、という米国の事例を解説します。
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内容 |
@例えば特定色の発光ダイオードの研究開発のように、一つの成功例の裏に多数の失敗例が存在するケースが数多く存在します。“失敗は成功の母”という言葉がありますが、簡単に成功に結び付くのなら、既に先人が成功しているのが通常であり、そうした失敗例は、特許出願に係る発明の進歩性を判断するに当たり、特別の事情がない限り、進歩性を否定する根拠とするべきではありません。
→失敗例の引用文献適格性
A失敗例に基づいて特許出願を拒絶すること或いは特許を無効とすることの是非は、いわゆる後知恵(ハインドサイト)と結びついて古くから論じられてきました。例えば、383 U.S. 39[U.S. v Adams]では、アダムスという人物が発明した電池の進歩性が問題となりました。
(イ)この電池は、湿式電池の電極の素材として銀の代わりにマグネシウムを用いるものです。
(ロ)予めマグネシウムを水中に置くと、使用する前から勝手に反応してしまうので、液体容器に注水口を設けるのです。使用の直前に水を入れて一旦放電を始めたら最後まで使いきらなければならない特殊な電池で、軍用として商業的に成功したといいます。
(ハ)液体容器に口部を設けるのは当たり前ですし、マグネシウムが電極反応を生ずるポテンシャルを有する素材であることも当然知られていました。電極の候補となる元素は幾つもないのですから、当たり前のことです。
(ニ)しかしながら、先行技術は、マグネシウムを電極に用いることに関して理論的な可能性を認めつつ、現実的ではないという評価をしていました。
“As far as I am aware, however, these have all been unsuccessful, and it has been generally accepted that magnesium could not be commercially utilized as a primary cell electrode.”
(私が知る限りでは、これらは不成功であり、マグネシウムを一次セルの電極に使用することは商業的にあり得ないと一般に受け入れられている)
(ホ)アダムスは自らの発明に特許出願をしてパテントを取得し、侵害訴訟で進歩性を巡って争いになったときに被告側が上記先行技術を引用しました。この先行技術は、マグネシウムを電極に使用する理論上の可能性を認めていましたが、全体としては、マグネシウムの使用を不成功と評価していたため、裁判所は、進歩性を肯定しました。
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