パテントに関する専門用語
  

 No:  1079   

非自明性(進歩性)の判断・明示の示唆/特許出願の要件(外国)

 
体系 実体法
用語

非自明性(進歩性)の判断(明示の示唆)

意味  非自明性(Non Obviousness)とは、米国特許出願の発明の特許要件の一つであり、所定の判断時点において当業者が容易に想到し得ないこと(我国でいう進歩性を有しないこと)を言います。


内容 ①非自明性の判断の意義

 特許出願人の発明(クレームに記載された発明)が所定の基準時に先行技術から自明ではないことは、米国特許法においても重要な特許要件の一つです。

  米国の特許法では、判例が重要視され、古い判例の中には進歩性の基本的な考え方(日本の進歩性審査基準の骨格になっている部分)が裁判を通じて形成されていった過程が伺えます。

 そうした考え方は後に発明の教示(Teaching)・示唆(Suggestion)・動機付け(Motivation)に着目するTSMテストとなりました(→TSMテストとは)。そうした事例の中から、“発明の示唆は明示的なものでなくても良い”という見解を紹介します。

②非自明性の判断の内容

(I)347 F.2d 847 (In re Rosselet)・1965年7月1日判決言い渡し

(a)Rosseletが特許出願した発明は、炎症を抑えるために使用される医薬品(ステロイド化合物)です。

(b)クレームの記載は次の通りです。

“1−Dehydro(脱水素)–6;methyl(メチル)–16α–hydroxyhydrocortisone(ヒドロキシヒドロコルチゾン)。”

(c)便宜的に1−Dehydro(脱水素)–6→イ、methyl(メチル)–16α→ロ、ヒドロコルチゾン→ハ、ヒドロキシル化→ニと表します。

ここでコルチゾルとは副腎から分泌される代表的なホルモンであり、ステロイド或いは副腎皮質ホルモンと呼ばれる抗炎症剤の一種です。ヒドロキシル基は、R−OHで表されるものです。

(d)審査官では次の理由で出願を拒絶しました。

 特許出願に係る発明は、要素イ+ロ+ハ+ニからなる。

 イ+ロ+ハである引用発明1とイ+ロ+ニからなる引用発明2とが存在する。

 引用例2から本願発明の作用効果(タンパク質を糖化して血糖値を上げるという薬剤の機能を損なわずに、人体に塩分を溜めるという不都合を改善できるという作用)を読み取ることができる。

 本件特許出願の発明は、引用発明2を参照して引用発明1から自明である。

(e)特許出願人は、引用文献1、2に両者を組み合わせることにexpress suggestion(明示的な示唆)がないと反論しましたが、裁判所は引用文献1、2が本件発明の構成へ至ることを集合的に示唆していると判断しました。引用文献1、2がともに同じ分野(薬剤)に属すること、相互に共通する多数の属性を有することを考えられるからです。

(I)438 F.2d 999 (In re Sheckler) ・1971年2月25日判決言い渡し

 Shecklerは、耐荷重断熱性ブロックの特許出願をしました。これは2枚のコンクリート板の間に断熱性材料(発泡材)からなる介在レイヤーをサンドイッチ状に配置させています。

 主引用例は、コンクリート梁などの一部(中心部分)を発泡体で形成したものであり、部材の強度が必要な部分をコンクリートで、残りを発泡材料で形成することを開示していますが、3層をサンドイッチ状にすることを開示していません。

 副引用例は、2つの剛性層の間に発泡層を含む複数層を介在させることを開示していましたが、剛性層はコンクリートではなく、また3層のサンドイッチ構造でもありませんでした。

 特許出願人は、審判部が引用例を都合のいいように解釈し直しており、現実の引用例をそのまま組み合わせても本願発明の構成にはならないと主張しました。

 しかしながら、裁判所は、耐荷重性に優れた2つのコンクリート層の間に一定の広がりを有する発泡層を介在させることにより、耐荷重性能及び断熱性能を両立させたコンクリート製品を、2つの引用例から想起することは自明であり、両引用例を組み合わせるに当たり、副引用例の構成から前記課題に関係のない層を省略することは当業者にとって容易であると判断しました。


留意点

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