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632 特許出願の経過から生ずるエストッペル/禁反言 |
体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
特許出願の経過から生ずるエストッペルとは(Estoppel) |
意味 |
エストッペル(Estoppel)とは、一般に過去の行為と矛盾する行為を禁止する法理をいいますが、ここでは特許出願の経過から生ずる禁反言(Prosecution history Estoppel)を説明します。
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内容 |
@エストッペル(禁反言)の意義
(a)エストッペルの法理は、フェアプレーの原則の現れといえます。
(b)特に米国では、特許出願人が市場の動向を見据えて分割出願や継続出願、一部継続出願を繰り返して幅広い権利の取得を目指す傾向にあります。こうした場合に、各特許出願毎に相矛盾することを特許出願人が主張できるとなると、著しく不公正を生ずることになります。そこでエストッペル(禁反言)の法理でこうした行為を規制しているのです。
特許に関するエストッペルは、特に特許出願の経緯履歴(prosecution history)に関係するためにprosecution historyエストッペルということがあります。
(c)権利解釈を制限するエストッペル(Estoppel)は、権利範囲を文言通りの範囲から拡張しようとする均等論(doctrine of equivalents)と対立する概念であり、均等論の行き過ぎを規制するという点で重要な意味を有します。
Aエストッペル(禁反言)の種類
(a)同一事件の禁反言(権利が付与された特許出願の審査経過から生じた禁反言)
特許権の基礎となった特許出願の経緯は、その特許権の技術内容の解釈に影響する可能性があります。フェスト判決によれば、最高裁判所は次のように述べています。
「主題を減縮する補正である限り,その補正が,先行技術回避を目的とするか,特許出願の形式に関する第112条への適合を目的とするかを問わず,禁反言が生ずるが,補正はしたがそれが純粋に表面的なものである場合には,その補正によって特許範囲が減縮されず,禁反言は生じない」
Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co, Ltd., 535 U.S.. 722
(b)親出願である特許出願の出願経過から生じた禁反言
一つの特許出願Aから継続出願である特許出願B及び一部継続出願である特許出願Cが行われ、出願B,Cに係る特許権の解釈において、それぞれの親出願である特許出願Aの審査経過が参酌された事例があります(Jonsson事件)。
Jonsson v. The Stanley Works, 903 F.2d 812, 817-818
(c)兄弟関係にある特許出願の出願経過から生じた禁反言
一つの特許出願Aから継続出願である二つの特許出願B及び特許出願Cが行われ、いわば兄弟関係にある2つの出願のうち兄出願である特許出願Bの出願経過が弟出願である特許出願Cに係る特許権の解釈に参酌された事例があります(Elkay事件)。
Elkay Mfg. Co. v. Ebco Mfg. Co., 192 F.3d 973
(d)米国特許出願に対応する外国特許出願の出願の経緯から生じた禁反言
パリ条約優先権などを主張して同一の発明が複数の国に特許出願される場合があります。各国毎に特許要件が異なるという事情があるため、外国での特許出願の事情は、米国内での親子・兄弟関係にある特許出願同士のそれとは直ちに同列に語ることはできません。しかしながら、米国代理人が外国特許出願の代理人に出した指示が“関連する証拠”を含むのであれば、そのことは米国での特許の禁反言の審理に考慮されるという判断が示された事例があります(Caterpillar事件)。
→Caterpillar Tractor Co. v. Berco, S.p.A., 714 F.2d 1110
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