体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Doctrine of Equivalents(均等論)とEspettol(禁反言)のケーススタディ3 |
意味 |
均等論は、クレームされた発明と非実質的な差異がない発明について所定の条件(均等の条件)を備えることを条件に特許権の保護を認めるものですが、これと相反する考え方として、ファイルラッパー・エスペットル(包袋禁反言)があります。特許出願の経緯等で現れた特許出願人の意思表示と矛盾する権利の主張を許さないという考え方です。
米国の裁判史上において、この2つの考え方に対する解釈は、長い混乱の時期(→均等論と禁反言のケーススタディ2)を経て、最終的に次第に収束していきます。ここでは混乱が収束に向かう時期の代表的な判決をケーススタディします。
|
内容 |
①事例5-ワーナー・ジェンキンソン事件〔No. 95-728 (520 U.S.
17)(1997)〕
〔特許の対象〕 染料の濾過を含む純化方法であって、染料を多孔性の膜にpH6.0~9.0の範囲において透過させるもの。
〔均等論の対象となった要件〕 pH6.0~9.0の範囲において透過させる。
〔被疑製品の対応部分〕
pH5.0において透過させる。
〔特許出願の経緯〕
クレーム中で問題となった数値範囲pH6.0~9.0は、特許出願の審査において補正により追加されたものである。特許出願人は、拒絶理由の根拠となった先行技術を回避するために前記数値範囲の上限値であるpH9.0を設定した。しかしながら、特許出願人は、下限値であるpH6.0を設定した理由に関しては言及していない。
〔均等論の成否〕
最高裁判所は、「特許性に関する実質的な理由」によって発明の一部を減縮補正した(放棄した)場合、一度放棄した権利範囲について再度権利の主張をすることはできないとしつつ、下限pH6.0についての補正は特許性に関する実質的な理由に基づくものではないため、禁反言が働くことを認めず、均等論の適用を認めた。
〔コメント〕
本判決によれば、特許出願の審査の過程で明細書やクレームを補正したときでも、特許出願人が補正をした理由が“特許性に関する実質的な理由”に関するものではないと立証される場合には、禁反言は生じません。そうした立証をすることができない場合には、禁反言が生じるものと推定されます。
②事例6-フェスト事件〔234 F. 3d 558(2000)/535 U.S. 722 (2002)〕
〔特許の対象〕 2つのシーリングリングと磁化可能なスリープとを備えた磁気シリンダー。
〔均等論の対象となった要件1〕 2つのシーリングリング
〔被疑製品の対応部分1〕 1個のシーリングリング
〔均等論の対象となった要件2〕 磁化可能なスリープ
〔被疑製品の対応部分2〕 磁化不可能なスリープ
〔特許出願の経緯〕
「2個のシーリングリング」および「磁化可能なスリープ」は、特許出願人が補正により限定した事項である。
〔均等論の成否〕
CAFCにおける大法廷判決ではコンプリートバーを採用して、均等論の主張を退けた。また特許出願人が補正をした理由が非自明性(進歩性)の欠如による拒絶理由を回避する場合だけでなく、記載不備による場合にも、禁反言の適用が働く旨が判示された。
しかしながら、最高裁判所は、CAFCの判決を棄却して、フレキシブル・バーを採用した。具体的には、特許出願人が権利を受けるために減縮補正をしたときには、その減縮した要素に限り禁反言が生ずると推定するが、特許権者がその推定に反証することに成功すれば禁反言を免れる、減縮した要素以外に関しては通常通りに均等論が適用されるというものである。
〔コメント〕
最高裁判所が禁反言の推定の反証を認めることにより、均等論は特許の実務において重要性を維持し続けることとなりました。特許出願人としては補正をする理由を証明できるようにしておく必要がありますが、事前に準備しておけば十分対処できると考えられます。
|
留意点 |
|