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 パテントに関する専門用語
  

 No:  876   

公定力CS1/特許出願/キルビー判決/特許侵害

 
体系 行政行為
用語

公定力のケーススタディ1

意味  公定力とは、行政処分の性質の一つであって、たとえ当該行為が違法に成立したものであっても、無効と認められるものでない限り、行政機関や裁判所により取り消されるまでは一応有効なものとして扱われるという性質です。ここでは特許侵害との関係で公定力が参酌された事例を紹介します。


内容 @事例1

事件番号:平成六年(ネ)第三三七五号(東京高裁)

事件の種類:特許権侵害差止等請求控訴事件

事件の概要:発明の全部が特許出願時に公知(新規性なし)の場合の権利濫用の抗弁

発明の名称:混水精米法

〔当事者(控訴人)の主張〕

 特許発明が特許出願前全部公知であり、無効であることが明白であるから、権利の行使を認めることは不当である。

〔裁判所の判断〕

(イ)特許侵害事件での無効の抗弁に対する原則的な考え方として

「特許権は、特許庁が出願人に対し特許権を付与すべきものとする行政処分である特許査定に基づき設定登録されることにより効力を生じるものであり、

 行政処分はそれが当該行政庁によって取消、撤回されない限り適法として扱われるという意味でいわゆる公定力を有するものであること、

 違法な行政処分によって侵害された国民の権利ないし法的利益を救済するための制度として抗告訴訟制度が設けられており、抗告訴訟を管轄する裁判所により当該行政処分の適否が審査されること、

 特許権に無効原因があるときは、特許法一二三条により特許庁に対しその特許を無効にすることについて審判を請求することができ、特許庁が右請求についてした審決に対しては同法一七八条に基づく東京高等裁判所に取消訴訟を提起することができ、これにより特許権の得喪については専門技術官庁である特許庁に第一次的判断を委ねるとともに、抗告訴訟により裁判所の判断を受けることを保障し、もって特許庁と裁判所との権限配分を図っていること

 等に照らすと、このような手続とは別個に特許権侵害訴訟において特許権無効を主張立証することを許容し、特許権無効を理由に直ちにその請求を棄却することは許されない、といおわざるを得ない。」とした上で、

(ロ)例外的に無効の抗弁を認めることの可能性に関して

 「もっとも、当該特許権に係る技術的思想がその出願前全部公知であって、特許すべきものでないことが明白であるにも拘らず、かかる特許権に基づいて対象物件について特許権侵害を理由に差し止めあるいは損害賠償を請求することは、権利の濫用として許されない場合があると考えられるから、本件の場合、まず本発明が控訴人主張の乙第八七号証発明によりその出願前全部公知であったかについて検討する。」とし、

(ハ)具体的に検討し、結局「本発明が本出願前全部公知であったことを前提とする控訴人の主張はその前提を欠き、採用することができない。」と判示しました。

 〔コメント〕

 この判決が出された時点(キルビー判決以前)では、裁判所は特許の無効理由の有無に立ち入ることで特許権の濫用を判断することを避けていましたが、その理由は必ずしも特許処分の公定力にあるのではなく、専門技術官庁としての特許庁の存在を尊重していたことが判ります。そして裁判所は、特別の事情(特許出願前に発明の要件全部が公知であるなど)があるときに特許無効の理由の存在により特許権の行使を権利の濫用と考えることの余地を残しつつ、本件訴訟ではそうするべきではないと判断しました。

 特許の濫用の抗弁は、前述のように特許出願時に発明の要件の全部が公知のような場合を想定していましたが、次第に複雑な事案にも論じられるようになります。

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A事例2

事件番号:平成10年(オ)第364号(最高裁)・キルビー判決

事件の種類:債務不存在確認請求事件

事件の概要:

甲は、「半導体装置」と称する発明について

一九五九年二月六日及び同年二月一二日の各特許出願U1,U2に基づく優先権を主張して

昭和三五年二月六日に特願昭三五―三七四五号(特許出願N1)を行い、

 昭和三九年一月三〇日にN1からの分割出願として特願昭三九―四六八九号(特許出願N2)を行い、

 更に、昭和四六年一二月二一日にN2から分割された特許出願N3に対して

 本件特許(第三二〇二七五号)を付与されました。

 甲は、乙に対して製品の製造・販売の禁止の仮処分を申し立て、これに対して、乙は、当該特許に対して無効審判を請求するとともに債権不存在確認訴訟を提起しました。

 なお、原々出願である特許出願N1に対しては特許がされましたが、原出願である特許出願N2については、先行技術に対して進歩性を欠如しているという理由で拒絶査定が確定しています。

