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①輸入特許の意義
(a)中世の特許は王室特権として存在し、産業の振興に熱心な王制の下では、輸入特許の制度が存在しました。
これは、今日のように発明者(又はその承継人)の特許出願に対して特許権を付与するという形をとらずに、外国から新しい技術を導入して殖産をした者に独占排他権を与えるというものです。
「新しい技術」と言っても、自国単位でかつ未だ事業として新しいというだけであり、現在の新規性や進歩性とは意味合いを異にします。
新しい技術の導入には職人がその技術を習得する時間が必要であったため、輸入特許もそれなりの期間(例えば数年間)に亘って認められていたようです。
②輸入特許の内容
具体的には、輸入特許は、外国から優れた技術を有する職人を自国に集めて優遇するための手段として出発しました。こうした特許制度をもっていたのが、ヴェネツィアです。この制度は、やがてイギリス・フランス・プロシアなどの欧州各国に広がりました。当時の世界では国を維持するために国力増強が重要課題だったからです。
③輸入特許との決別
(a)フランスでは、1791年に近代的な特許法が始まりました。新しいフランスの特許法は、特許権を発明者の自然権と捉えていました。この考え方は、輸入特許とは馴染みません。そのため、フランスでは、1844年の改正で輸入特許は廃止されました。
→自然権理論とは
(b)ほぼ同時期にアメリカでも特許制度が制定されました。アメリカの制度は、“科学の発展及び有用な技術の促進”(合衆国憲法)を目指すものであり、そのためのインセンティブとして特許出願人(発明家)に特許を与えるという仕組みをとりました。
→インセンティブ理論とは
アメリカの特許制度の原案では、輸入特許の規定が含まれていたといいますが、それをすると“特許出願人=発明者”という原則に例外ができてしまうことになります。最終的にアメリカの特許制度は輸入特許を導入しませんでした。
④国際法での取り扱い
工業所有権の保護に関するパリ条約では、特許独立の原則(同盟国国民が各同盟国において特許出願した特許が、同一の発明において他の国で取得した特許から独立であるとする原則)を定めています(4条の2)。
同じ発明について優先権を利用して各国へ特許出願をして複数の特許(特許ファミリー)を得た者が、主として自国の特許の無効を理由として他国の特許を無効とされるという不都合を避けるためですが、この原則でいう「特許」には“輸入特許”は含まれません。
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