パテントに関する専門用語
  

 No:  656   

均等物による置換1/進歩性審査基準/特許出願の要件/阻害要因

 
体系 実体法
用語

均等物による置換のケーススタディ2

意味  均等物による置換は、日本の進歩性審査基準によれば、通常の創作能力の発揮であり、それが唯一の相違点であるときには、他に進歩性を推認させる事情(阻害要因等)がない限り、進歩性は認められないとされています。ここでは国外の事件から、均等物による置換を考えるのに参考となる事例を挙げます。


内容 ①事例1

[事件番号]
642 F.2d 413

[判決言い渡し日]
1981年2月12日

[発明の名称]
デジタルカウンターで作動するペーサー

[主要論点]
TSMテストのSuggestion(示唆)の解釈

[判例の要点]
 非自明性のテストでは、クレームされた発明が先行技術に明示的に示唆することを要しません。また複数の引用例の組み合わせが自明か否かを判断する際には、一つの文献に開示された装置が他の文献の装置に物理的に挿入可能である必要はありません。

[置換の内容]
心臓ペーサのアナログ・タイミング回路を医療研究用の心臓刺激装置のデジタル・タイミング回路と置き換えること。

[裁判所の判断]
(a)引用例3の哺乳類の心臓の心房伝達システムの研究に使用される心臓刺激装置は、引用例1の心臓ペーサと類似の技術であり、引用例としての適格性があります。

(b)引用例1の心臓ペーサのアナログ・タイミング回路デジタル式を、引用例3の装置のデジタル・タイミング回路と置き換えることは当業者にとって自明です。機能的に均等なものの置換であり、かつ、置換することの動機(動作の正確性)も先行技術に記載されているからです。

(c)引用例3は、類似の環境におけるデジタル・タイミングのみしか教示していませんが、先行技術の開示(示唆)は明示的なものに限りません。また引用例3のデジタル・タイミング回路を丸ごと引用例1に組み込まなくても、自明性を否定する理由にはなりません。

②事例2

[事件番号]
354 F.2d 377

[判決言い渡し日]
 1966年1月6日

[発明の名称]
マルチターミナル・スタッド

[主要論点]
TSMテストのSuggestion(示唆)等の解釈

[判例の要点]
 先行技術の開示(教示や示唆)は、特許出願の発明の技術的要素を明示するものに限りません。

 また先行技術の組み合わせの自明性を論ずるときには、一方の引用文献の物に他方の引用文献の技術要素がそのまま挿入(physically insert)できることを要しません。

[置換の内容]
ターミナル孔付きの筒体とこれに挿入されるスタッドとの連結方式として、ネジ穴及びネジ棒を、ネジ式でないボルト・ネット形式に置換すること。

[判決の要旨]
(a)特許出願人が指摘する通り、引用文献1のスタッドの環状のディスクの周方向に設けられた複数のターミナル孔が等電位線に沿って配置されている旨の明示の説明はありませんが、特許出願人の明細書には、等電位線に沿って各孔を配置するとは、スタッドの軸と同心状の円周上に各孔の中心にあるように構成することである旨の説明があり、その通りの構成が引用文献1の斜視図に現れているから、ターミナル孔が等電位線上にあるという技術要素は引用文献1に開示(或いは示唆)されているとみることができます。

(b)引用文献1のスタッドに引用文献2のスタッドのカウンターボア(反対側開口)を組み合わせるに際して、一方のスタッドの孔はネジ孔であり、他方の孔はネジ機構を有しないことは、何ら組み合わせの有効性を損なうものではありません。組み合わせの論理付けを行うときに、一方の装置の部分が他方の装置にそのまま組み込まれることまで要するものではないからです。

[コメント]
 2つの事例に共通することは、置換されるもの(特許出願の発明の構成要件)と置換するもの(先行技術)とが特許出願の時点において何れも広く知れ渡っていることです。それほど知られて技術でなく、当該技術不利益やこれを回避する手段がないときには、特許出願人が当該不利益を主張することには意味があります。
均等物による置換とは(進歩性)


留意点

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