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@基礎的要件導入の経緯
(イ)一般論として、知的財産の分野で権利を付与する方法には、方式的要件のみを審査して実体的要件(新規性・進歩性など)を審査しない無審査主義と、方式的要件及び実体的要件を審査する審査主義とがあると言われています。特許出願においては、権利の安定性を重視する見地から、審査主義を採用しています。
(ロ)実用新案法では、平成5年改正で、方式的要件と実体的要件との他に基礎的要件という概念を導入し、方式的要件及び基礎的要件は審査するが、実体的要件を審査しないという新しいタイプの無審査主義(無審査登録主義ということもあります)を採用しました。
(ハ)これにより、権利の早期権利化を図って、ライフサイクルの短い考案を積極的に保護しようとしたのです。
(ニ)単純に方式的要件のみを審査して権利を付与すると、方法の考案とか、物質の考案のように一見して保護の対象外であるものまで、登録され、無効審判を起こすまで権利が存在することになるため、不合理だからです。
A基礎的要件の内容
(A)実用新案登録出願に係る考案が物品の形状・構造・組み合わせに係るものでないとき。
これは特許出願にはない実用新案登録出願固有の要件です。方法の考案や物質の考案のように保護の仕方が難しいもの・産業活動に与える影響が大きいものを除外して、簡易な創作を簡単に保護するためです。
→実用新案登録出願による保護対象
(B)実用新案登録出願に係る考案が実用新案法第4条により登録できないもの(公の秩序・善良な風俗又は公衆の衛生をおそれがある考案)であるとき。
特許出願にも対応する規定(特許法第32条)がありますが、こちらは実体的要件として審査されます。
(C)実用新案登録出願が実用新案法第5条第6項第4号(経済産業省令違反)又は実用新案法第6条(単一性要件違反)により登録を受けることができないものであるとき。
単一性違反は、もともと手続的瑕疵であり、方式的要件に準ずるものですので、基礎的要件に含まれています。特許出願にも対応する規定がありますが、実体審査で対応しています。新規性や進歩性の拒絶理由を回避しようとして、新しい請求項を作って単一性の要件違反となる場合もあり、審査官が審査した方が都合がよいからです。
(D)実用新案登録出願の願書に添付した明細書・実用新案登録請求の範囲若しくは図面に必要な事項が記載されておらず、又はその記載が著しく不明確であるとき。
実質的に出願書類の体をなしていない場合、例えば実用新案登録請求の範囲に考案の技術的範囲の代わりに“関東全域”のような保護を求める地域が記載されている場合が該当します。特許出願の要件と一部重なりますが、基本的には独自の要件です。
B基礎的要件に違反している場合には、特許庁長官が相当の期間を指定して実用新案登録出願人に補正を命じます。
(イ)特許出願のように審査官が拒絶理由通知を出すのでなく、特許庁長官が補正命令を出すこととした理由は、
第1に、基礎的要件の判断には、技術的な専門知識が必要とされるものの、新規性・進歩性に比べて裁量が働く余地が少ないこと、
第2に、基礎的要件について拒絶理由通知を出すと、方式的要件違反に対する補正命令とが別々に出される場合が想定され、制度が複雑となること、
などが挙げられます。
C補正命令に従わないとき、又は補正によって不備が解消されなかったときには、実用新案登録出願が却下されます。
なお、却下処分に対しては行政不服審査法による異議申立及び行政事件訴訟法による提訴ができます。特許出願の不備に対して拒絶査定が出され、拒絶不服審判が請求できることと比較して、不服申し立ての手順は異なりますが、不服申し立てができることに変わりはありません。
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