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1228 特許を受ける権利の予約承継/特許出願 |
体系 |
特許申請及びこれに付随する手続 |
用語 |
特許を受ける権利の予約承継 |
意味 |
特許を受ける権利の予約承継とは、職務発明についての特許を受ける権利(特許出願をする権利)を、使用者等と従業者等との間の事前の合意により、使用者等に帰属させることを言います。
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内容 |
@特許の受ける利益の予約承継の意義
(a)特許法第35条第2項は、従業者等がした発明については(→従業者等とは)、その発明が職務発明である場合を除き、予め使用者等に(→使用者等とは)特許を受ける権利を若くは特許権を予約承継させ、又は使用者などのため仮専用実施権若くは専用実施権を定めた契約・勤務規則・その他の定めの条項は無効とすると定めています。
前述の「職務発明である場合を除き」という文言から、職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に承継させることを、予め使用者等と従業者等との間で定めることを認めていると解釈されます。
もともと職務発明は、使用者等の業務の遂行に用いるために、使用者等が従業者等に給料を支払って完成させたものだからです。
(b)使用者等による職務発明の特許を受ける権利の承継は、使用者等と従業者等との契約に基づいて定められるものであるため、通説ではこれを民法にいう“予約”と解釈し(→予約とは)、これを予約承継と称します。
しかしながら、これに対しては、反対説もあります。 →職務発明についての特許を受ける権利の承継の意味(使用者等による)
(c)特許を受ける権利の予約承継の性質に関しても、これを特許を受ける権利の停止条件付きの譲渡契約と見る立場、予約完結権と見る立場などの対立があります。
→特許を受ける権利の予約承継の性質
(d)なお、平成27年改正により、特許を受ける権利を使用者等に原始的に取得させるように使用者等と従業者等との間で定めることができるようになりました(特許法第35条第2項)。
A特許を受ける権利の予約承継の内容
(a)特許を受ける権利の予約承継の一般的な手順は、次の通りです。
・職務発明をした従業者等が使用者等に発明届けを使用者等に提出する。
・会社は、当該発明についての特許を受ける権利を承継するか否かを決定する。
・承継すると決定した時にはその旨の通知をする。
・通知をした時には、当該発明について会社は別段の手続をすることなく特許を受ける権利を承継する。 →特許を受ける権利の予約承継の手順
(b)特許法施行規則第5条第2項には、「特許庁長官は、特許を受ける権利を承継した者の特許出願について必要があると認めるときは、その権利の承継を証明する書面の提出を命ずることができる。」と定められています。
従って、使用者等が従業者等から職務発明についての特許を受ける権利を予約承継し、当該権利に基づいて特許出願をしたときには、その承継を証明する書面(特許を受ける権利の譲渡証等)を保管しておくことが望まれます。
(c)特許を受ける権利の予約承継のデメリット
(イ)特許を受ける権利を“予約承継”の形で使用者等に帰属させる場合の問題は、例えば従業者等が自分の発明が会社の業務範囲に属すると考えずに、第三者に特許を受ける権利を譲渡し、第三者が当該発明の特許出願をしてしまった後で会社が事実関係を把握したときに対応に困ることです。
特許法第34条第1項が「特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定しているからです。
(ロ)使用者等としては、従業者等に対して第三者に特許を受ける権利を譲渡したのは契約違反であるとして賠償を求めることができるとしても、第三者である特許出願人に対して直接対抗措置をとることはできないからです。
(ハ)仮に第三者の出願が「特許を受ける権利を有しない者の特許出願」(特許法第123条第1項第6号)に該当するならば、使用者等は特許法74条第1項の特許権の移転請求ができますが、前述のケースでは従業者等である発明者は特許を受ける権利の原始的取得者であるため、そうした仮定は成り立たないと解釈します。
(ニ)こうした問題を避けるためには、特許を受ける権利を使用者等に帰属させるように定めることが有効です。この場合には、発明者である従業者等は、特許を受ける権利を最初から有しないため、発明者自身が特許出願をしても、或いは発明者と特許受ける権利を締結した第三者が特許出願をしても、冒認出願となります。また前述の特許移転請求の条件(特許法第74条第1項で規定する特許法第123条第1項第6号)の“特許を受ける権利を有しない者の特許出願”にも該当します。
→特許を受ける権利の原始的取得とは(使用者等による)
(ホ)もっともどちらの方法にしても、特許出願の手続の当初の段階で使用者等(会社)が関わっていないために不利益(会社が望む実施態様が明細書に十分に記載されていないなど)が生ずる可能性は避けられません。
これを回避するためには、職務発明と何かを従業者等に十分に周知させること、研究開発の管理を適切に行うことが必要であると考えます。
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