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@ボールスプライン事件の意義
日本は成文法主義を採り、特許法第70条第1項は、「特許発明の技術的な範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めなければならない。」と規定されています。そのため、日本の司法は均等論を認めることに消極的でしたが、国際的な動向もあって少しずつそれを認める方向になりました。本事件は均等論の条件が提示された事案です。
Aボールスプライン事件の内容
[事件の表示]平成6年(オ)第1083号
[論点]均等論が適用されるためには置換可能性・置換容易性が満たされれば足りるか。
[発明の要旨(特許請求の範囲)]
(A)円筒内壁に断面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやや深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝を軸方向に交互に形成し、その両端部に前記深溝と同一深さの円周方向溝を形成した外筒と、
(B)外筒内壁の軸方向に形成したトルク伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝に一致して薄肉部と厚肉部を形成し、さらに前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形成した無負荷ボール溝ヘボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持器と、
(C)該保持器と前記外筒間に組み込まれたボールとによって形成される複数個の凹部間に一致すべく複数個の凸部を軸方向に形成したスプラインシャフトを、
(D)嵌挿組み立てて構成される
(E)ことを特徴とする無限摺動用ボールスプライン軸受。
[原審の判断]
上告人製品は、解決すべき技術的課題、その基礎となる技術的思想及びこれに基づく各構成により奏せられる効果において本件発明と変わるところがなく、構成要件Bの保持器の構成について本件発明と上告人製品との間に置換可能性及び特許出願時における置換容易性が認められ、また、構成要件Aの「断面U字状」、「円周方向溝」と上告人製品の「断面半円状」、「円筒状部分7」の相違も、上告人製品について特段の技術的意義が認められないから、上告人製品は本件発明の技術的範囲に属すると認めるのが相当である。
[判断基準(均等論の解釈)] (イ).対象製品等との相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと(均等論の第1要件)。
(ロ)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること(均等論の第2要件)。
(ハ)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたこと(均等論の第3要件)。
(ニ)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一、または公知技術から容易に推考できたものではないこと(均等論の第4要件)。
(ホ)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと(均等論の第5要件)。
[判断基準の本件への当てはめ]
(a)負荷ボールを円周方向に循環させる点及びスプラインシャスとの凸部をトルク伝達用負荷ボール案内溝の負荷ボールが左右から挟み込む複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用している点に関しては、これらの技術をボールスプライン軸受に用いることは、本件発明の特許出願前に公知であったことが窺われる。
(b)そうすると無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受の技術が本件発明の特許出願前に公知であったとすれば、原審の認定では保持器の構成はボールの接触構造によって根本的に異なるものではないというのであるから、上告人製品は、公知の無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受に公知の分割構造の保持器を組み合わせたものにすぎないということになる。
(c)そして、この組合せに想到することが本件発明の開示を待たずに当業者において容易にできたものであれば、上告人製品は、本件発明の特許出願前における公知技術から特許出願時に容易に推考できたということになるから、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等ということはできず、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
(d)原審は、専ら右部分と上告人製品の構成との間に置換可能性及び置換容易性が認められるかどうかという点について検討するのみであって、上告人製品と本件発明の特許出願時における公知技術との間の関係について何ら検討することなく、直ちに均等と判断したものであるから、特許法の解釈適用を誤ったものというほかはない。
[外国での取り扱い] 米国ではフェスト判決によってDoctrine of
Equiverent(均等論)の条件を示されました。 →フェスト判決とは
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