〔原裁判所の判断〕

 原判決は、本件特許が、原出願である、拒絶査定が画定した特許出願N2の発明(原発明)と実質的に同一だから、特許出願N3は分割出願として不適当であると判断しました。

  具体的には、

 「原発明と本件発明とは、要件(a)中の回路素子の『離間』の点と要件(e)の『平面状配置』の点を除き、実質的に一致ないし重複する」とし、原々出願(特許出願1)などを参酌した上で実質的に同一と判断したのです。
→キルビー判決のケーススタディ

 そして分割出願としての遡及効が認められない結果として、

・同一の発明につき原発明に後れて出願したものであり、本件特許は、特許法三九条一項の規定により拒絶されるべき出願に基づくものとして、無効とされる蓋然性が極めて高い、

・また先行技術に対して進歩性を欠くことを理由として拒絶査定が確定している特許出願N2に係る原発明と実質的に同一であるから、本件特許には、この点においても無効理由が内在する、

 このような無効とされる蓋然性が極めて高い本件特許権に基づき第三者に対し権利を行使することは、権利の濫用として許されるべきことではないと判断したのです。

 〔当事者甲の主張〕

 原判決には、次の観点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背、審理不尽、理由不備がある。

〈上告理由1〉特許侵害事件の判断にあたっては、(公定力等の観点から)特許権を有効なものとみなして対象物件が技術的範囲に属するか否かを判断すべきであるにもかかわらず原判決は実質上、本件特許権を無効とする判断を行っていること。

 具体的には、事例1に掲げた先例を示して、

 特許が公定力を有することや専門技術官庁である特許庁による特許無効審判が存在することに鑑みると、侵害審理裁判所が特許権の有効・無効について判断することは原則的に許されない、

 例外的に特許出願時に発明の要件全部が公知であるような場合(新規性欠如)に権利の行使を制限することがあるにしても、原出願の発明との同一性の結論を導くために出願分割の基礎となった特許出願N1〜N2及び米国特許出願の明細書まで参酌することを要した本事案は例外的事由に当てはまらない、

 と特許権者は主張しました。

〈上告理由2〉分割出願の適否の判断にあたり、既に拒絶査定の確定した特許出願N2と本件発明との同一性を問題としたこと

〈上告理由3〉被控訴人の主張しない本件特許権の満了による消滅及び権利濫用の抗弁を認定しており、弁論主義に違反すること。

〈上告理由4〉原判決には、本件発明と原発明との比較にあたり、特許請求の範囲の記載にもとづかず、特許出願N1の当初明細書・公告時明細書・補正明細書、特許出願N2の当初明細書・米国特許出願Uの明細書の記載を参酌した点でいわゆるリパーゼ判決に違背すること。

〈上告理由5〉本件発明の「被着」の解釈にあたり、米国法及び米国判決の解釈を誤り、その結果、本件発明の「被着」には「密着」する技術手段は含まないと認定したこと。

〔最高裁の判断〕

 原審の確定した事実関係は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない

〔コメント〕

 特許権者側は、「特許権等は、無効審判手続によってのみ無効とされるものであり、無効審判の審決の確定を待たずに特許等の無効を主張することは許されないというのが通説及び実務である」(司法研修所編「工業所有権関係民事事件の処理に関する諸問題」)などの資料を証拠として提出して原判決を覆そうとしますが、通説は時代とともに変化していくものであり、裁判所の判断に対する影響力は小さいと考えられます。こうした資料を出すまでもなく、専門技術庁である特許庁による無効審判の設けられている以上、審判のの判断を踏まえて裁判官が判決を下すというシステムが良いのは当たり前です。しかしながら、特許出願の分割が幾度も繰り返されるという事態に直面すると、通説通りの対応では具体的妥当性を欠くと裁判所は考えたのでしょう。

 特許出願に対する審決などの処分に対する公定力に関しては下記を参照して下さい。
公定力のケーススタディ2


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