[事件の概要] |
@本件特許出願の経緯 Gerald McLaughlinは、鉄道用のカーローディング構造のアレンジメントについて特許出願(U.S.Serial No.566,701)をしましたが、4つの先行技術から自明である(進歩性を欠く)ことを理由として審査官により拒絶され、審判部も当該拒絶を支持する審決をしたため、本件訴訟を提起しました。 A本件特許出願の請求の範囲 (a)クレーム13は次の通りです。 (車体の前後方向に)長くかつ壁で囲まれており、荷物を仕分けするための車幅方向のバルクヘッド(隔壁)が車幅全体に亘って設けられている、レールウェイカー用の改良されたカーローディング構造であって、 車体の長手方向の2つのサイドウォールとサイドフィリングパネルとを含み、 各サイドウォールは、その両端の間に戸口を設けることにより、ロングウォールセクションとショートウォールとに分割されており、 一方のサイドウォールの戸口が他方のサイドウォールのロングウォールセクションと向かい合うように2つの戸口がそれぞれ車体の異なる橋の側にずらして設けられており、 サイドフィリングパネルは、それぞれ各ロングウォールセクションの内面に、当該ロングウォールセクションの内面に、当該ロングウォールセクションに対して遠ざかったり近づいたりすることができるように設けられており、 車幅方向に調整可能なサイドフィラーパネルと車体の長手方向に調整可能なバルクヘッドとが協働して、車体の一端の貨物を車体の中央へと取り込む(enclose)ことができるようにしたことを特徴とする、カーローディング構造。 (b)クレーム14は、前記のクレーム13に次の要件が加わります。 パレットに載置された貨物を運ぶのに適した車体とし、サイドウォールの長さが各パレットの寸法の全部の倍数(whole multiples)であること。 (c)クレーム15は、前記のクレーム14に次の要件が加わります。 壁の反対側戸口の部分が各パレットの寸法の一部の倍数(plural multiple)と実質的に等しく、残りの戸口はパレットの寸法よりも狭い。 B本件特許出願の発明の概要は次の通りです。 (a)発明の対象 本件クレームの発明の主題は、ユニット化されたカーゴを運ぶのに適したレールロード用ボックスカーの構造のアレンジメントを改良することである。 特許出願人が定めた定義によれば、“ユニット化されたカーゴ”とは、ステーション同士の間でフォークリフトのような装置を用いて移動することができるようにアレンジされ、特定のサイズのカーゴの取り扱いに適した、載置されたカーゴをいう。 (b)技術背景 特許出願人が開示するところによれば、従来のアレンジ面とでは、戸口が車体の両サイドのセンターに設けられており、従って車体のセンターにパレット(品物を収納した箱状のもの)を固定して保持することに適していなかった。戸口にはサイドフィラー(パレットをサイド方向、すなわち車幅方向に充填するための治具)を取り付けることができず、荷物の積み降ろし(loading and unloading)をすることに不便であった。 (c)発明の目的 特許出願人は、同じ総面積の車両で従来よりも大きなボリュームの貨物を受け入れることができるアレンジメントを提案している。 (d)発明の構成 前記アレンジメントの車両は、両側のサイドウォールにおいて長手方向(前後方向)にずらした2つの戸口(doorway)を有しており、従って各サイドウォールは、戸口の両側にロングウォールセクション及びショートウォールセクションが形成される。サイドフィラーアネルは、ロングウォールセクションの内側にそれぞれ取り付けられる。車体には、パレット化された容器が満載されている。各容器は、サイドフィラーパネル及びバククヘッドによって所定の位置に保持される。 (e)発明の作用 バルクヘッドの代表例として2つのロードディバイダが戸口の作法に寄せられ、車体の一方の端壁との間に囲まれる奥部(deep end)のフロア領域に自由にアクセスできるようにしている。パレットは、順次車体内に配置され、サイドフィラーを所定の幅に調整することにより、それらパレットを定位置に確実に押し込める。このときに戸口のドアが閉じられ、第一ロードディバイダに最も近い6つのパレットの山に対して横方向の支えを提供する。そして第一ロードディバイダがパレットに向かって動かされ、これらを定位置にロックする。次に第二ロードディバイダが第一ロードディバイダの近くに仮留めされ、車体の他方の端壁側の部分(short end)に自由にアクセスできるようにしている。パテットが順次積み込まれ、これらパレットが横ズレしないようにサイドフィラーが調整される。 第二のロードディバイダに最も近い3つのサイドフィラーは、第二ロードディバイダと最も接近する6つのパレットを積み込む前に調整される。 そして最後に第二ロードディバイダがそれらパレットへ突き当たるように動かされ、これによりそれらパレットが固定され、ドアが閉じられる。 