パテントに関する専門用語
  

 No:  624   

特許出願の要件/先願主義・先願権2/拡大された先願の地位

 
体系 実体法
用語

放棄された特許出願及び拒絶が確定した特許出願に先願権が認められない理由

意味  先願権とは、先願主義の下で特許出願人が自己の出願の請求の範囲について、その特許出願の日の後にされた特許出願を排除する権利をいいますが(特許法第39条第1項)、この権利は、常に特許出願人に認められるものではありません。ここでは先願権が認められない特許出願及びその理由に関して解説します。


内容 ①先願権が認められない特許出願

(a)現在の法律では、放棄された特許出願及び拒絶査定・審決が確定した特許出願に関しては、先願権が認められていません。

(b)“現在の法律では”という理由は、平成10年の改正までは、これらの特許出願にも先願権を認めていたからです。その当時は、仮に特許出願が審査の結果として拒絶されたり、或いは特許出願が放棄されても、先願権は残るので、後願の権利化を排除することができ、これは先願者の保護に適うものと解釈されました。

(c)しかしながら、そもそもダブルパテント排除の原則からは、特許出願が拒絶され、或いは放棄された場合に先願権を認める必要がないことに加えて、こうした取扱いにより、以下に述べる通り、一定の不都合が生じたため、先願権を認めないように法律改正されました。

②拒絶査定・審決が確定された特許出願に関して先願権が認められない理由

(a)公開後に拒絶査定・審決が確定した特許出願とのバランスを欠くこと。

(イ)特許出願の日から1年6月を経過した特許出願については出願公開が行われ、拡大された先願の地位が発生します(特許法第29条の2)。 

 この場合には、先願の地位は発生しますが、その代わりに公開された発明は他人による研究対象となり、新たな技術開発の礎となります。

(ロ)これに対して、出願公開前に特許出願が拒絶査定・審決が確定された場合には、特許出願人は、何も社会に貢献することなく、先願の地位を取得することになり、大きくバランスを欠くことになります。

(ハ)なお、従来は、特許出願の審査の遅延が非常に深刻であり、出願公開前に特許出願が拒絶されるという想定は現実できではありませんでした。今日ではそうした審査の遅延はかなり解消しており、かつ早期審査の制度を活用することにより、特許出願の日から半年以内に拒絶理由通知がくることも通常となりましたので、それに対する対策を打つ必要が生じました。

(b)第三者が同じ発明に想い至らず、技術が秘密にできれば、実質上その発明を無期限に独占できること

(イ)もともと技術開発の成果に対する対応として、公開を前提として特許出願をして独占排他権を取得する方法と、秘密にすることを前提にノウハウとして保持する方法とがあります。

(ロ)後者は、例えば物の製造方法などであって、実施をしても(結果物である物を第三者が調べても)発明の内容が分からない場合に適用されます。

(ハ)特許権の保護期間は有限(期間の終期が特許出願の日から20年)ですが、ノウハウとして秘密にした技術は、たまたま同じ内容を想起した人間が特許出願をしない限り、いつまでも事実上の独占が可能です。その代わりに、発明を公開して社会に貢献していないので、特許法上の保護(先願権など)はありません。

(ニ)仮に物の製造方法などの発明に関する特許出願が出願公開前に拒絶され、処分が確定した場合に、その時点からノウハウとして保持する方法に切り替えたとしたら、平成10年改正前の法律では、社会に公開していないノウハウに先願権を認めることになり、公平ではないと考えられます。

③放棄された特許出願に先願権が認められない理由 

(イ)基本的には、出願公開前に拒絶査定等が確定した特許出願と同じですが、拒絶査定等の場合は特許出願人が意図ぜずに結果としてそういう状況になるのに対して、放棄の場合には特許出願人の意思によりその状況が作られるのであり、先願権を認める弊害はより大きいと考えられます。

(ロ)例え予め出願公開前に放棄するつもりで特許出願をすると、労ぜずに技術をノウハウとして秘密にしながら、技術情報に対する保険として先願権をも確保できることになります。そうしたことは先願主義の趣旨に反し、公平性を欠きます。


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