C本件特許出願の先行技術(引用例)は、次の通りです。 (a)Cook特許(米国特許第2,930,332号)は、特大の(oversized)扉開口を車体の対角線方向の両端に形成したレールロード用ボックスカーを開示しています。この構成は、材木を積み降ろしすることを容易とし、それらをパレット化するとともにリフトトラックで扱うことを容易とするものとして説明されている。 (b)Robertson特許(米国特許第3,212,458号)は、レールロードカー用の特殊なサイドフィラーパネルを開示しています。 (c)Anquino特許(米国特許第3,217,664号)は、レールロードカー用のバルクヘッドを開示しています。 (d)Lundvall特許(米国特許第3,163,130号)は、荷物の横ズレを防ぐためのサイドフィラーパネル及び荷物の前後方向(長手方向)のズレを防ぐためのバルクヘッドを備えたレールロードを開示しています。 [Cook特許] [Robertson特許] 24…バルクヘッド 34…サイドフィラー D本件特許出願に対する審決の内容は、次の通りです。 クレーム13、14、15は、Robertson特許、Anquino特許、及びLundvall特許を参照してCook特許から容易であるとして拒絶される。 E特許出願人の主張は次の通りです。 [主張1]前述の引用文献を組み合わることは不適当である。 [主張2]特許出願人の発明の商業的成功が非自明性(進歩性)の裏付けとなる。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、特許出願人の主張1に関して次のように判断しました。 (a)特許出願人は、複数の文献が不適当に組み合わされた旨を主張している。 “特にCook文献に関しては、長い縦方向のオフセットドアが開示されておらず、当該文献はバルクヘッド及びサイドフィラーを組み合わせるアレンジを提案していないというのである。これはCookが両サイドから同時に貨物を載せ、かつ貨物を降ろすことができる車両を強く望んだためである。特許出願人はそうした望みを持っていないし、本件発明はそうした望みに応えるものではない。” (b)当裁判所は、上記の主張を検討したが、説得力がない。文献を引用したり、(進歩性の)議論をするときの判断手法として次の考え方が確立されている。 “文献の組み合わせの是非を問うテストは、各文献がそれ自体で何を示唆しているかではなく、複数の文献の開示の組み合わせが全体として何を示唆しているかの問題である。” (c)自明性に関するいかなる判断も、ある意味で後知恵の理由によるものである。留意すべきことは、発明がなされた時点(※1)での当業者の知識の範囲で行われるべきであり、特許出願人が開示した内容のみから探り出される事項を含めるべきではないということである。 (※1)…これはこの判決が出た時点での進歩性の判断時です。現在では原則として特許出願の時を基準とします。 (d)Cookの特許は、パレット化された貨物をリフトトラックで運搬するのに適した車両を開示している。第2引例によれば、パレット化された貨物が縦横にシフトすることを防ぐためにサイドフィラーパネル及びバルクヘッドを用いることが良く知られているのであるから、当裁判所は、Cookの車両に同じ目的でサイドフィラーパネル及びバルクヘッドを用いることが、両文献により示唆されているものと認める。 A裁判所は、特許出願人の主張2に関して次のように判断しました。 (a)前記@(d)の判断は、本訴訟において決定的なものではない。特許出願人は、彼の発明が長年の問題(longstanding problem)を解決したとして証拠を提出しているからである。その問題とは、標準的な50フィートのボックスカーのスペースを最大限に有効利用すること、特に48インチ×40インチのパレットを、従来ならば46枚しか積載できなかったところを、56枚まで積載できるようにすることである。2つの宣誓供述書を含む証拠は、特許出願人の発明が商業的に成功していたこと、ライバル会社にも技術導入されていたことを示している。 (b)前述のような先行技術の開示からの自明性の推論は、一応確からしいものに過ぎず、米国特許法第103条の規定(進歩性)に関する最終の法律的をするに関しては、いわゆる2時的考察を行うことが必須である。 →2次的考察とは 381 U.S. 1 Graham v. John Deer Co., 特許出願人のクレームした発明は、比較的簡単な機械的概念に関する。しかしながら、先例が示す通り、“たとえ発明者が当該分野における古い技術を組み合わせただけであり、その固有の用途における結果を超えるものでないときであっても、特許法第103条(進歩性)の規定の範囲において、特許可能な発明が有効に成立し得る。” 405 F.2d 578 In re Sponnoble (c)第1の宣誓供述書は、本件特許出願の譲受人である会社の商業部門のマネージャーのものである。このマネージャーは、本件発明を備えたレールウェイ・カーが355台(800万ドル相当)も発注されたと証言した。その供述書では、関連する商業誌の記事及び広告が幾度も出され、これを基にスペースの有効利用という問題が需要者になじみのある事柄であると主張された。また或るライバル会社の広告は、その製品に特許出願人のアイディアが採用されたことを示している。 第2の宣誓陳述書は、利害関係のない第三者である会社の交通マネージャーのものである。彼は、会社の製品を出荷するためにレールロード・カーゴを用意するべき役割を負っており、本件発明が公開されるやいなやこれに興味を持ったと供述した。何故なら、トラックへの載貨を可能としつつ、車両の輸送キャパシティを実質的にすべて使用すると言う問題を解決するように思われたからである。 宣誓供述書は、さらに同社が特許出願人のアレンジを有する10両を既に保有し、さらに11両を発注し、さらに40両の購入に関して交渉中であると供述している。 (d)審査官は、この宣誓供述書を説得力があるとは考えなかったようである。 第2の供述書は、特許出願人のアレンジメントが従来のアレンジメントに比べて融通の利き(versatile)、かつ特別の補助具を必要としない旨を述べている。 審査官は、これらの供述がクレームに記載された発明に起因する商業的成功を裏付ける十分な事実を示していないと判断した。審判部は、どちらの供述書にもコメントしなかった。 (e)当裁判所は、前記宣誓供述書が特許出願人の主張を踏まえて次の問題の存在を示していることに納得した。 側方の戸口を有する車両の床スペースの中間部分をパレット化された商品が車両の長手方向および幅方向にズレないように利用するのが難しいこと。 さらに第2の宣誓供述書は、特許出願人の発明について好意的な意見を述べるとともに、前述の問題を解決するために本件発明のアレンジを備えた製品を追加注文した旨を述べている。 すなわち、供述書は本件特許出願に開示された手段が前記問題の解決手段になっていることを示している。 (f)前記アレンジメントは、ロングウォールセクション及びショートウォールセクションならびに車両の戸口の寸法の関係が車両の実質的な全容量までパレットを機械的に積載できることを必要とする。裁判所は、これらの特徴が本件特許出願のクレーム15によってもたらされることに気づいた。 このクレーム15は、サイドウォールのロングウォールセクション及びショートウォールセクションの幅がパレットの各寸法全部の倍数に等しく、かつ2つの戸口の向かい合う部分の幅がパレットの寸法の幾つかの倍数に等しいことを要件としている。 このクレーム15に関しては、2次的考察に関する特許出願人の証拠が前述の一応の自明性を覆すに足るものと認められる。他方、クレーム13、14については、前記問題を解決するクレーム15の特徴を欠いている。従ってこれらのクレームに対しては一応の自明性は覆らず、審決は維持される。 |
[コメント] |
@いわゆるグラハム判決とは、発明品の商業的成功は、発明の技術的困難性に光を照らすために2次的に考察することができます。 →グラハム判決とは なぜならば、裁判官は、発明者が発明をした時点(現行の米国法では特許出願がなされた時点)から随分時間を経てから進歩性を判断するため、その判断時の常識に捉われて発明者の工夫(特に一見簡単に見える工夫)の評価が辛くなってしまうおそれがあるからです。 こうした考え方は、我が国の進歩性審査基準にも導入されています。 Aしかしながら、その商業的成功は、発明の技術的価値とリンクしている必要があります。どの程度のリンクが必要なのかを考える素材として本事例を紹介します。 B本事例では、その商業的成功は、貨車のセンターにパレットを前後左右にズレないように(ぴったりと)詰め込むという課題に対する答えを提供することを評価したためでした。 C本件特許出願の3つのクレームの概要は次の通りです。 ・クレーム13(独立項)→前記課題を解決するためにパレットの横ズレを防ぐサイドフィラーと前後方向のズレを防ぐバルクヘッドを用いることを抽象的に説明したもの ・クレーム14→クレーム13の従属項であり、サイドウォールのロングウォールセクション及びショートウォールセクションの幅がパレットの各寸法全部の倍数に等しいということ(要件aという)を含む。 ・クレーム15→クレーム14の従属項であり、2つの戸口の向かい合う部分の幅がパレットの寸法の幾つかの倍数に等しいということ(要件bという)を含む。 D裁判所は、 課題の解決手段を作用的・抽象的に表現したクレーム13でも、課題解決手段の一部(要件a)のみを含むクレーム14でも、商業的成功による進歩性の存在を認めるに足りない、 課題の解決に必要な全部の手段(要件a及び要件b)を備えたクレーム15についてのみ進歩性を認める と判断しました。 |
[特記事項] |
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